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二十七

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 カーエン王子が黒猫の私を見ている。それも目を細めて見ていた。国王陛下と話し合い中に王子も気付き、私を隠すようにしっかり抱きしめた。

「リチャード、所でその獣化した令嬢は誰だ?」

「この、ご令嬢は僕の婚約者のミタリア嬢です」

 その名前を聞き、陛下は私の頭を優しく撫でてた。

「そうか、妻から話を聞いている。優しい、ご令嬢だとーー妻のお気に入りの令嬢だと言っていた。今度、お茶会を開きたいと思っていたところだ」

 陛下の鋭い瞳が笑った、その笑顔は王子と瓜二つだった。もっと、大きな手に撫でてと頭を擦り付けると、王子が陛下からすっと離れた。

「父上、僕の婚約者に触り過ぎです。チココの結果が出るまで僕たちは部屋に下がっています」

「そうか――リチャード、分かっているな」

「父上、覚悟は出来ております」

 王子は陛下とカーエン王子に頭を下げて会場を後にした。チココを口にする事を止めたことに安直していたけどーーもしチココに何もなかったら私たちは罰を受ける。

「リチャード様、巻き込んでごめんね」

「いいよ、ミタリアとなら平民に落ちてもやっていける。一生涯お前を大事にする」

 王子からの、プ、プロポーズ? 

「にゃー! 恥ずかしいこと言わないにゃ!」

「はぁ? 俺の本気を茶化すな! さてはミタリア、俺の愛の言葉に照れたのだな」

「あ、愛! それにゃ!」

「ははっ、そう照れるなよ」

 部屋に戻り、お風呂場で手に付いてドロドロになったチココを、王子に背中から抱っこされる感じで洗ってもらっていた。

 いくら1人で洗えないからって、王子まで濡れることないのに……この格好も恥ずかしいし、それに動くと動くなって、怒るし。

 この恥ずかしさに耐えていた。そのときコンコンと部屋の扉が鳴らされる。王子は風呂場から声を上げて、部屋に訪れた者に返事を返した。

 それは国王陛下からの通達者だった。

「リチャード王子殿下、チココの分析結果が出ました。チココは我々ーー獣人が摂取しますと中毒を起こすカフェインとテオブロミンが入っておりました。国王陛下は今回のリチャード王子とミタリア嬢の罪を無しとして。明日の午後――庭園にてお茶会を開くそうです」

「中毒を起こすのか……で? カーエン王子殿下はどうなった?」

「カーエン王子殿下はチココに我々獣人が摂取してはならない、成分が入っていたことを知らないと申しました。チココは人族の間で有名なお菓子の様で、食べて貰おうとそれを土産にしたそうです。王子殿下は涙を流し、非常に心を痛め、陛下にお詫びして帰路に着きました」

「そうか、分かった。伝えてくれてありがとう」

 国王陛下からの伝達者は帰り、王子は黙ったまま私の手を洗い続けた。通達者からの話に、私は体が震えて涙が溢れてきた。

 やった、私は王子の笑顔を守れた。

 私が止めず、陛下がチココ食べてしまい中毒でお倒れになる。中毒の為に意識不明だと報告を受けた王妃殿下はショックの余り……お子を失ってしまう。

 お2人は番、1番、愛している人。

 同時に国王陛下と王妃殿下は床に伏せてしまい、落ち込む王子に、婚約者のミタリア、周りからのからのプレッシャーで王子は心を痛めて笑わなくなる。

 その歴史が変わった。
 お2人と、お子様を失わずに済んだ。

「びにゃぁ! よがったにゃ、あれはやっぱり食べては、いけないものだったにゃ……本当にほんと、よがったにゃ」

「ミタリア……」

 私は王子に手を洗われながらにゃんにゃん泣いた。なんでか、わからないけど涙が止まらなくなった。

「ミタリア、ありがとう。君の勇気ある行動が父上と会場の仲間を救った。あの大勢の中で獣化をするなんて……勇気ありすぎだ!」

 王子に、くるっと向きが変えられた。

「えっ?」

「俺だけのミタリア」

 向かい合う王子と黒猫の私。優しく細められた王子の青い瞳、その影が落ちて小さな私の唇に触れた。

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