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本編
舞踏会
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当日
(はぁ………やだな……)
朝から舞踏会の仕度が始まる。どこからか手配された侍女の方々に浴室に連れて行かれ、隅々まで身体中を磨かれる。
お世話されることに慣れていないルーシェは、自分で洗うと抵抗したが、無意味だった。
フラフラになりながらオイルマッサージやお手入れをされていく。それだけで数時間かかった。その後、化粧を施される。
ルーシェは化粧をほぼしないので、本格的な化粧は今日が初めてだ。
「ルーシェ様は可愛らしいお顔立ちなのですが、ウィルソン様から濃い目に化粧をしてほしい、と言われているので、月の女神の様な綺麗系を目指しましょう!」
「は?はぁ…よろしくお願いします……」
言っている意味がわからない。この人は大丈夫だろうか。何がどう間違っても、私が女神になるはずがないのだ。
なすがままお化粧を任せ、ドレスと装飾品を身につけてもらう。香水は苦手なので香油のみにしてもらった。
ドレスにも初めて手を通したが、とても一人で着れる代物ではなかった。
髪は複雑に編み込まれ一括りにして上に纏められ、飾りを付けられる。
肩にレースが遇(あし)らわれた薄紫色のドレスに金糸の刺繍が入り、キラキラとした宝石が所々散りばめられていて、ドレスが揺れる度に煌めく。
(これかなり高価なドレスだよね……汚したらどうしよう………)
高そうなドレスに尻込みしているルーシェを余所に侍女達は仕度の整ったルーシェを見てキャアキャア騒ぐ。
「まぁ!!素晴らしいですわ!これはまさしく月の女神の様に美しいですわ!」
「本当にお綺麗です!この美しさは春の妖精じゃないかしら?」
「あら、違いますわ!夜空に輝く星の精よ!」
(もう勝手にやって……)
盛り上がりを見せる彼女たちを尻目に、ルーシェは改めて姿見の前に立つ。
(しかし、すごい変わり様だな……)
侍女たちの言うことは大袈裟だが、それでも普段のルーシェからは想像もつかない容貌だ。ルーシェのアーモンド型の瞳は瞼にアイラインを引かれ、少したれ目がちに見える。唇もいつもと違い艶々に潤っていた。
たぶん知り合いがいても、ルーシェだとは気付かれないだろう。ウィルソンが濃い化粧といったのはそういう意図があったのかもしれない。
女神とまではいかないが、どこかの深窓のご令嬢くらいには見えるだろう。
「そろそろお時間ですので、ウィルソン様の元へ参りましょう!きっとお喜び頂けますわ!」
「えぇ、えぇ、本当に!ウィルソン様もルーシェ様のお美しさに見惚れてしまうと思いますわ」
「他の殿方に無体なことをされないようにお気をつけあそばせ!こんなに可愛らしかったら食べられてしまいますわ!」
「…………………はい」
またまた盛り上がる侍女たちに、最早かける言葉は見つからなかった。
誉め言葉を言うには大袈裟過ぎる。
そもそも自分が綺麗とか可愛いとか、そういう言葉には縁がないのだ。
自分が綺麗見えるのは、この素晴しいドレスと装飾品のおかげだから。
ゆっくりとした所作でエントランスホールに向かう。そこには沢山の使用人と、正装をしたウィルソンが待っていた。濃紺のブラックタイに身を包んだウィルソンは正直言って見惚れるくらい素敵だ。好きか嫌いかは別にして。
階段から降りるルーシェを見上げ、ウィルソンが目を見開く。
「───っ」
「申し訳ありません。お待たせ致しました」
「……いや………」
下に降り、転ばなかったことにホッとする。一応今日は婚約者(仮)なので、なるべく側に寄ることに。近くまで来るが、緊張でドキドキしてウィルソンを直視出来ない。
「良く似合っている。見違えた」
「あ、ありがとうございます………クロウド様も、とても素敵です」
こういうのは大体は社交辞令だ。
誉められたことを本気に取ってはいけない。
「では、行ってくる」
「「「「いってらっしゃいませ」」」」
使用人達に見送られ、ウィルソンはルーシェに手を差しだし、エスコートしてくれる。
二人は馬車に乗り込み、王宮へと向かった。
馬車の中ではこれからの打ち合わせが話されていた。
「これから王宮に向かうが、基本的には私の側に居て、誰かに話かけられても無理に返すことはない」
「畏まりました。もし私の素性を問われたらどうお答えすれば宜しいですか?」
「それについても出来る限り私が答える。一応君は私の婚約者で、君の名前はルージュ。遠く離れた辺境から来たということにしておく」
「………ルージュ、でございますね。畏まりました」
「私のことはウィルソンと呼んでくれ。愛称でもいい」
対面で馬車に座っているので、ウィルソンの顔が良く見えるが、愛称と言われ思わずマジマジと見てしまった。
(あ、愛称……?っていうと、ウィルソン様だからウィル様?とかそんな感じ?いやいや、無理!無理だよ!)
