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第1話 プロローグ
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この娘、少々抜けているのである。
「私、猫カフェを始めることにしました!」
魔法学校の進路相談室――。シルヴェスが大真面目な顔でそう言うと、担任の魔女ルベルは心底呆れた表情を浮かべた。
「はあ……。あんたみたいに出来の悪い生徒もはじめてだけれど、あんたみたいに変わった進路を希望した生徒にも、これまで会ったことがないわ」
ルベルは羊皮紙に羽ペンでメモを取る手を止め、お手上げとでも言うように、両手を上げて力なくうなだれた。
「すみません。十年も学校にいたのに猫に変身する魔法しか身に着けられなくて……」
「それはもういいわ。それより、『猫カフェ』? 一体どういうことなの?」
「それはですね」
シルヴェスは手を口元に近づけると、小さく咳払いをして続ける。
「この国では、猫は魔女の使いとして、忌み嫌われ、迫害されています。そんな猫たちの復権のため、まずは猫と気軽に触れ合うことのできる猫カフェを開いて、猫のイメージを変えようと考えたんです」
シルヴェスはきりりとした目をして言った。
「なるほど……。猫たちの復権、ね。あんたらしいと言えばらしいわ」
ルベルは再びため息をつく。
「でもねえ、『猫カフェ』なんて、この国では聞いたこともないわよ? 嫌われ者の猫を集めて、果たして客が集まるのかしら? それに、そんな目立つことをしていたら、あなた自身が魔女狩りの標的になる危険だってあるのよ? あんた、身を守る魔法は何一つ使えないじゃない」
「大丈夫です。いざという時は、在学中に設立した、『魔法使い猫好きネットワーク』に助けてもらいます」
「何よ。そのバカげたネットワークは」
「バカげてないですよ。今年の卒業生にもメンバーは五十人近くいるんです。もふもふの力は偉大なんですよ」
ルベルの呆れはここに来て頂点に達した。
「もう……。勝手にしなさい……」
「はい。頑張ります!」
シルヴェスの顔がぱっと明るくなる。
こんな調子で、彼女の進路相談はあっという間に終了したのであった。
「よし! やるぞ!」
進路相談室から出たシルヴェスは、両手を握りしめ、やる気に満ちた表情でぐいっと顔を上げた。
ポンコツ魔女の新人猫カフェ店主、シルヴェスの挑戦はこうして始まったのである。
「私、猫カフェを始めることにしました!」
魔法学校の進路相談室――。シルヴェスが大真面目な顔でそう言うと、担任の魔女ルベルは心底呆れた表情を浮かべた。
「はあ……。あんたみたいに出来の悪い生徒もはじめてだけれど、あんたみたいに変わった進路を希望した生徒にも、これまで会ったことがないわ」
ルベルは羊皮紙に羽ペンでメモを取る手を止め、お手上げとでも言うように、両手を上げて力なくうなだれた。
「すみません。十年も学校にいたのに猫に変身する魔法しか身に着けられなくて……」
「それはもういいわ。それより、『猫カフェ』? 一体どういうことなの?」
「それはですね」
シルヴェスは手を口元に近づけると、小さく咳払いをして続ける。
「この国では、猫は魔女の使いとして、忌み嫌われ、迫害されています。そんな猫たちの復権のため、まずは猫と気軽に触れ合うことのできる猫カフェを開いて、猫のイメージを変えようと考えたんです」
シルヴェスはきりりとした目をして言った。
「なるほど……。猫たちの復権、ね。あんたらしいと言えばらしいわ」
ルベルは再びため息をつく。
「でもねえ、『猫カフェ』なんて、この国では聞いたこともないわよ? 嫌われ者の猫を集めて、果たして客が集まるのかしら? それに、そんな目立つことをしていたら、あなた自身が魔女狩りの標的になる危険だってあるのよ? あんた、身を守る魔法は何一つ使えないじゃない」
「大丈夫です。いざという時は、在学中に設立した、『魔法使い猫好きネットワーク』に助けてもらいます」
「何よ。そのバカげたネットワークは」
「バカげてないですよ。今年の卒業生にもメンバーは五十人近くいるんです。もふもふの力は偉大なんですよ」
ルベルの呆れはここに来て頂点に達した。
「もう……。勝手にしなさい……」
「はい。頑張ります!」
シルヴェスの顔がぱっと明るくなる。
こんな調子で、彼女の進路相談はあっという間に終了したのであった。
「よし! やるぞ!」
進路相談室から出たシルヴェスは、両手を握りしめ、やる気に満ちた表情でぐいっと顔を上げた。
ポンコツ魔女の新人猫カフェ店主、シルヴェスの挑戦はこうして始まったのである。
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