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十五

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 朝方、王子が迎えにくる前にナターシャと、昼食用のサンドイッチを使っていた。ナターシャが焼いたパンにバターを塗り、ハムとチーズ、ゆで卵を挟んだ物と、鳥ささみと野菜をふんだんに使った具沢山サンドイッチを作りバスケットに仕舞う。

 飲み物はレモンの果汁、蜂蜜、水で作るレモネードを用意した。デザートにほんのり甘い蒸しパン。

「これでよし」

 格好は、一見お淑やかに見えるふんわり生地、一見ドレスにも見える水色ワンピースにした。

(この姿なら、王妃殿下の前に出てもいいはず)

 長時間の馬車移動は普通のドレスだとキツい。王子だって窮屈な軍服、正装では来ないだろうと踏んだ。

「ミタリアお嬢様、リチャード殿下がお着きになりました」

「いま行くわ」

 ナターシャに呼ばれてバスケットを片手に向かうと、屋敷前に王子が乗るには飾りがなく黒く、大きめな王家専用、馬車が止まっていた。

(昨日、王子が乗ってらした馬車とは大きさが違う?)

 ーー言うならば、ゴツい要塞の様な馬車ね。

「おはようございます、ミタリア様」

「こ、ごきげんよう。今日はよろしくお願いします」

 馬車の入り口で待っていた王子の側近リルに挨拶をして、手を借り馬車に乗り込む。

 乗り込んだ王家の馬車は座席が広くとられていて。中で王子は靴を脱ぎ、クッションを背に本を読み寝そべっている。反対側の座席には似つかわしくない、ふかふかなオフトゥンがひいてあった。

 ーー175センチの王子が余裕で足を伸ばしてる?

 中を見て呆気に取られる私に王子は笑い。

「このような格好で悪いな。おはよう、ミタリア」

「お気になさらず。おはようございます、リチャード様。あの、このオフトゥンはどうされたのですか?」

「ふふっ、俺がミタリアの為に用意した。さぁ好きなように寛いでくれ」

 裸足に、ベストとスラックス姿のラフな格好の王子。その反対側に座った。これは王子のベッドに敷かれていた高級なオフトゥンだ。

(座り心地、触り心地、最高!)

「ふかふか……」

「ははっ、そのオフトゥンを気に入ったようだな。リル! いいぞ、出発してくれ!」

「かしこまりました!」

 王子の掛け声だ走り出した馬車。この馬車を操る従者席に側近リルと従者、馬車の後ろに近衛騎士だけ。王子は第1王子なのにこの人数は少ないのでは。

 もしかして離れて他の騎士が着いてきている。私のそわそわ感が王子に伝わったらしく。

「ミタリア、俺を守る騎士が少ないと思ってる? 何かあれば、俺が獣化して戦うから安心しろ」

 獣化ーー狼の姿で戦うと言った王子。

「い、いくら獣化して傷の治癒力が上がるからって、リチャード様が戦うなんて」

(獣化の特殊能力の1つ。傷を癒やす治癒力が他の者よりも上がるけど)

 ーー王子自ら、戦うなんて。

「危険を予測したトレーニングは常にしているし。いざとなったら、ミタリアを担ぎ駆けることもできる」

「……そうでは、なくて」

(私だってわかってる。獣化した私たちは捕らわれると酷い目に遭う。だからといって王子が戦い怪我をしてほしくない)

 ーー傷付いた王子を見たくない。

「悲しい顔をするな。まさか、俺を心配してくれているのか、ありがとう。まぁ俺が獣化するのは最終手段だからな。一緒に着いてきている近衛騎士、リル、従者は俺よりも腕が立つぞ」

(側近リルの腕前は知っている。ゲームだけど、リルは足音なく近付き。私ーーミタリアを取り押さえたわ)

「どう、安心した? 馬車も余分な宝飾を全て外した。遠慮なくオフトゥンに寝転んでくれ」

「では、お言葉に甘えて」

 バスケットを置き。こてん、ともふもふオフトゥンに横になった。天日干しされた良いオフトゥンだ。肌触りも気持ちいい。オフトゥンを楽しんでいると、クスッと小さく笑う声が聞こえた。

 オフトゥンからチラッと見ると、読んでいる本を胸の上に置き、瞳を細て私を見つめる王子がいた。

(その笑顔!)

 内心ドキドキで、見ないふりをした。

「ミタリア、お昼の時間になったら起こすから、寝てもいいぞ」

「はい、お言葉に甘えて」

 ヒールを脱ぎ、本当にお言葉に甘えて、ゴロンと横になった。
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