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四 (手直し)

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 書庫で王子とのデートが始まった。王子は読書の邪魔になるのからと、中で働く人を全て下がるよう指示した。

 まぁ、書庫の外には警備騎士がいるのだけど。
 書庫の奥の机に王子が座り、離れた位置に私は座った。

「リチャード王子殿下、私はここで、時間になるまで大人しく寝ていますので……」

「……あぁ、分かった」

 ふうっと、王子に何度めかのため息をつかれても、見て見ぬ振りをして、ゴロリと椅子の上で横になり眠った。一つ、わがままを言えば。ふかふかオフトゥンが欲しいけど、そんなこと言える雰囲気でない。

 もし言えば、王子の呆れた視線が飛んでくるだろう……ここは辛抱します。

 では、おやすみなさいませ。



 ? もふ……もふん?

 もふもふ……と顔がもふもふで気持ち良い。
 これは、お家のオフトゥンよりもふかふかで、触り心地もいい、憧れの高級オフトゥンた。

 なにより毛並みのいい、もふもふな毛皮まである。
 ん? 毛皮? ちょっと待て。このもふ、もふ?

「これって、本物にゃん?」

 目を覚まして驚く、私の頭上から大きなため息が聞こえた。

「やっと目が覚めたかミタリア嬢。君は先ほどから――なんて、大胆な寝相なんだ。この狼の僕に襲えと誘っているのかな?」

「にゃ? 大胆な寝相? 狼を、私が誘うにゃ?」

「この状態で、襲わなかった僕を褒めろよ」

 天蓋付きの高級ベッドでへそ天な私と、シルバー色の毛並み、大きなもふもふ狼が仲良く寝そべっていた。

 狼? ……王子はどこ? だと、辺りをキョロキョロしだした私に。

「どうした、ミタリア嬢?」

 と隣の銀色狼が聞いた。

「あ、あなた様はどちらの狼様にゃ?」

 首を傾げてそう聞いた私に、狼は目を細めて大きなため息を吐くと、私のもふもふへそ天のお腹に、もふんと自分の顔を乗せた。

(くばっ、重い!)

「あのさ、ミタリア嬢は忘れたのかな? 僕は狼族の王子なんだけど」

「にゃ!」

 狼族――そうだ、すっかり忘れていた! 王子はゲームの中でも獣化していた。私が忘れていたことに王子はへそを曲げたらしく、長い鼻でぐいぐいと、私のもちもちなお腹を押した。

「にゃぁ⁉︎ すみません! リ、リチャード王子殿下にゃ? あの、えーっと、その、王子殿下も獣化するのですね……」

 適当な切り返しを、した私に。
 今度は馬鹿にした様に、お腹の上でじとーっと王子に睨まれた。

「その言葉を君に返すよ。僕は原種の血が濃い狼王族だからな。それより寝ることに夢中で、油断して、大切な魔石ペンダントを外すな! 君だって誘拐されたくはないだろう!」

 ――誘拐!

「あっ、魔石ペンダントがないにゃ?」

 私が獣化しているということは、いつも身に付けているペンダントが、何かの拍子に外れたということ。

 この状態からして……私は王子に何かしてしまったようだし、気軽に「何かしました?」ても聞けない。
 獣化した王子と私の体の大きさの違い。そして、王子の大きな顔で押さえつけられていて……動けない。

 でも、へそ天は恥ずかしい。

「リチャード殿下、お腹から、どいてくださいませんかにゃん?」

「はぁ? 僕に命令をするのか!」

「……!」

 ――こ、ごもっともです!


「……獣化する君が、僕のつがう相手か?」
 

 その言葉にドキッとした。
 違う、王子の番いは私じゃない、それは断言できる。

 悪役令嬢の私では……番になれない。

「違いますにゃ、私は獣化しますが……殿下のつがう相手ではありませんにゃ!」

 王子には可愛いヒロインがいるもの。

「そう、かってに決めつけるな!」

 強めに声を上げたて、ぐりぐりお腹に顔を埋められた。

 うぎゃっ! 

 ここから逃げるにはケリケリっと足爪で、王子の顔を引っ掻けばいい……のだけど。
 それをやってしまったら私の生涯がいま終わる。
 不敬罪で捕まるし、怒った王子に噛まれでもしたら……と、思うと怖いすぎる。

 グリグリ、グリグリ。

「ふっ、にゃ~ん! 殿下それ、やめてください。私は殿下の番にはなれないにゃ」

「なんで、そう言い切れる?」

「訳は言えないけど……私ではありませんにゃ」


 だって、あなたには……

『白兎?』

『えっ、わ、私、兎の姿になってる?』

『お前は自分が獣化するって、知らなかったのか?』

『獣化って何?』

『知らないのか? ここにいては危ない、私の休憩室に行こう』

 学園にある王子の休憩室に行くんだ。
 私の好きなイベントの一つだった。
 それから王子がヒロインが気になり出し始めて――いつしか、恋に変わっていくんだ。

 獣化が二人のきっかけを作る。……って、今の私はその状態じゃない? 
 
 でも、私は悪役令嬢……だけど。
 変なフラグを立てる前に逃げよう!

「あの、殿下? そろそろデートの終わる時間では、ありませんかにゃ?」

「いや、まだ終わるまで一時間はあるぞ。デート時間が終わるまで、ミタリアは俺のふかふか枕な」

「うにゃ? まくらって、殿下! へそ天に顔を乗っけられるのも恥ずかしいのに、一時間もこの格好ですにゃん~!」

 慌てる私に王子はクッククと、低く笑い、意地悪な笑みをして、

「なんだよ俺に足を向けて、ぱかーんと見せ付けるように、へそ天してたくせにか?」

「俺? えっ、殿下がいま俺と言ったにゃ? それに私の名前を呼び捨てしたにゃ? ……それにへそ天したって! 嘘、私って殿下に足を向けて、へそ天したのですかにゃぁ!」

 私の目を見て、コクリと頷く王子。

「あぁ、したな。ミタリアはどれだけ俺に安心と、信頼を寄せたんだ……お陰で色々と見てしまったぞ。それにお前は他の令嬢よりベタベタしてこないし。面白いから――明日から毎日、俺に会いに来い」

(そりゃ、ベタベタはしませんけど。面白いからって、明日から毎日ここに来るの⁉︎)

「にゃっ⁉︎ あの殿下、毎日、登城はちょっと無理じゃないですかにゃ? 殿下も執務お忙しいでしょ?」

「確かに忙しいが――ミタリアに会う時間くらい作れる。そうだ、言うの忘れていた。今日付けにより、ミタリアは俺の婚約者となった。既に父上にも知らせたから光栄に思え」  

「婚約にゃ⁉︎」

 父上に報告って、ことは国王陛下だ? 


「(まじ)にゃぁぁあぁぁ――ん!」

「ミタリア、そんなに喜ぶな」

 し、知らないうちに(寝ているうちに)何かフラグが立った、思いっきり立った!

「いや、嫌にゃぁ~、殿下との婚約はご辞退申し上げますので、それでお願いしますにゃ!」

「無理だな。既に話はついている諦めろ」

「諦めろって、言われても。無理、無理、無理にゃん!」

「そう言うなって、ミタリアが婚約者で俺は優しいぞ」

「嬉しいにゃ?」

「あぁ、嬉しい」

(嘘だ、ぜったに嘘! 面白いって言ったもん!)

 王子は楽しそうに笑い、私のお腹を更にぐりぐりした。
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