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本編
アルビオン学園 1
しおりを挟む翌朝、何とか起きて学園に向かう。勿論馬車などはなく徒歩通学だ。
ルーシェは胡桃色の腰までの髪を後ろで一つに結わえ、ワンピース型のクリーム色の制服を来ている。寝不足で顔色が悪く、紺色の瞳は今にも閉じそうだ。
実は学園には生徒専用の寮もある。貴族と平民とで別れているが、遠くから来る生徒のために設けている。
ルーシェも初めこの寮に入る予定であった。徒歩数分の学園内にある寮は勝手がよい。
しかし、途中入学になってしまったため、寮が空いていなかったのだ。
ルーシェの部屋から学園まで半刻…30分ほどで着く。だがその歩く道のりが永遠のように感じてしまう。
そろそろ身体が限界を感じでいた。
(これじゃダメだ……頭がガンガンする。)
寝不足のため慢性的な頭痛、ひどい体の倦怠感、食欲不振等々、身体の不調は顕著に表れて目の下にはくっきりと隈ができていた。
最近は授業にもまともに集中出来ていない。
しかし夜の仕事を減らせば授業料が払えなくなる。休みたいけど休めない。授業も休めば評価に響く。ルーシェは追い詰められて、かなりギリギリの精神状態になっていた。
どうにか歩いて学園まで到着した。校内にも人が沢山歩いて登校してきている。
「ルーシェ、ご機嫌よう。」
背後から肩を叩かれた。友人のアイリスだ。アイリス=レーベル。レーベル侯爵家の長女。本来なら高位の貴族令嬢なので、友人になるのは愚か、こんな風に話かけられるのすら烏滸がましいのだが、なぜかアイリスとルーシェはとても気が合ったのだ。
「ご機嫌よう。アイリス様」
後ろを振り返り、淑女の礼を取る。
「あら、そんなよそよそしい態度は辞めてちょうだい。私と貴女の仲でしょ。」
腰まで緩やかに伸びる金髪にクリクリの愛らしい空色の大きな瞳、細身だが、出るところは出ている女性らしい身体つき、女性の目から見てもアイリスは麗しい美女だった。
アイリスはその美麗な顔を少ししかめながら話す。ルーシェはクスリと笑って、相互を崩す。
「アイリスは今日も元気ね。」
「私はいつでも元気よ。それにしてもルーシェは大丈夫?……酷い顔色よ?」
教室に向かいながらアイリスはルーシェの体調を気遣う。
端から見て分かるほどにルーシェの顔色は悪い。普段から化粧をしていないので隠しようもない。今にも倒れてしまいそうだった。
「ハハ、やっぱりわかる?最近寝不足で、疲れが取れないの…。」
オンボロアパートでの出来事を、アイリスには話していない。外聞も悪いし、何より人に相談するには恥ずかしかった。
「悩みがあるなら何なりと相談してね。貴女が倒れたら悲しいわ。」
「ありがとう、アイリス」
友人の気遣いが素直に嬉しかった。こんな風に心配されて泣きそうになった。
それと同時に自分が情けなくなってしまった。元はと言えば自分が悪いのだ。いくらお金が無いとはいえ、あんな所に住み処を決めてしまったのだから。
「でも大丈夫。心配かけてごめんなさい。」
「……ルーシェ。」
悩みを話してくれない友人を、悲しい顔で見ながら二人は教室に着いた。
アイリスを見ながら扉を開こうと手をかけると、誰かが勢い良く飛び出してきた。
いつもならすぐに避けれたし、仮にぶつかったとしても、受け身くらい難なく取れる。しかし、ルーシェの体調不良と注意力が散漫になっていて、反応が遅れた。
ぶつかる!と思った瞬間強い衝撃が加わり、そのままルーシェは気を失ってしまった。
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