上 下
6 / 17

白スズメ飼い始めました

しおりを挟む
大粒の涙を流しながらここに住まわしてくれと言われたら、辛うじて残っている良心が痛むってもんだ。

(──って言うか、本当に追い出されたのか……)

天界に興味はなかったが、神様を追い出す天界に少し興味が湧いた。

「……はぁ~、分かった。ここに置いてあげる」

「本当か!?助かった!!私の事はライと呼んでくれ」

降参とばかりに両手を上げここに残ることを承諾すると、突っ伏していたスズメが顔を上げ小さな目を輝かせながら喜んだ。

しょうがないよね。一応神様だし、恩を売っておいて損はない。

この状況をいい方向に考えようとしていた所で、扉が開き兄のイアンが入ってきた。

「──シア、ちょっといいかい?」

「ええ。どうしたの?」

慌てて肥満スズメを後ろに隠した。

「実は紹介したい人がいるんだ」

「……えっ?」

物凄く嫌な予感がする。
アイザックは何しにこの屋敷にやって来た?お父様に訪問?いや、私は一度もブロンド家の名を聞いたことがない。
じゃあ、何しに……?

「──先程ぶりだね。シンシア嬢」

一番会いたくない人物が私の目の前に現れた。

私は思わずライを握っている事も忘れ、全力で握り締めてしまった。後ろから「グエッ」という鳴き声で正気に戻ったが

「シンシア、この方は僕の上司で副団長のアイザック様だ」

「わざわざこの男爵家に足を運んでくださったんだ」と興奮しながらも誇らしげに言ってくる兄が恨ましい。

私はどうにか気持ちを落ち着かせようと必死で、会話なんてしている場合ではないと言うのに。

「……シンシア?どうしたんだい?」

「いえ……なんでもありませんわ。……ようこそお越しくださいました。私はシンシア・マクスヴェルと申します。……ごゆっくりお過ごし下さい」

笑顔が引き攣ってないだろうか?ちゃんと出来ただろうか?

「……おい、大丈夫か……?」

後ろから小声で私を心配するライの声が聞こえたが、答えている余裕が無い。
アイザックの顔を見る度に思い出す、元婚約者ダロンの裏切りの言葉、私の死を喜ぶ笑顔。そして、最期の姿……

ブワッと何かが込み上げてきた。その瞬間目の前が真っ暗になり、私は気を失った。

気を失う時に見たライは、本来の姿になっていたような気がした……


◇◇◇


『……貴方はまだあの男が許せないの?』

『当たり前じゃない。私を裏切った男よ?生まれ変わっても許さないわよ』

『……あの男は死んだの。継母も義姉も、もういない。何をそんなに恐れるの?』

『恐れてなんかいないわ。ただ、私は──……』




「ハッ」とベッドの上で目が覚めた。
気付けば外は暗く、時間的に真夜中だろう。

「……夢か……」

夢の中でに自問自答してきた。

(……言われなくなって分かってるわよ……)

憎かった継母も義姉も、元婚約者のダロンもこの世にはもういない。
でもね、悪霊になるほど人を恨んでしまえばその恨みの念は簡単には消えないのよ……

「──……まったく、簡単に闇に呑まれおって」

声がした方を振り向けば、本来の姿でライが窓際に立っていた。
月夜に照らされたライの姿は、ムカつくほど美しかった。

「……その姿ムカつくから肥満スズメに戻ってくれない?」

女の私より美しい姿より、肥満スズメの方がまだ可愛げある。

「お前ぐらいだぞ、私をそんな風に言う奴は……まあ、この姿も長くはもたんのでな」

そう言うと、ポンッと見慣れた肥満白スズメ戻り、重い体で必死に羽ばたせながら私の膝の上へとやって来た。
その姿に、忘れかけていた感情が湧き上がってきた。

「……可愛い……」

無意識に呟き、息切れしているスズメを撫で回した。
特にでっぷりとしたお腹周りを重点的に。

「……お前は自分の感情ぐらいコントロール出来んのか?」

ライが呆れながら説教をしてくるが、このお腹のせいで真剣味が半減されてる。

「仕方ないじゃない。私はそんなに出来た人間じゃないのよ」

「このままでは、お前はまた悪霊に戻ってしまう。そうなれば私の手には負えなくなり、今度こそ魂が消滅してしまうぞ?」

軽く聞いていたが、結構重要な話をしていることに気づいた。

「……じゃあ、私にどうしろって言うのよ?」

消滅したくなくて転生したのに、消滅してしまったら本末転倒だ。

「まずは自分で感情をコントロール出来なければ意味が無い。──そこでだ、一日に一度……いや、二日に一度でもいい。アイザックと言葉を交わせ。荒療治だが、これが一番手っ取り早い」

