上 下
1 / 22

第1話 プロローグ

しおりを挟む
 この娘、少々抜けているのである。

「私、猫カフェを始めることにしました!」

 魔法学校の進路相談室――。シルヴェスが大真面目な顔でそう言うと、担任の魔女ルベルは心底呆れた表情を浮かべた。

「はあ……。あんたみたいに出来の悪い生徒もはじめてだけれど、あんたみたいに変わった進路を希望した生徒にも、これまで会ったことがないわ」

 ルベルは羊皮紙に羽ペンでメモを取る手を止め、お手上げとでも言うように、両手を上げて力なくうなだれた。

「すみません。十年も学校にいたのに猫に変身する魔法しか身に着けられなくて……」

「それはもういいわ。それより、『猫カフェ』? 一体どういうことなの?」

「それはですね」

 シルヴェスは手を口元に近づけると、小さく咳払いをして続ける。

「この国では、猫は魔女の使いとして、忌み嫌われ、迫害されています。そんな猫たちの復権のため、まずは猫と気軽に触れ合うことのできる猫カフェを開いて、猫のイメージを変えようと考えたんです」

 シルヴェスはきりりとした目をして言った。

「なるほど……。猫たちの復権、ね。あんたらしいと言えばらしいわ」

 ルベルは再びため息をつく。

「でもねえ、『猫カフェ』なんて、この国では聞いたこともないわよ? 嫌われ者の猫を集めて、果たして客が集まるのかしら? それに、そんな目立つことをしていたら、あなた自身が魔女狩りの標的になる危険だってあるのよ? あんた、身を守る魔法は何一つ使えないじゃない」

「大丈夫です。いざという時は、在学中に設立した、『魔法使い猫好きネットワーク』に助けてもらいます」

「何よ。そのバカげたネットワークは」

「バカげてないですよ。今年の卒業生にもメンバーは五十人近くいるんです。もふもふの力は偉大なんですよ」

 ルベルの呆れはここに来て頂点に達した。

「もう……。勝手にしなさい……」

「はい。頑張ります!」

 シルヴェスの顔がぱっと明るくなる。

 こんな調子で、彼女の進路相談はあっという間に終了したのであった。

「よし! やるぞ!」

 進路相談室から出たシルヴェスは、両手を握りしめ、やる気に満ちた表情でぐいっと顔を上げた。

 ポンコツ魔女の新人猫カフェ店主、シルヴェスの挑戦はこうして始まったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...