そんな考えに頭を振る。
「ウィルソン様…と呼ばせていただきます」
「そうか……では私は、ルーと呼ばせてもらう」
「る、ルーですか?……畏まり…ました」
いきなりの呼び方に驚きを隠せない。両親や兄姉は良くそうやって呼んでくれたが、ウィルソンが呼ぶと違う名前に聞こえてしまう。
まあ、でも仲睦まじい姿を見せたいのなら、効果的かもしれない。
「あと、もう少し砕けた話し方にしてくれないか」
「それは………善処いたします……」
「あぁ、よろしく頼む」
とりあえず打ち合わせも終わり、ウィルソンは腕と脚を組み、窓の外を見ていた。
ルーシェは下を向いてひたすら考える。
(私が坊っちゃんに馴れ馴れしくなんて、どうやって話していいかわからない。とりあえずニコニコして笑ってればいっか。後は坊っちゃんに任せよ)
そして良いタイミングでお城に着いた。先にウィルソンが降り、ルーシェが降りるタイミングで手を差し伸べてくれる。
ウィルソンに手を添え、馬車から降りると目の前には王宮が聳え立つ。
(わあ~!!スゴい大きい!ゴージャス!さすが王宮!!)
初めて見るお城に開いた口が塞がらない。お城なんておとぎ話くらいでしか見たことないけど、そのまんま現実として目の前に広がっている。
「では、行こうか……ルー」
愛称呼びが慣れず、なんだかむず痒い。
腕を組むように差し出され、スッと手を置く。
「はい。ウィルソン様」
自分なりに優雅に微笑み、会場へと向かう。もうすでに、戦いは始まっているのだ。これから終わるまでは気が抜けない。
(はぁ………やだな……)
朝から舞踏会の仕度が始まる。どこからか手配された侍女の方々に浴室に連れて行かれ、隅々まで身体中を磨かれる。
お世話されることに慣れていないルーシェは、自分で洗うと抵抗したが、無意味だった。
フラフラになりながらオイルマッサージやお手入れをされていく。それだけで数時間かかった。その後、化粧を施される。
ルーシェは化粧をほぼしないので、本格的な化粧は今日が初めてだ。
「ルーシェ様は可愛らしいお顔立ちなのですが、ウィルソン様から濃い目に化粧をしてほしい、と言われているので、月の女神の様な綺麗系を目指しましょう!」
「は?はぁ…よろしくお願いします……」
言っている意味がわからない。この人は大丈夫だろうか。何がどう間違っても、私が女神になるはずがないのだ。
なすがままお化粧を任せ、ドレスと装飾品を身につけてもらう。香水は苦手なので香油のみにしてもらった。
ドレスにも初めて手を通したが、とても一人で着れる代物ではなかった。
髪は複雑に編み込まれ一括りにして上に纏められ、飾りを付けられる。
肩にレースが遇(あし)らわれた薄紫色のドレスに金糸の刺繍が入り、キラキラとした宝石が所々散りばめられていて、ドレスが揺れる度に煌めく。
(これかなり高価なドレスだよね……汚したらどうしよう………)
高そうなドレスに尻込みしているルーシェを余所に侍女達は仕度の整ったルーシェを見てキャアキャア騒ぐ。
「まぁ!!素晴らしいですわ!これはまさしく月の女神の様に美しいですわ!」
「本当にお綺麗です!この美しさは春の妖精じゃないかしら?」
「あら、違いますわ!夜空に輝く星の精よ!」
(もう勝手にやって……)
盛り上がりを見せる彼女たちを尻目に、ルーシェは改めて姿見の前に立つ。
(しかし、すごい変わり様だな……)
侍女たちの言うことは大袈裟だが、それでも普段のルーシェからは想像もつかない容貌だ。ルーシェのアーモンド型の瞳は瞼にアイラインを引かれ、少したれ目がちに見える。唇もいつもと違い艶々に潤っていた。
たぶん知り合いがいても、ルーシェだとは気付かれないだろう。ウィルソンが濃い化粧といったのはそういう意図があったのかもしれない。
女神とまではいかないが、どこかの深窓のご令嬢くらいには見えるだろう。
「そろそろお時間ですので、ウィルソン様の元へ参りましょう!きっとお喜び頂けますわ!」
