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本編
乙女ゲーム?
しおりを挟む次の日の早朝。
早起きしたルーシェは調理場まで来ている。
早速ライオル皇子のお土産に渡すケーキを作っていた。
昨日ライオルが気に入って食べていたのは、ガトーショコラだ。作り方は割りと簡単なので多目に作って冷やしておいた。これなら後でみんなも食べれるだろう。
この世界の砂糖は高価で中々買えないのだが、クロウド侯爵家では沢山置いてあるので惜しみなく使える。
ジェフもまだ伏せっているので、朝食はルーシェが作った。ついでに残り物でお弁当を詰める。
簡単にスープとパンとサラダ、ハムエッグなどを作る。フルーツも何個かカットして盛り付けた。
(よし、私もそろそろ準備しないと……。)
後は給仕の人に任せよう。冷えたガトーショコラをラッピングして、クラウスに渡した。みんなの分のケーキもあると伝えると、喜んでお礼を言われた。
今日は用事があるため、早めに学園に行かなければいけなかった。支度を終えると早々裏道に向かった。
◇◇◇
侯爵家から学園の裏側に続く林を抜けると、校舎が見える。
裏道から正門に向かう途中の林の中に、誰かがいる。しかも何やら見覚えのある人物だ。
(あれって、昨日いたピンクの美少女?)
昨日の派手な美少女は、どうやら同じ学園の生徒だったようだ。あんな特徴的な美少女がいたら直ぐにわかりそうなものだか…。
獣道を歩いているので、向こうからは見えないだろう。ピンクの娘はどこか怪しげな動きをしている。
学内の裏に大きな樹が何本もあるのだが、その内の一本の樹の根本をしゃがんで掘っているのだ。
(え?……あの娘、何してるの?)
気付かれない用に樹の間からソッと覗いて見る。あそこに何か埋まっているのだろうか。道具を使って、一心不乱に掘っている。
しばらく掘り進めていた手が止まった。何かが見つかったらしく、膝をついて穴の中に手を伸ばしている。目当ての物を手に取ると満足そうな顔をして、上に掲げた。
(あれは、箱?)
小さい箱の様な物が出てきたようだ。それを大事そうに布に包み、掘った穴を元に戻した。
急にキョロキョロと辺りを見渡したので、ルーシェは咄嗟に隠れる。少ししてまた外を見ると、少女は別の場所に歩いて移動してしまった。。
(なんだか怪しい……あの箱は一体なんだったの?)
目的がわからない行動。でも箱が出てきたということは、あそこを掘れば何か埋まっている、ということがわかっていたのだろう。
あの娘は何者なの?
不思議に思いながらもルーシェは踵を返し、正門の方へ向かった。
後からわかったことだが、ピンクの美少女は転入生だったらしい。しかも今日からだ。
隣のクラスでクレア=ノルンという。
元々孤児院にいたのだが、訳あってノルン男爵家に少し前に引き取られたらしい。
ちなみに、これは全て隣のクラスの女子生徒が噂していた。あの目立つ髪色と容貌だ。噂好きのご令嬢方のかっこうのエサだった。
◇◇◇
あれから一週間ほど経ち、あのピンクの美少女クレアの話題で持ちきりだった。
良くない意味での。
騎士団長の息子に色目を使っていただとか、生徒会長の腕に手を回しただとか、第二王子にお菓子を渡していた……等々。
この学園で人気のある男子生徒に、次々と声をかけているらしい。
どうやらそれはウィルソンも例外ではないらしく、まとわりつかれて迷惑そうにしているのを見かけた。
「最近クレア様の噂が絶えないわね。この前は、特別講師のアルベルト先生にも、個別に指導してもらっていたそうよ。」
「はあ……。」
昼にいつものベンチで、昼食を取っていた。
お弁当を優雅に食べながらアイリスが呆れた様に話してきた。
ルーシェとしては正直どうでもいい。
誰が誰と一緒にいようが、仲良く話そうが、勝手にやってくれ、といった感じだ。
「ご令嬢の方々、皆様お怒りよ。特にジュリアン様とエミリオ殿下の親衛隊の方々は怒り心頭だと仰ってたわ。」
楽しそうに話すアイリスを横目に、ルーシェはランチを食べる手を止めず口に運ぶ。
エミリオ殿下とはこの国の第二王子。エミリオ=アレキサンドロス殿下だ。ウィルソンの主でもある。
肩口までの真っ直ぐな王族特有の銀色の髪と、紅玉のように紅い瞳。顔立ちは年齢の割りと幼く見える美しいよりは可愛らしい。穏やかな雰囲気のthe・王子様だ。
「アイリスはいいの?確か生徒会長の婚約者候補じゃなかった?」
「えぇ。でもまだ候補ですからね。」
「そう……アイリスが気にしないなら良いのだけど。」
「心配してくれてありがとう。でも、クレア様の行動は目に余るものがあるわね。」
「そうね…。」
「公爵令嬢のシルビア様はエミリオ殿下のご婚約者でしょ?あの方はクレア様に注意されたそうよ。」
「まぁ、シルビア様が…」
シルビア様は金髪縦巻きロールが特徴のゴージャス美人だ。悪い人ではないのだが、性格がきつくてあたりが強い。婚約者のエミリオにかなり執着している。
(──何だか、聞き覚えがあるような展開だな…。)
何だかイヤな予感がしたが、気にせずお弁当を食べることに。自分には特に関係はないから。
◆◆◆
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