……簡単に言ってくれるなこの不摂生スズメは。

「都合がいい事に、アイザックはしばらくこの屋敷に滞在するらしいしな。挨拶から始めてみよう」

挨拶からって子供か?それより気になる単語が聞こえた。滞在だと?

「あの人自分の屋敷持ってるよね?何でわざわざ滞在する必要があるの?」

貴族が貴族の家に滞在することは良くあること。
だが、それは地方へ行った時に宿泊施設として借りる為だ。
同じ王都にいる人間がわざわざ滞在する意味がわからない。

「それはな、お前の兄が引き止めたからだな。お前、明日誕生日だろ?その為にアイザックを呼んだらしい。こちらが招待したのだから、ゆっくりしていってくれってな」

忘れてた……明日は私の成人を祝う夜会が開かれるんだった。

なるほど。妹の成人の日を華やかに彩ろうと副団長であるアイザックを招待したのか。

(あの兄の考えそうな事だ……)

18年連れ添った兄妹だもの。それぐらい手に取るように分かる。

「悪霊回避、魂維持の為に頑張れ」

小さな羽根でポンッと励まされた……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。 そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。 自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。 そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました

ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー! 初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。 ※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。 ※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。 ※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m

偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜

浅大藍未
恋愛
国で唯一の公女、シオン・グレンジャーは国で最も有名な悪女。悪の化身とまで呼ばれるシオンは詳細のない闇魔法の使い手。 わかっているのは相手を意のままに操り、心を黒く染めるということだけ。 そんなシオンは家族から疎外され使用人からは陰湿な嫌がらせを受ける。 何を言ったところで「闇魔法で操られた」「公爵様の気を引こうとしている」などと信じてもらえず、それならば誰にも心を開かないと決めた。 誰も信用はしない。自分だけの世界で生きる。 ワガママで自己中。家のお金を使い宝石やドレスを買い漁る。 それがーーーー。 転生して二度目の人生を歩む私の存在。 優秀で自慢の兄に殺された私は乙女ゲーム『公女はあきらめない』の嫌われ者の悪役令嬢、シオン・グレンジャーになっていた。 「え、待って。ここでも死ぬしかないの……?」 攻略対象者はシオンを嫌う兄二人と婚約者。 ほぼ無理ゲーなんですけど。 シオンの断罪は一年後の卒業式。 それまでに生き残る方法を考えなければいけないのに、よりによって関わりを持ちたくない兄と暮らすなんて最悪!! 前世の記憶もあり兄には不快感しかない。 しかもヒロインが長男であるクローラーを攻略したら私は殺される。 次男のラエルなら国外追放。 婚約者のヘリオンなら幽閉。 どれも一巻の終わりじゃん!! 私はヒロインの邪魔はしない。 一年後には自分から出ていくから、それまでは旅立つ準備をさせて。 貴方達の幸せは致しません!! 悪役令嬢に転生した私が目指すのは平凡で静かな人生。

怪奇短篇書架 〜呟怖〜

縁代まと
ホラー
137文字以内の手乗り怪奇小話群。 Twitterで呟いた『呟怖』のまとめです。 ホラーから幻想系、不思議な話など。 貴方の心に引っ掛かる、お気に入りの一篇が見つかると大変嬉しいです。 ※纏めるにあたり一部改行を足している部分があります  呟怖の都合上、文頭の字下げは意図的に省いたり普段は避ける変換をしたり、三点リーダを一個奇数にしていることがあります ※カクヨムにも掲載しています(あちらとは話の順番を組み替えてあります) ※それぞれ独立した話ですが、関西弁の先輩と敬語の後輩の組み合わせの時は同一人物です

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...