「えぇ、えぇ、本当に!ウィルソン様もルーシェ様のお美しさに見惚れてしまうと思いますわ」
「他の殿方に無体なことをされないようにお気をつけあそばせ!こんなに可愛らしかったら食べられてしまいますわ!」
「…………………はい」
またまた盛り上がる侍女たちに、最早かける言葉は見つからなかった。
誉め言葉を言うには大袈裟過ぎる。
そもそも自分が綺麗とか可愛いとか、そういう言葉には縁がないのだ。
自分が綺麗見えるのは、この素晴しいドレスと装飾品のおかげだから。
ゆっくりとした所作でエントランスホールに向かう。そこには沢山の使用人と、正装をしたウィルソンが待っていた。濃紺のブラックタイに身を包んだウィルソンは正直言って見惚れるくらい素敵だ。好きか嫌いかは別にして。
階段から降りるルーシェを見上げ、ウィルソンが目を見開く。
「───っ」
「申し訳ありません。お待たせ致しました」
「……いや………」
下に降り、転ばなかったことにホッとする。一応今日は婚約者(仮)なので、なるべく側に寄ることに。近くまで来るが、緊張でドキドキしてウィルソンを直視出来ない。
「良く似合っている。見違えた」
「あ、ありがとうございます………クロウド様も、とても素敵です」
こういうのは大体は社交辞令だ。
誉められたことを本気に取ってはいけない。
「では、行ってくる」
「「「「いってらっしゃいませ」」」」
使用人達に見送られ、ウィルソンはルーシェに手を差しだし、エスコートしてくれる。
二人は馬車に乗り込み、王宮へと向かった。
馬車の中ではこれからの打ち合わせが話されていた。
「これから王宮に向かうが、基本的には私の側に居て、誰かに話かけられても無理に返すことはない」
「畏まりました。もし私の素性を問われたらどうお答えすれば宜しいですか?」
「それについても出来る限り私が答える。一応君は私の婚約者で、君の名前はルージュ。遠く離れた辺境から来たということにしておく」
「………ルージュ、でございますね。畏まりました」
「私のことはウィルソンと呼んでくれ。愛称でもいい」
対面で馬車に座っているので、ウィルソンの顔が良く見えるが、愛称と言われ思わずマジマジと見てしまった。
(あ、愛称……?っていうと、ウィルソン様だからウィル様?とかそんな感じ?いやいや、無理!無理だよ!)
そんな考えに頭を振る。
「ウィルソン様…と呼ばせていただきます」
「そうか……では私は、ルーと呼ばせてもらう」
「る、ルーですか?……畏まり…ました」
いきなりの呼び方に驚きを隠せない。両親や兄姉は良くそうやって呼んでくれたが、ウィルソンが呼ぶと違う名前に聞こえてしまう。
まあ、でも仲睦まじい姿を見せたいのなら、効果的かもしれない。
「あと、もう少し砕けた話し方にしてくれないか」
「それは………善処いたします……」
「あぁ、よろしく頼む」
とりあえず打ち合わせも終わり、ウィルソンは腕と脚を組み、窓の外を見ていた。
ルーシェは下を向いてひたすら考える。
(私が坊っちゃんに馴れ馴れしくなんて、どうやって話していいかわからない。とりあえずニコニコして笑ってればいっか。後は坊っちゃんに任せよ)
そして良いタイミングでお城に着いた。先にウィルソンが降り、ルーシェが降りるタイミングで手を差し伸べてくれる。
ウィルソンに手を添え、馬車から降りると目の前には王宮が聳え立つ。
(わあ~!!スゴい大きい!ゴージャス!さすが王宮!!)
初めて見るお城に開いた口が塞がらない。お城なんておとぎ話くらいでしか見たことないけど、そのまんま現実として目の前に広がっている。
「では、行こうか……ルー」
愛称呼びが慣れず、なんだかむず痒い。
腕を組むように差し出され、スッと手を置く。
「はい。ウィルソン様」
自分なりに優雅に微笑み、会場へと向かう。もうすでに、戦いは始まっているのだ。これから終わるまでは気が抜けない。
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