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本編
転生者
しおりを挟む先ほど寝ていた部屋を移動し、執務室に戻る。
ルーシェはソファーに座り、その隣にウィルソンも座ってくれた。
対面のソファーにエミリオとグレンも腰かける。
「それで、ルーシェ嬢……君は一体何者なんだい?」
その言葉に身体が強張るが、隣でウィルソンが手を握っていてくれる。
その手の温かさに安心する。
ルーシェは覚悟を決め、話し始めた。
「実は、私は………」
室内が静寂しており、ルーシェの声が良く響く。
「私は………転生者なのです」
3人が不思議そうな顔で驚く。
「てん…せい…しゃ?」
エミリオが顔を少し顰め、呟くように話す。
「てんせいしゃ……とは何だ?」
「あぁ、聞いた事がないな」
この世界に輪廻転生という考えはあるにはあるが、あまり信じられていない。
なので、転生者という言葉も存在していない。
「私は、こことは全く違う世界で、違う人物として暮らしていました。そして、そこで命を落とし…今度は、こちらの世界で、今の自分として生まれ変わったのです」
「それが、転生者なのか?」
「はい」
3人が黙る。
自分の突拍子もない話を真剣に聞いてくれていた。
沈黙が続く中、先に口を開いたのはエミリオだった。
「君は…只者じゃないと思っていたけど……僕の予想を遥かに越えてきたね」
ウィルソンが難しい顔で呟く。
「転生者…か……では、君は以前、異世界の住人だったということなのか?」
「……はい」
握られていた手に力が入る。どう思われているのか怖くて、顔が見れない。
「ねぇ、こことは違う世界っていうのは?」
エミリオが腕を組みながら聞いてくる。
「こことは別次元で、この世界よりも遥かに文明が進んでいた世界です」
ソファーの上でグレンが頭を抱える。
「え、え?ちょっと待ってくれよ!俺、意味がわからない!」
無理もない。急に言われてもにわかに信じ難い話だ。
真剣な顔で隣のウィルソンが問う。
「ここと全く違う世界なのか?」
「はい………ただ一つだけ共通点があって………」
「共通点?」
「その共通点………というのが、そのクレア様の残したメモなのです」
「「「──!」」」
またもや室内が静まりかえる。
初めに口を開いたのはやはりエミリオだった。
「なるほど……そうか、もしかしてこの文字がどこを探しても見つからないのは……」
「はい。それは私が前世で使用していた文字です」
「……では、あの偽物もその転生者、ということか」
「……恐らくは」
また沈黙が落ちる。
「──ちょっと休憩しませんか?俺、頭が混乱して、話についていけない」
ソファーに座っていたグレンは、疲れた様に両手で顔を覆う。
こんな突拍子もない話を真剣に聞いてくれて、ましてや信じてもらえるとは思えないけど、意外な程エミリオとウィルソンは納得してくれている。
むしろグレンの反応の方が普通なのだ。
「そうだね……長くなりそうだし。今日はこの辺にしてお茶でも淹れようか………あ、そうだ。ルーシェ嬢、もう遅いし、ここに泊まっていきなよ」
「え?泊まりですか??」
いきなり王宮に泊まるって!大丈夫なの?
チラリとウィルソンの方を見ると、笑って頷いてくれる。
「ルーシェ嬢、安心してよ!ちゃんとウィルと同じ部屋にしておくからさ」
「──なっ!」
エミリオがニッコリと笑顔で返してくる。その笑顔が胡散臭くて、明らかに面白がっているのが手に取るようにわかる。
(それって、全然安心じゃないよ~!)
顔が赤くなり、手で頬を包む。
「あ、あの…出来れば、別のお部屋で……」
ウィルソンがすかさず隣から肩を抱いて、囁く。
「ルー……楽しみだな」
横を見上げると、薄紫の瞳が妖しく光る。
「別の……」
「お!きたきた食べようぜ~」
侍女がお茶とお菓子を運んで入ってくる。
グレンの声で拒否しそびれてしまう。
(私、大丈夫かな………)
ルーシェはイヤな予感がして、せっかく飲んだ高級なお茶の味がわからなかった。
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