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番外編

残されたメモ 2

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 お茶を飲みながら、新たに見つかったメモを改めて見る。
 ちなみに3人に関するメモは没収されてしまった。

 かなり赤裸々なイベント内容に、改めてルーシェは赤面してしまう。

 その中の一つに、気になるものを見つけた。
 
「え……?」


(これって……)

 それは特別講師アルベルトのイベントだった。

 声に気づいたのか、ルーシェが難しい顔をしてメモを見ていると、すかさず仕事をしていたウィルソンが訪ねる。

「ルー、どうした?」

「あ、いえ…ちょっと気になる事がありまして……」

「なんだ?」

「実は、アルベルト先生のイベントみたいなんですが……ボロアパートの幽霊事件って書いてあって……もしかして、私が初めに住んでいたあのアパートのことかなって」

「詳しく書いてないのか?」

「…はい……ここには先生が女生徒に相談され、ヒロインと一緒に見に行く…としか書かれていないです」

 
(まさか、あのアパートの声がゲームのイベントかもしれないなんて………しかもこの女生徒って、もしかして私のこと?)


 ルーシェはこの乙女ゲームをやったことがないし、自分がそこに出ているかなんて全くわからない。

 自分は始めからこの乙女ゲームに毒されていたのかと、気が滅入ってくる。

 でもあれが無ければ、今こうしてウィルソンと一緒にいる未来はなかった。
 ルーシェが寮に入れず、あのアパートでの喘ぎ声で悩まされていなければ、たぶん自分は普通に学園に通い卒業し、何事もなく職業に就き、また結婚もしないまま生涯を終えたかもしれない。

 そう思うと不思議だ。
 
「気になるなら、行ってみるか?」

「え?いや、気になる訳ではないのですが……」

 イベント内容がわからない為、迂闊に行って面倒なことになるのは嫌だ。

 しかもこの乙女ゲームは、たぶんR18の年齢制限があるものだと思う。
 そのイベントってことは、そういうことだろう。

(うん、絶対行かない!)

 ルーシェは固く心に誓う。

「え?なになに?何の話?」

 それを運悪くエミリオが聞いてくる。しかもウィルソンがわざわざ丁寧に説明している。

「へぇ~、何だか面白そうだね!ちょっと二人で調査してきてよ」 

 エミリオがとんでもない爆弾を投下する。
 ルーシェが間髪いれず断りを入れる。

「申し訳ございませんが、行きません」
「どうして?」

 断られると思っていなかったのか、意外そうに返される。何かに気づいたのか、探りを入れてくる。

「どうしても行きません!」

「そんなに拒絶するなんて、なんか怪しい~」

「なんなら俺も一緒に行こっか?」

 何も知らないグレンが、親切心で言ってくれるが、それどころではない。

「いえ、大丈夫です!とりあえず私は、絶対絶対行きません!!」

 不敬が何だと、最後まで抵抗したルーシェだったが、エミリオがにっこり笑いながら王族の権力を出してきて、敢えなく撃沈する。
 
(絶対さっきの仕返しだー!)

 ルーシェは心の中で抗議したが、取り消されることはなかった。





 ◇◇



 次の休日、仕方なくウィルソンと共にあのアパートに向かう。


 ここに来るのもかなり久しぶりだ。
 もう来ないものだと思っていたが、何故こうなったのか…迂闊に喋ってしまった自分を呪いたい気分だ。

 とりあえず事情を話し、大家さんから鍵を借りた。返すのはいつでも大丈夫だと言ってくれた。

 建物自体もかなり古く、歩く度にギシギシと床がなる。

「ここが、以前住んでいた所か?」

「はい。ひどい場所ですよね……」

「良くこんな危ない所に、一人で住んでいたな」

 ウィルソンは廊下を歩きながら、顔をしかめながら話す。

「えぇ、本当に……あの頃はお金もないし、学園に通うのに必死で、考えている暇もありませんでしたから」

「君は本当に、昔から苦労していたんだな」

「そんなことはありません……自分で決めたことですし、そのおかげでこうしてウィル様と出逢えました」

「ルー…」

 ウィルソンが熱っぽくルーシェを見てくるが、イチャイチャしてる場合ではない。
 
「あ、あそこの部屋です」
 
 以前ルーシェが住んでいた部屋の前まで着いた。
 今このアパートは誰も住んでいないらしい。
 それを横切り、隣の部屋へ向かう。
 
「私が先に入る」

 そう言ってウィルソンが鍵を回し、部屋の扉を開けた。

 中に入ると、そこはルーシェが借りていた部屋と何ら変わらない間取りだった。

 机と椅子、小さなベッドがあり、奥には浴室がある。窓から陽が入り、部屋を明るく照らしている。

「見たところ、変わったことはなさそうだが」

「はい。私が借りていた部屋と同じですね」

 しかし、ルーシェが声を聞いていたのは真夜中だ。
 ウィルソンは部屋を見て回っているが、おかしなところは何もない。

「特に何もない様ですし、このまま帰りましょう」

「確か、君が声を聞いたのは夜中だと言っていたな」

 ルーシェはそれを聞いて焦る。だいぶ前の話を、良くウィルソンは覚えていたものだ。

「え…っと、そうでしたっけ……」

 視線を泳がせて、その場を切り抜けようとするが、そんなものは通用しなかった。

「ルー……誤魔化そうとしても無駄だ」

 ウィルソンにばっちりバレている。
 ルーシェは最後の抵抗とばかりに、ウィルソンに泣きつく。

「ウィル様!きっとろくなことになりませんから、このまま帰りましょう!」

「殿下が調べてこいと言われたのに、成果も上げず帰るわけにはいかない」

(多分調べても、報告出来る内容じゃないと思う!)

 真面目なウィルソンに、ルーシェは心の中で突っ込みを入れる。
 だが、どんなに言ってもウィルソンは引かないだろう。
 
 ルーシェはため息をつき、肩を落とした。











 
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