上 下
65 / 113
続編

隠しキャラ 2

しおりを挟む
 

 ライオルに横抱きされ、お屋敷のエントランスホールに入ってきたルーシェとライオルを見たウィルソンは、吃驚して固まってしまった。

「ラ…イル、何をしている?」
 
 ライオルは何事もないふうに話し出す。

「ウィルか。なぁ、こいつ連れて帰ってもいいか?」

「「はっ?」」

 ウィルソンとルーシェが同時に不満の声を漏らす。
 
(私は物じゃないんだけど!)

 ウィルソンは鋭くライオルを睨み、冷たい口調で言い放つ。

「ライル……ルーは私のモノだ。連れて帰るなど…例え友人でも許しはしない」
 
 ウィルソンが殺気を出しながら牽制している。
 それを見てライオルは更に愉しそうに笑う。

「これは珍しい……ウィルがこれ程感情を露にするとは」

 ライオルの腕に抱き上げられながら、ルーシェは思った。

(お願いだから、私の意見をちゃんと聞いてよ!!)



 あれから睨み合いになり、見かねたクラウスが止めに入った。
 ウィルソンがライオルからルーシェを奪い取り、今度はウィルソンに抱えられ、手当てして貰うことになってしまう。
 それでも自分でやると全力で拒否したのだが、聞き入れて貰えなかったのだ。


 そして今、応接室のソファーで三人で座っているのだが、ルーシェはかなりの居心地の悪さを感じている。
 
(私……居なきゃダメ?)

 とても逃げ出したい気分の中、先に口を開いたのはルーシェの隣に座っていたウィルソンだ。

「それで?何故ルーが怪我をして、ライルに抱えられて戻ってきたんだ?」

 口調にかなりの苛立ちが含まれている。
 ルーシェは自分が悪い訳でもないのに、なぜか罪悪感を持ってしまっていた。
 そんなことはお構い無しのライオルは、向かい合ったソファーに優雅に腰掛けながら話し出す。

「ああ、コイツが打ち込みしてるのを見かけてな。そこで手合わせしたんだ」
「その時に怪我をさせたのか」
「そうだ。少し本気を出してしまってな。悪いことをしたが、俺が本気を出せるヤツは中々いない。ましてや女でここまで出来る者もな」

 そう言ってライオルは笑ってルーシェを流し見る。
 これだけの美形に見られると、ルーシェは真っ赤になってしまう。未だにこの手の男は苦手なのだ。

 それを見て面白くないのはウィルソンだ。自分以外の男に頬を染めるのは許しがたいものがある。

「ルーは私の婚約者だ。誰にも渡さない。無理に連れて行くというなら手段は問わない」

「ふっ……あのウィルがここまで執着を見せるか…女相手に」

 ウィルソンの、まるで敵に向けるような鋭く冷たい瞳に、ルーシェはゾッとしてしまう。
 面白いものを見るかのように、ライオルはウィルソンを眺める。
 
 ルーシェはそんな二人を見ておろおろしてしまう。
 何故こうなってしまったのか甚だ疑問なのだが、とりあえず自分を無視して、話を勝手に進めないでほしい。

 気まずい雰囲気を壊してくれたのはクラウスだった。

「坊っちゃま方、そろそろ出発しないと遅れてしまいますよ」

 ナイスなタイミングで入って来てくれた。

(クラウスさん、大好き!)

 今日は登城する予定らしい。
 この場から解放される喜びで、ルーシェは安堵してホッと胸を撫で下ろす。

「今行く」

「ああ、そうだ。今夜の晩餐にまたあの料理人を呼んでくれないか?あの味が忘れられなくてな」

 ライオルが思い出したようにクラウスに頼んでいる。
 
(もしやそれは、私のことか?)

 クラウスがチラリとルーシェを見る。ルーシェは慌てて首を振った。

「本日は他の場所に行っておりますので、晩餐にはお呼び出来ないかと思われます」
「どうしてもダメなのか?俺が直接行って話をする」

 その言葉にルーシェはギョッとしてしまう。
 あの時はジェフが病気で仕方なく代理をしたのだ。気に入って貰えたのは嬉しいが、自分は専門の料理人ではない。
 中々引き下がらないライオルに、クラウスが困り果てていた。
 見かねたルーシェが思わず口を挟んでしまう。

「申し上げございませんが、本日は怪我をしておりますので、お作り出来ません」
「ルー!」
「まさか……お前があの時の料理人か?」
「左様でございます」
「これは本気で欲しくなってきたな」
「はっ?」

 ウィルソンがルーシェを守るように抱きしめる。

「ウィ、ウィル様?」
「ライル……」

 見たこともないような怖い顔で威嚇しながら、凄まじい殺気を放つウィルソン。
 ルーシェはその様子に驚いてしまう。

「流石ウィルが選んだだけあるな。手に入れるだけの価値はある」

 腕を組み、獲物を狙う動物のような目でルーシェを見る。
 
 怖い。

 本能的にそう思った。この瞳に捕らわれたら、ウィルソンと引き離されてしまいそうで。
 ルーシェもウィルソンにギュッとすがりつく。

「無理やり奪うような真似はしないさ。ようは俺に、着いて来たいと思わせればいいんだろう?」

 ニヤリと笑い、ウィルソンを挑発する。
 
「何度も言うが、彼女は婚約者だ。ライルに着いて行くことはあり得ない!」

婚約者だろ?」

 
 バチバチと音が聞こえそうな程の二人のやり取りに、ルーシェはソッとため息を吐く。


 どうやらまた大変なことに巻き込まれたようだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

処理中です...