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本編
覚悟 ※
しおりを挟むしばらく抱きしめてもらい、ルーシェは落ち着いた。
「もう、平気か?なにか欲しいものはあるか?」
ウィルソンの気遣いが嬉しい。水差しを見ながら聞いてくる。
「……が欲しいです」
「ん?…何だ?」
「…ウィル様の、口付けが欲しいです……」
「な……!」
ウィルソンが驚き、珍しく顔がほんのり赤くなっている。
その秀麗な顔が近づき、唇に触れる。
触れ合うだけのキスがどこかもどかしい。
「んっ……もっと、して……」
少し唇を離し、ルーシェが情欲に染まった声で囁く。
そして挑発する様に、ウィルソンの唇の端を自らの舌先で軽くペロッと舐める。
「……っ!」
その言動に後頭部に手が添えられ、グッと引き寄せられる。更に深く口付け、貪るように舌を入れる。
「んん!……ふっ…ん」
「……あまり煽るな……止まらなくなる!」
唇を離され、唸るように言葉を放つ。
再び舌を吸われ、絡めながら舐められる。気持ち良さに何度も身体がビクビクと跳ねる。
「はっ……ふぅ、んっ……」
「…ルー…愛してる」
その甘い熱の帯びた言葉に、身体の奥が疼く。
ダメだ。自分の方が煽られる。
背中に回した手に力が籠る。飢えるようにこの熔けそうな熱を甘受する。
(もっともっと欲しい……)
止まらないのはルーシェの方だった。
身体が熱くて触って欲しくて堪らない。
「ん…ぅ…ウィル様……」
──コンコン
ふいに扉を叩く音が響く。
驚きに身体が跳ねた。一気に熱が引き、頭がクリアになって行く。
「……はい」
名残惜しそうに唇を離したウィルソンが、舌打ちしながら不機嫌そうな声で返すと、扉の向こうから声がかけられる。
「えーっと、入って大丈夫かな?ルーシェ嬢……裸とかになってないよね?」
「!!」
顔から火が出そうだ。
今の今まで忘れていたが、そういえば王宮で倒れたのだ。
「……まだ途中なので、大丈夫です」
「!ウィ、ウィル様!」
ぶっちゃけすぎのウィルソンにルーシェは焦る。恥ずかしいからあまり暴露しないでほしい。
「開けるよ~。…あ、大丈夫そうだね。顔色もいいし……かなり赤いけどね」
エミリオが紅い瞳を楽しそうに目を細めながら笑う。
「いや~倒れた時は吃驚したぜ」
グレンも入ってくる。どうやらここは隣室のようだ。
「一応侍医に見てもらったけど、原因が良くわからなくて…休めば大丈夫だとは言われたけど…ウィルが死にそうな顔して心配してたよ」
そう言われてウィルソンを見る。確かに起きた時、ウィルソンの顔色も悪かった。
「ご心配おかけして申し訳ございません!もう大丈夫です」
「そう、良かった!…今日はもう、帰るかい?」
「お気遣いありがとうございます。本当にもう平気です。ちょっと急に…目の前が、真っ暗になってしまって……」
そう言ってルーシェは俯く。
その様子にエミリオは先ほどから思っていたことを口に出す。
「…………ねぇ、ルーシェ嬢。もしかして、あのメモを見て、倒れたの?」
「──!」
ズバリ言い当てられ、言葉が出ない。
違います、と一言言えばいいのに出なかった。
正直あのメモはスゴく気になる。
倒れてしまったから、少ししか読めなかったが、もっとじっくり見たい。
でもそれを見るには、自分のことも話さなくてはならない。
それを話したことで、何かが変わるのが怖い。
「まさか、ルー…あの文字が読めるのか?」
「えっ!嘘だろ?マジか?!」
ルーシェは考えるが、答えは出なかった。
もしウィルソンがルーシェの前世を知ったらどう思うのだろうか。
そもそも信じて貰えるのかも疑問だ。
これをきっかけに嫌われたりしたら、生きていけない。
「ルー……大丈夫か?」
「……え?」
「また涙が……」
知らない内に涙が出ていた。ウィルソンが顔を近づけ、涙を吸いとってくれる。
「ウィル様……」
「なんだ?」
掛けられていた毛布を握る手が震える。
間近にあるウィルソンの顔を伺う様に強張りながら見つめる。
「私が……私が、何者でも…側に、いてくれますか?」
決死の覚悟で聞いた。
ウィルソンはルーシェの双眸をしっかり見ながら微笑む。
「約束したはずだ。私はずっと、君の側にいると」
「ウィル様……」
嬉しくて、また涙が出る。ウィルソンのおかげで覚悟ができた。
***************************************
読んでいただきありがとうございます!
次回の更新で本編に直接関係ない《挿話》を挟みます。飛ばしてもらっても構わないです。
よろしくお願いします。
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