14 / 113
本編
ご褒美
しおりを挟む疲労感でそのまま寝そうになったが、マーサに起こされて自室へと戻った。後片付けは他の人がやってくれるそうだ。
(……申し訳ないけど、かなり疲れたから正直助かる……)
ベッドにゴロンと寝転んで目を瞑る。睡魔は直ぐに襲ってきた。慌てて身体を起こす。
もうお風呂に入って寝よう。じゃないとこの格好のまま朝になってしまう。明日からまた学園だ。
重い身体に鞭打って、浴室に入った。
◇
お風呂に入ってさっぱりしたおかげか、少しだけ眠気が覚めた。だが疲れていることには変わらない。
そろそろと布団に入ろうとすると、扉の向こうでノックする音が聞こえた。
(こんな時間に誰だろう?)
「夜分に申し訳ございません。クラウスです。」
扉の向こうで声がした。
「はい。今開けますね」
寝間着の上に上掛けを羽織る。扉を開けるとクラウスが申し訳なさそうに立っていた。
「お疲れのところ大変申し訳ございません。。坊っちゃまがお呼びでいらっしゃいます」
「坊っちゃんが、ですか?」
「先ほどの件でお話があると仰っております」
「………わかりました。着替えて参ります。少しだけお待ち下さい」
直ぐに扉を閉め、早めにお仕着せに着替える。扉を開け、クラウスと共にウィルソンの部屋へと向かう。
ウィルソンの部屋は二階の一番隅。ルーシェの部屋の真逆に位置する。部屋に着くとクラウスがノックをして、「誰だ」と声が聞こえ、クラウスが答えると、「入れ」と短い声が聞こる。
扉が開くと中にはウィルソンが執務用の椅子に腰掛けていた。
ウィルソンのいる執務室は広く、左右には本棚が並んでいて、机や椅子も調度品のように立派だ。その中心に鎮座しているウィルソンもまた彫刻のように美麗だ。
(なんか…久々に顔見たけど、相変わらず嫌味なくらい美形だな……)
部屋の中へと入り、礼を取る。
ウィルソンは椅子に座りながら、薄紫色の切れ長の双眸でこちらを見る。冷たい印象のそれにルーシェはつい体が強ばってしまう。
「楽にしてくれて構わない。今日は君のおかげで本当に助かった。心から礼を言う」
「とんでもないことでございます。お役に立てたのでしたら幸いでございます」
何故かウィルソンは窺うような顔でルーシェを見る。
「……君は、一体何者なんだ?…クラウスから聞いた時には驚いた。出された料理はどれも素晴らしかった。デザートもライル…ライオル皇子がいたく気に入った様でね。土産に持って帰りたいそうだ」
「それは光栄なことでございます。お気に召された様で何より。明日の登城に間に合う様、ご用意させて頂きます……お話は以上でしょうか?」
あまり深く詮索しないでほしい。
早くこの場を去りたくて、話を切る。そんなルーシェの様子に気付いたのか、少し驚いた様子で再び話し始める。
「そんなに警戒しないでくれ……実は今回の件で君に何かお礼がしたい。宝石でもドレスでも何でもいい。何か好きな物を選んでくれ」
「………お礼、ですか?滅相もございません……私は、使用人として当然のことをしたまで。お気持ちだけ受け取らせて頂きます」
「だが、それでは私の気がすまない」
「それでしたら、先ほど頂いたお言葉だけで十分でございます」
立ったままルーシェがそういう言い切ると、ウィルソンは面白そうに見つめる。
「──君は本当に、聞いていた通りの人物なんだな」
「……?聞いていたとおっしゃいますと…?」
聞いていた、とは何のことだ?
自分の噂話だろうか?
何かおかしなことを言われているのか不安になってしまう。
ウィルソンの後ろに控えているクラウスをチラリと見る。
しかし、クラウスはニコニコと微笑んでいて表情が読めない。
「いや、こちらの話だ。私としては、形として君に何かしたいんだ。今回は色々行き詰まってしまってね。感謝の気持ちだ」
「ですが…」
ルーシェは何か見返りが欲しくてやった訳ではないのだ。
でもウィルソンも退いてはくれない雰囲気だ。別に欲しい物など特にないのだが。
黙って考え込んでしまったルーシェ。
「私共も何かあると褒賞として金品を頂戴したりしております。今回のルーシェさんの働きは大変素晴らしかった。難しく考えずお気持ちとして受け取ってはいかがでしょうか?」
見かねて助け船を出してくれたのはクラウスだった。ルーシェは視線を落とし、それから答える。
「………それでは…そのままお給金として頂きたいと存じます」
「ドレスや宝石じゃなくていいのか?」
返ってきた答えが予想に反してたのか、意外そうに目を見張っている。
「はい。特に必要としておりません」
ドレスやアクセサリーの類いを持っていても、着けて行く所も無ければ、着る機会もない。宝の持ち腐れだ。だったらそのままお金でもらったほうがよほど利になる。
返ってきた答えを聞いて、ウィルソンは薄紫の瞳を細め、薄っすらと笑みを浮かべる。
「…本当に面白いな……了解した。では後日見合う分の給金を渡そう」
(なんか今、面白いって言われた様な……?)
「お心遣い感謝致します。それでは私はこれで」
「いや、疲れているのに悪かったな。ゆっくり休んでくれ」
「はい…失礼致しました」
一礼してルーシェは執務室を後にした。
************************************
読んでいただき、ありがとうございます!
23
お気に入りに追加
1,550
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
【完結】王宮の飯炊き女ですが、強面の皇帝が私をオカズにしてるって本当ですか?
おのまとぺ
恋愛
オリヴィアはエーデルフィア帝国の王宮で料理人として勤務している。ある日、皇帝ネロが食堂に忘れていた指輪を部屋まで届けた際、オリヴィアは自分の名前を呼びながら自身を慰めるネロの姿を目にしてしまう。
オリヴィアに目撃されたことに気付いたネロは、彼のプライベートな時間を手伝ってほしいと申し出てきて…
◇飯炊き女が皇帝の夜をサポートする話
◇皇帝はちょっと(かなり)特殊な性癖を持ちます
◇IQを落として読むこと推奨
◇表紙はAI出力。他サイトにも掲載しています
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?
KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※
ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。
しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。
でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。
ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない)
攻略キャラは婚約者の王子
宰相の息子(執事に変装)
義兄(再婚)二人の騎士
実の弟(新ルートキャラ)
姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。
正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて)
悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる