野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ

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第一章

36話

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 良い夢から目が覚めるとシュノーク古城ではなく、木の幹にアール君と一緒に寝かされていた。どっぷり日が暮れて魔王様が魔法でだしたのだろう、丸い球が私達を照らしていた。
 
 えーっと、何があったかな?

 そうだ、私とアール君はシュノーク古城で魔王サタナス様に魔力を吸われ、魔力が枯渇して眠ってしまった。そのあと魔王様は自力で鳥籠からでて、この原っぱまで運んでくれたのかな?

 だんだんと今の状況と、目が覚めてきて驚く。

 ――はあ?

 辺りに散らばる私の大切なキャンプ用品たちと、口が開いたままのマジックバッグ……。まさか魔王様が私のカバンを漁ったの? ……ん? 足元に転がるのはシュワシュワがはいっていた水筒? 手に取ると軽い……。

 これって、私、怒ってもいいよね。


「魔王サタナス様ぁ――!」

 
「お、やっと目が覚めたか」
「え、焚き火?」

 魔王様は原っぱの開けた場所で、薪をくべて焚き火をしていた。彼が石を組んで作ったのだろう、カマドのできのよさに驚く。

「覚めましたけど……魔王様、私のシュワシュワを飲んだでしょう」

「え、僕のシュワシュワを飲んだぁ?」

 シュワシュワ好きのアール君も、パッチリ目を覚ました。
 

「クク、ハハハッ――ハハッ!!」
 

 起きたすぐの、2人のシュワシュワ発言に魔王様は大笑い。

「悪かった、エルバ、アールそう怒るな。腹が減っているだろうから、もち鳥を何匹か狩ってきた。さばく道具がなくて、エルバのマジックバッグを漁らせてもらってな。そのなかに水筒をみつけ試した。……喉を通る時の爽快感、美味くてやめれなかったのだ……ほら、もち鳥が焼けたぞ」

 さらりと焼けたもち鳥を、私の皿に乗せて渡す魔王様。しぐさに優雅さと余裕があり、彼は小説の隠しキャラらしく見た目がいい……私は焼けたもち鳥を受け取り、魔王様の隣に座った。

「魔王様、いただきます」
「もち鳥ですか? ――懐かしい」

「そうだろう」

 アール君の前にも焼きたてが並ぶ。


「「いただきます」」
 

 パリッ!

 魔王様が捌き、焼いたもち鳥は皮がパリパリで、肉質も柔らかい。このもち鳥の肉を一口大に切って串をとおし、甘辛なタレ、塩コショウで焼き鳥にしても美味しいだろう。

「んー、皮がパリパリ、お肉がジューシー」

「もち鳥、美味しいです。ひさしぶりにエールが飲みたくなります」

「キンキンに冷えたやつが、飲みたいな」

 と、魔王様はもち鳥を食べながら――神様仕様になった、私のとっておきのナイフを手放すことなく眺めている。

 ――フフ、魔王様、そのナイフいいでしょう?

 キャンプ雑誌で一目惚れしてお金を貯めて買った、私のちょーお気に入りダマスカスナイフ――今は神様仕様。ナイフに入った模様、持ち手は黒檀、手作りの皮でできたサヤ。どれをとってもカッコいいのだ。

「魔王様は、そのナイフ気に入ったの?」

 そう聞くと魔王様はナイフをながめ。

「ああ、気に入った。切れ味もよく、手にも馴染み使いやすい。実にいいナイフだな――欲しい」

「嫌です、あげません。……でも、使用するときに貸すのはいいですよ」

「クク、貸すか……エルバは優しいな。普通は断りもいれず勝手に使ったと、怒るだろうに……うむ、持ち主の了解を得たし、また必要なときに借りるとしよう」

 魔王様はもう一度眺めてからナイフを返してくれた、私はナイフを鞘に戻して。

「今日はもう遅いし移動は明日にして、ここでキャンプ? ――(ここはキャンプ場じゃ無いから)野営しよう!」

 と伝えた。

「野営かいいな」
「ええ、野営いいですね、エルバ様、あのテントで寝るのですか?」
 
「そうだよ、楽しみだね」

 この場所にアール君が今言った、あの神様仕様となったテントを張ることにした。――その野営をはじめる前にシュノーク古城では魔力を枯渇して、有耶無耶になってしまった話を先にすることにした。
 

 私は息を整え。

「魔王サタナス様、シュノーク古城でもお伝えしましたが……お願いです、魔王をやめてください」

 深く、頭を下げた。

「僕からもお願いいたします」

 その私達の願いに魔王様は焚き火に薪をくべ、サラリと答える。

「ん? 2人は気付いていないのか? ワタシは鳥籠をでて直ぐに魔王をやめたぞ。これから呼ぶとき魔王はいらぬ――ただの魔族のサタナスだ」
 

「え、ええぇ――!! ま、魔王サタナス様は既に魔王じゃない? じゃ、これで……パパたちは助かったの?」
 

 サタナス様は『そうだ』と頷き。

「うむ、契約書を無効にした時点で新魔王にその座が移った。四天王はワタシの部下ではなく友に変わった……すでに毒は消えたはずだ」
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