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本編

休日のハプニング 1

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 洗濯を終え、仕事の終わったルーシェは調理場にやってきていた。

「ジェフさん。いつも調理場をお借りしてすみません。」
「おっ、ルーシェちゃん、来たね!今日も期待してるよ!」

 クロウド家の料理人ジェフは、白髪混じりの茶髪に、ちょっと厳つい顔つきで割りとがっしりしているが、いつも気さくに話しかけてくれる。

「もぉ、やめて下さいよ。プレッシャーです…そんな大したもの作りませんから。」
「いやいや、ルーシェちゃんの作るお菓子は王都でも見たことがない。斬新で美味しいんだよ!一体どこで習ったんだい?」

 核心をつこうとするジェフにルーシェは冷や汗をかく。まさか前世の知識とも言えず適当に誤魔化す。

「えぇっと…うちの母の遠い親戚が他国の出身で…そこから来てるんですよ……。」
「へぇ~そうなのか。」

 (うぅ……良心が痛む………でも本当のことは言えないし…………。)

 内心冷や汗をかきながら心の中でジェフに懺悔する。後でちゃんとトリュフあげるから許してね、ジェフさん。
 そんなルーシェの心の声とはうらはらに、気にした素振りのないジェフが話しかける。

「そっちの台使っていいからな。材料はこっちにあるから好きに使ってくれてかまわないよ。」
「はい。ありがとうございます!」

 ルーシェは材料を選び、手際良く作り始めた。お菓子作りは楽しい。作っている時は夢中になれるし、作り終えれば食べる楽しみがある。
 
 
 ◇◇


 作り終えたトリュフを氷冷庫から取り出した。冷たく冷えたトリュフを一つ口に放り込む。

 (うん!甘くて美味しい~)

 口の中に蕩けるようなほろ苦い甘さが広がる。沢山作ったから他の人に持って行こう。

「おっ、出来たか?俺も食べていいかい?」
「はい。どうぞ!」

 少しドキドキしながらジェフが食べるのを見つめる。

「!!これは旨い!あのチョコが、こんなに溶けるように甘くて美味しくなるなんて…これは何と言うお菓子なんだ?」
「こちらはトリュフと言います。」
「トリュフか…こいつはすごいな。」

 関心したようにジェフが呟く。

「なぁ、ルーシェちゃん。このトリュフとかいうお菓子を坊っちゃんに出しても構わないか?」
「えっ!これを坊っちゃんに出すなんて…恐れおおいです!」

 少し考えていたジェフがとんでもないことを言い出す。自分の作ったモノをウィルソンに出すなど、不敬罪にならないだろうか。

「ああ見えてな、坊っちゃんは甘いものが大好きなんだ。これ食べたらビックリするぞ!」

 ジェフが楽しそうに笑いながら言う。ルーシェは断固拒否をするがジェフは諦めない。根負けしたのはルーシェの方だった。

「…わかりました。坊っちゃんに出すのは構いませんが、私が作ったことは絶対に伏せておいて下さいね。」
「わかったわかった。約束するよ。」

 (本当に大丈夫かな…なんか嫌な予感しかしないんだけど。)

 まあ、とりあえず自分のことは内緒にしてもらえるし、あまり深く考えないでおこう。
 自分用と配る用とに袋分けし、ルーシェはマーサの元へと向かった。


「やっぱりルーシェちゃんの作るお菓子は絶品だよ!王都でもこれほどのモノは売ってないね!」
「本当に美味しいですね。私も初めて口にしましたが、これ程とは…。」

 マーサとクラウスが口々に褒める。
 作った物が喜ばれ美味しそうに食べて貰えると、こっちまで幸せな気分になる。

「喜んで貰えて嬉しいです!作った甲斐がありました。」
「ルーシェさんは、どこかで修行でもしていたんですか?」

 クラウスさんが興味深そうに尋ねてくる。

「修行なんてしてませんよ。趣味の範囲です。」
「趣味でここまでなら、菓子職人は商売上がったりだね!」

 マーサが笑いながらいう。

「えぇ、本当ですね。こちらを坊っちゃんにお出ししてはどうですか?」
「それは名案だね!坊っちゃん甘いモノに目がないからね!」

 クラウスとマーサが盛り上がる。

「先ほどジェフさんにも言われました。とりあえず私のことを伏せて貰えるなら…と了承しましたが。」
「本当かい!そりゃ坊っちゃんも喜ぶよ♪」
「…私の作った物なんか差し上げて…怒られませんか?」
「何言ってんだい!?こんなに美味しいんだよ!怒られるもんかい!坊っちゃんは絶対お喜びになるよ!」
「そんなに謙遜しなくて大丈夫です…このお菓子はそれだけの価値があります。」

 我が事の様に自信満々にいう二人をルーシェは訝しげに見る。

 ただのトリュフなんだけどな……。

 何かもう好きにして。
 正直自分には馴染みのあるお菓子だけに、どれ程の価値があるのかわからない。それよりもウィルソンが実は甘い物が好きだということにビックリした。
 ジェフに言われた時は半分冗談だと思ったが、マーサやクラウスまで言うのだから、お屋敷の中では有名らしい。

「残りは氷冷庫に入れてあるので、良かったら他の皆さんで分けて下さい。これから出掛けようと思ってますので、帰りは夕刻になると思います。」
「そりゃありがとね。みんな喜ぶよ!何処に行くんだい?」
「そろそろ試験が近いので、王立図書館に行こうと思います。」
「女の子1人で大丈夫かい?暗くなる前に帰って来るんだよ…」

 心配そうにしてくれるマーサを見ていると、母親を思い出す。今頃は忙しく稼業を手伝っているのだろうか。

「ご心配ありがとうございます。変装して行くので大丈夫です。」
「あぁ、なるほどね。じゃあ気をつけて行って来るんだよ。」
「はい!いってきます。」

 見送ってくれる二人にお辞儀をして自分の部屋へ向かう。
 初めこそ尻込みしていた部屋だが、一月経つとさすがに慣れた。むしろ快適過ぎて困るくらいだ。

 ルーシェがお世話になるのは進級するまでの残り数ヶ月。
 長い様な短い様な…でもこんな穏やかな日々を過ごせるなら悪くない。そんなこと思いながら部屋へと入った。。


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