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侍女兼便利屋

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「マリー、少しいいだろうか?」

いつものように、城の中を行き来していると料理長ことエリック様に呼び止められました。

あまりお話したくありませんでしたが、お断りできる身分では無いので、仕方なく了承しました。

「……この間はすまなかった。驚いたろ?」

この間と言うのは、エリック様に意気地がないので、ご両親のカデュール公爵に結婚の話を持ちかけてもらった、あの事ですね。

「ええ。ですが、こちらとしては婚約にしろ、結婚にしろご本人の口から聞くのが筋だと思っております」

「そ、そうだよな……」

エリック様は、そう言うと俯き手をモジモジさせるばかりで次の言葉が返ってきません。

──少々イライラしてきましたね。

私はこういう、はっきりしない方が大嫌いなのです。
白なら白、黒なら黒と物事をはっきりさせたいのです。

フラン様には申し訳ありませんが、これではエリック様との結婚は死んでもありえませんね。

よくもまあ、こんな方が料理長まで昇り詰めれましたね。

……まあ、料理の腕は一流ですからね。

「あの、お話がないようでしたら失礼致します」

「待ってくれ!!」

頭を下げ、この場を去ろうとしたらエリック様に腕を掴まれました。

「……この際はっきり言わせて貰いますが、私は暇では無いのです。今は業務中ですのでそんなモジモジ、ウジウジされていると非常に迷惑なんです」

「す、すまん……」

エリック様はシュンと更に項垂れてしまいました。
その姿はまるで叱られた犬の様。

──なるほど、人ではなく犬として見れば苛立ちませんか?

「それで、お話とは何でしょう?」

仕方なく、エリック様の言い訳を聞くことにしました。

「この間は騙して悪かった。本当は俺から言おうとしたんだ。しかし、マリーの顔を見ると頭が真っ白になって言葉が出てこないんだ」

私の顔を見ると、記憶障害になるんでしょうか?
それは私に会わない方がいいです。

「だが!!この気持ちは本当なんだ!!俺はマリーと、け、け、け、け」

毛?

「結婚したい!!俺の妻になってくれ!!」

「お断ります」

「即決!!!!?」

エリック様はその場に崩れ落ちました。

──まったく忙しい方ですね。

まあ、ご自身の口から言えたことは称賛しましょう。
よく、頑張りました。
しかし、それとこれとは別問題。

「……あのですね、エリック様もご存知の通り、私は落ちぶれた元令嬢です。しかも、多額の負債を抱えた劣悪物件です。エリック様とは不釣り合いです」

「そんなもの俺が何とかする!!」

いえ、すみません。建前です。本当の理由はエリック様の性格が私には不向きです。
この方と一生を共にした時に考えられる、私の精神的苦痛が一番の理由です。

「……とりあえず、エリック様とは結婚出来ません。他を当たってください」

そう伝え、その場を去ろうとすると再び腕を掴まれました。

「待ってくれ!!俺はマリーが運命の人だと思っている!!」

そんな運命は断ち切って下さい。
私の運命の方はエリック様ではありません。

「俺のどこが気に入らない!?直すから教えてくれ!!」

──これは、絶好のチャンスじゃないですか?
ここで、一刀両断してしまえば諦めも着くというもの。

「──そうですね。では言わせて頂きますが、エリック様の性格が私には合いません。男性なら物事をはっきりお答えなさい!!」

「は、はい……」

ビシッと指を指し言い切ると、エリック様は小さく返事をしました。

「返事が小さいです!!もっと大きく!!」

「はいっ!!!!」

エリック様はビシッと起立し、大きな声で返事しました。

……これではまるで、犬の躾ですね。

私は、はぁ~と溜息を吐きながらエリック様をその場に残し、仕事へと戻る事にしました。
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