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曲突徙薪
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『……えぇ、この事業は、決して……させることはございません!』
『本当だろうな……もし………ならば、その時は……』
『とんでもございませんよ! かの……侯爵様を……など……せん!』
途切れ途切れに聞こえる会話。
だが、ミレールは確信する。
オルノス侯爵家に多額の負債を背負わせ、没落させた事業者に間違えない、と。
意を決して扉の前でノックをすると、返事を待たずに扉を開けた。
ワゴンをゆっくりと押しながら、ミレールは応接テーブルに広がる書類と事業者を伺うように見る。
「ん? ミレールじゃないか?! こんなところまで、一体どうしたんだ?」
まずオルノス侯爵がお茶を運んできたミレールに気づき、驚きの声を上げた。
「侯爵様にお茶を淹れて差し上げたくて、侍女に変わってもらいました」
にこりと微笑み、何気なく会話を交わしていく。
「ほぅ……、貴女はたしかエボルガー侯爵家の御息女でございましたな」
そこにいた事業者はミレールを値踏みするように見ている。
その視線に不快さを感じながら、ミレールは笑顔を崩さなかった。
「あら、どちら様かしら?」
「あぁ! 申し遅れました。わたくし、ヤナ湾で事業をしております。マハカーンと申します」
「お初にお目にかかりますわ。マハカーンさん」
「……オルノス侯爵家の御子息と婚姻を結ばれた、という噂は本当だったんですねぇ。いやしかし、実にお美しいですな……」
品定めするようにジロジロとミレールを見ているマハカーンに、ひどい不快感を感じる。
目つきも変に見下しているようで、ミレールはその視線を避けるように目を逸らした。
「ミレール。わざわざお茶を持って来てくれたんだな!」
ノアに似たオルノス侯爵を見ているととても安心する。
オルノス侯爵家を救う為にも、自分がどうにかしなければ、とミレールは心の中で意気込んだ。
「えぇ。わたくしがお茶をお淹れいたしますわ」
お盆に乗ったティーセットを持ち上げ、さっとテーブルに乗っていた書類に目を通した。
(ヤナ湾での、真珠取引……? そういえばどこかの真珠が違法に取引されていて、しかも偽物だった……と、小説のどこかで出てきたような気がしましたわ)
これはもう間違いないとミレールは意を決し、わざと派手に躓いた。
「きゃあっ!!」
狙いを定めたお茶は上手いことテーブルの上でひっくり返り、広げてあった書類もろとも全てがお茶でびしょびしょになった。
「ミレールっ! 大丈夫かっ?!」
「うわぁっ!! 大事な契約書がぁーー!!」
この二人の対応は全く違っていた。
ミレールを心配したオルノス侯爵はすぐさまミレールに手を貸し、お茶がかかっていないか慌てた様子で確認している。
「怪我や火傷はしていないか?!」
「はい。ご心配いりませんわ、侯爵様」
差し出された手を取って立ち上がったミレールの様子に、オルノス侯爵は心配そうに確認してくれている。
(やはり、親子ですのね……こういった気配りは、ノアとよく似てますわ)
ミレールの手や足にお茶がかかっていないことがわかると、安心したように笑顔を見せていた。
「そうか……君に怪我がなくて良かったよ」
オルノス侯爵とノアは笑った顔もとてもよく似ていて、不意打ちのようにドキッとしてしまった。
『本当だろうな……もし………ならば、その時は……』
『とんでもございませんよ! かの……侯爵様を……など……せん!』
途切れ途切れに聞こえる会話。
だが、ミレールは確信する。
オルノス侯爵家に多額の負債を背負わせ、没落させた事業者に間違えない、と。
意を決して扉の前でノックをすると、返事を待たずに扉を開けた。
ワゴンをゆっくりと押しながら、ミレールは応接テーブルに広がる書類と事業者を伺うように見る。
「ん? ミレールじゃないか?! こんなところまで、一体どうしたんだ?」
まずオルノス侯爵がお茶を運んできたミレールに気づき、驚きの声を上げた。
「侯爵様にお茶を淹れて差し上げたくて、侍女に変わってもらいました」
にこりと微笑み、何気なく会話を交わしていく。
「ほぅ……、貴女はたしかエボルガー侯爵家の御息女でございましたな」
そこにいた事業者はミレールを値踏みするように見ている。
その視線に不快さを感じながら、ミレールは笑顔を崩さなかった。
「あら、どちら様かしら?」
「あぁ! 申し遅れました。わたくし、ヤナ湾で事業をしております。マハカーンと申します」
「お初にお目にかかりますわ。マハカーンさん」
「……オルノス侯爵家の御子息と婚姻を結ばれた、という噂は本当だったんですねぇ。いやしかし、実にお美しいですな……」
品定めするようにジロジロとミレールを見ているマハカーンに、ひどい不快感を感じる。
目つきも変に見下しているようで、ミレールはその視線を避けるように目を逸らした。
「ミレール。わざわざお茶を持って来てくれたんだな!」
ノアに似たオルノス侯爵を見ているととても安心する。
オルノス侯爵家を救う為にも、自分がどうにかしなければ、とミレールは心の中で意気込んだ。
「えぇ。わたくしがお茶をお淹れいたしますわ」
お盆に乗ったティーセットを持ち上げ、さっとテーブルに乗っていた書類に目を通した。
(ヤナ湾での、真珠取引……? そういえばどこかの真珠が違法に取引されていて、しかも偽物だった……と、小説のどこかで出てきたような気がしましたわ)
これはもう間違いないとミレールは意を決し、わざと派手に躓いた。
「きゃあっ!!」
狙いを定めたお茶は上手いことテーブルの上でひっくり返り、広げてあった書類もろとも全てがお茶でびしょびしょになった。
「ミレールっ! 大丈夫かっ?!」
「うわぁっ!! 大事な契約書がぁーー!!」
この二人の対応は全く違っていた。
ミレールを心配したオルノス侯爵はすぐさまミレールに手を貸し、お茶がかかっていないか慌てた様子で確認している。
「怪我や火傷はしていないか?!」
「はい。ご心配いりませんわ、侯爵様」
差し出された手を取って立ち上がったミレールの様子に、オルノス侯爵は心配そうに確認してくれている。
(やはり、親子ですのね……こういった気配りは、ノアとよく似てますわ)
ミレールの手や足にお茶がかかっていないことがわかると、安心したように笑顔を見せていた。
「そうか……君に怪我がなくて良かったよ」
オルノス侯爵とノアは笑った顔もとてもよく似ていて、不意打ちのようにドキッとしてしまった。
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