上 下
4 / 113
本編

アルビオン学園 1

しおりを挟む
 

 翌朝、何とか起きて学園に向かう。勿論馬車などはなく徒歩通学だ。
 ルーシェは胡桃色の腰までの髪を後ろで一つに結わえ、ワンピース型のクリーム色の制服を来ている。寝不足で顔色が悪く、紺色の瞳は今にも閉じそうだ。
 
 実は学園には生徒専用の寮もある。貴族と平民とで別れているが、遠くから来る生徒のために設けている。
 ルーシェも初めこの寮に入る予定であった。徒歩数分の学園内にある寮は勝手がよい。
 しかし、途中入学になってしまったため、寮が空いていなかったのだ。
 ルーシェの部屋から学園まで半刻…30分ほどで着く。だがその歩く道のりが永遠のように感じてしまう。
 そろそろ身体が限界を感じでいた。


(これじゃダメだ……頭がガンガンする。)


 寝不足のため慢性的な頭痛、ひどい体の倦怠感、食欲不振等々、身体の不調は顕著に表れて目の下にはくっきりと隈ができていた。
 最近は授業にもまともに集中出来ていない。
 しかし夜の仕事を減らせば授業料が払えなくなる。休みたいけど休めない。授業も休めば評価に響く。ルーシェは追い詰められて、かなりギリギリの精神状態になっていた。

 どうにか歩いて学園まで到着した。校内にも人が沢山歩いて登校してきている。

「ルーシェ、ご機嫌よう。」

 背後から肩を叩かれた。友人のアイリスだ。アイリス=レーベル。レーベル侯爵家の長女。本来なら高位の貴族令嬢なので、友人になるのは愚か、こんな風に話かけられるのすら烏滸がましいのだが、なぜかアイリスとルーシェはとても気が合ったのだ。
 
「ご機嫌よう。アイリス様」

 後ろを振り返り、淑女の礼を取る。

「あら、そんなよそよそしい態度は辞めてちょうだい。私と貴女の仲でしょ。」

 腰まで緩やかに伸びる金髪にクリクリの愛らしい空色の大きな瞳、細身だが、出るところは出ている女性らしい身体つき、女性の目から見てもアイリスは麗しい美女だった。
 アイリスはその美麗な顔を少ししかめながら話す。ルーシェはクスリと笑って、相互を崩す。

「アイリスは今日も元気ね。」

「私はいつでも元気よ。それにしてもルーシェは大丈夫?……酷い顔色よ?」

 教室に向かいながらアイリスはルーシェの体調を気遣う。
 端から見て分かるほどにルーシェの顔色は悪い。普段から化粧をしていないので隠しようもない。今にも倒れてしまいそうだった。

「ハハ、やっぱりわかる?最近寝不足で、疲れが取れないの…。」

 オンボロアパートでの出来事を、アイリスには話していない。外聞も悪いし、何より人に相談するには恥ずかしかった。

「悩みがあるなら何なりと相談してね。貴女が倒れたら悲しいわ。」

「ありがとう、アイリス」

 友人の気遣いが素直に嬉しかった。こんな風に心配されて泣きそうになった。
 それと同時に自分が情けなくなってしまった。元はと言えば自分が悪いのだ。いくらお金が無いとはいえ、あんな所に住み処を決めてしまったのだから。
 
「でも大丈夫。心配かけてごめんなさい。」

「……ルーシェ。」

 悩みを話してくれない友人を、悲しい顔で見ながら二人は教室に着いた。
 アイリスを見ながら扉を開こうと手をかけると、誰かが勢い良く飛び出してきた。
 
 いつもならすぐに避けれたし、仮にぶつかったとしても、受け身くらい難なく取れる。しかし、ルーシェの体調不良と注意力が散漫になっていて、反応が遅れた。
 
 
  ぶつかる!と思った瞬間強い衝撃が加わり、そのままルーシェは気を失ってしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ある日の絶望。

早坂 悠
恋愛
ある日、高校2年のななえはアルバイト先の先輩とその友人からレイプされる。 抵抗虚しく2人の男に犯されるななえ。 犯された現実に打ちのめされるななえだったが、そこに片想いの男性、ユウヤが現れて……。 この作品は「小説家になろうノクターンノベルズ」にも掲載しております。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

私の夫が未亡人に懸想しているので、離婚してあげようと思います

Kouei
恋愛
私は21歳になっても未婚の子爵令嬢。 世間では男女18歳までに、婚約もしくは結婚している事が常識だった。 なので将来は修道院に入ると両親に伝えた所、あわてて23歳になっても独身の伯爵令息との縁談を持ってきた。 見目麗しく、紳士的な性格の彼がなぜ今まで結婚しなかったのか? 異性に興味のない方なのかと思ったけれど、理由はいたって単純だった。 忘れられない女性がいるんですって! そうして彼は私にある提案してきた。 「形式上の夫婦にならないか」と… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった

華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。 でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。  辺境伯に行くと、、、、、

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

処理中です...