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火照る身体

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 ノアは跪き、自身の体を抱きしめたまま俯いているミレールを下から覗き込んでいた。
 ミレールは熱い体を持て余しながら、ちらりとノアに視線を向けると、ノアはテーブルの上のワインを見ていた。

「あんた、このワインを飲んだのか?」

「……えぇ」

 晩餐の時は酒類を口にしていないし、緊張でほとんど食べ物を口にできなかった。
 ミレールが返事を返したのを聞いて、ノアは短く息を吐く。

「どうやらワインに薬が混ぜられていたようだな」

「薬……?」

「あぁ。あんたのその様子から……おそらく遅効ちこう性の媚薬だろう。ま、犯人は大方おおかたうちの両親で間違いないな」

「び、やく……です、か?!」
 
 あらかた予想していたのか、さも当たり前のように話しているノア。
 体を抱きしめていたミレールは驚きに目を大きく開いた。

(オルノス侯爵夫妻は、一体どれほどわたくしたちの孫を望んでらっしゃるの!?)

 新婚初夜を迎える夫婦に媚薬入りの酒を提供するくらい、侯爵夫妻は自分たちの結婚を熱望していたのか、とミレールは少し怖くなっていた。

 ただ体にくすぶる熱は引くどころかどんどん酷くなっていく。
 体が熱くて仕方ない。
 今すぐ着ているものをすべて取り払って、この体に溜まっている熱を吐き出してしまいたい衝動にかられている。

 跪いていたノアは立ち上がると、椅子に座っていたミレールに手を伸ばし、そのまま抱え上げた。

「えっ……?! ノア?!」

 突然の浮遊感に動揺してしまう。
 
「普段ならあの人たちに怒っているが、あんたは乗り気じゃないようだし……ちょうど良かったのかもな」

「っ」

 抱えながらノアはすたすたと歩き出す。
 すぐ目の前にノアの顔が迫り、逞しい腕に抱かれているとミレールの動悸がさらに激しくなる。
 
(また……ノアに、抱き上げられていますわ……どうしてこんなに、優しくしてくださるの……?)

 見上げた先にある凛々しい顔に目が釘付けになる。
 杏だった頃にも、こんなふうに抱えられたことはなかった。

 媚薬のせいなのか、熱の籠もった瞳でノアを見ていると、不意に柔らかな場所へと降ろされた。
 そこがベッドだと気づいた時には、もうノアはミレールの上に伸し掛かっていた。

「ノア……」

 ギシッと軋むベッドの上で、横たわっていたミレールはドキドキしながら顔を上げる。

「目……閉じろよ。あんたに見られてると、やりづらい」

 体にノアの重みを感じながら、言われた言葉の意味を熱に浮かされた頭でぼんやり考えていると、急に唇を奪われた。

「んッ?!」

 優しく触れるようなキスではなく、吐息まで奪うような激しいキスに、思わずノアの腕を掴んだ。

「ふぅっ……! んんッ……!」

 一度唇が離され、息つく暇もなくまた唇が深く重なり、唇の間から舌が差し込まれた。

「は、あっ! はっ……、んッ! んんっ!!」

 ノアの舌で自分の舌をなぞられると、ゾクゾクと背筋が震える。
 絡み合う舌が熱くて、とても心地好い。自分からも舌を出し、辿々たどたどしくノアの舌に応える。

 最後にキスしたのは何時いつだっただろう、とふと考えた。
 今では思い出せないくらい遥か昔のことに、ミレールはノアの腕を掴みながら、夢中になって唇を合わせた。

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