ひきこもり令嬢の婚活事情

甘寧

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 ギルベルトとの縁談が無事に終わった翌日、レティはウィルを呼びつけた。

「お呼びで?」
「単刀直入に聞きますが、私に黙っている事あるのではなくて?」

 頬杖を付きながら問い詰めるが、ウィルは「はて?」と素知らぬ顔でその場を収めようとしている。

「裏付けは取れてますの。今更言い訳を述べるなんて貴方らしくありませんよ?」

 ニッコリと笑みを浮かべながらウィルを追い詰めると、覚悟を決めたのか。はたまた諦めたのかは分からないが、渋々話し出した。

「何処で仕入れた情報かは知りませんが、又聞きした情報を簡単に鵜呑みにするのは、褒められたものじゃありませんね」
「あら?違うの?」
「否定はしておりませんよ」

 背後で腕を組みながら澄ました顔で言い切る。何とも面倒臭い従者だ。

「用意周到な貴方が、珍しく足跡を残したのには訳があるでしょう?」
「は?私がそんな間抜けなことするとでも?足跡所か髪の毛一本すらも残しておりませんよ」
「…………………………おや?」

 自慢気に言ってのけるウィルだが、嘘は言っていない。こんなくだらない嘘をつくような人間ではないと分かっている。

(と言う事は)

 てっきりウィルの仕業と思い込んでいたが、もしや、本当に不届き者が北の地に踏み入ったと言うこと?

「質問を変えましょう。貴方以外の人間がその場にいた?」

 まどろこしい言い方はやめて、確信を突いてみた。

「直接的に見てはいませんが、気配が残ってました。気配を残すなんて素人の所業ですね」

 自分はそんな事しないと、得意気に言い放った。

「……………何故、それを報告しない……………」

 素人云々の話しではなく、報告の重要性は?とレティは痛む頭を抱えた。

「こんな事、貴女に言ったところで仕方ないでしょ?」

 確かにそれを言われたら何も言えない。ひきこもりで他人の事には基本無関心。仮に知った所で非力な令嬢如きが出来ることは何も無い。

「それに報告せずとも、先の者は生きてる可能性が少なかったですからね。報告せずにいたんですよ」
「?」
「素人の者が雪深く、魔獣の多く蔓延る地に足を踏み入れたんですよ?まさに獣の檻に餌を放り入れたようなものです。その証拠に、で気配が突如消えてました」

 ウィルの言うとは、縄り意識の強い魔獣の住処だったらしい。血痕などは残っていなかったらしいが、恐らくパックリと……

「まあ、そういう事ならもう安心ですわね」

 ギルベルトが言っていた犯人も判明し、その犯人は今頃胃袋の中。これで憂いは無くなったとレティは喜んでいた。

「……そうだと良いんですがね……」

 そう呟いたウィルの声はあまりにも小さく、レティの耳には届かなかった。


 ◈◈◈


「やあ、ギル」
「なんだ、お前か」

 城の廻廊でエルヴィンは、ギルベルトを見かけて声をかけた。

 ギルベルトは名を呼ばれて一瞬眉を顰めたが、相手がエルヴィンだと気付き足を止めた。

「この間は無理を言ってすまなかった。改めて礼を言わせてくれ」
「別に大したことはしていない」

 頭を下げるエルヴィンに素っ気ない態度を見せたが、エルヴィンは気にしてる様子は無い。

「どうだった?うちの娘は」
「随分と大人しい印象だったが、やはりお前の娘だけあって肝が据わってる。俺が睨みつけても目を逸らさなかった」

 レティが無理してまで目を逸らせなかった理由わけを知らないギルベルトはそう解釈したらしい。

 その話を聞いたエルヴィンは内心おかしくて仕方なかったが、今はまだレティの事を知られるのは時期早々だと黙っていることにした。

 きっとギルベルトも鉱石の件は知らないはず。伝えたところでこの男の事だ。周囲に漏らすことはないとは思うが…………

 父であるエルヴィンは、周りの人間に知られて可愛い娘に危害が及ぶことを危惧しているのだ。

「気にったのならいつでも会いに来てくれて構わないよ?」
「は、勘弁してくれ」

 ギルベルトは捨て吐くように言うと、踵を返した。

「いつまでしがらみに縛られてるつもりだい?」

 引き留めるようにエルヴィンが声を掛けると、ギルベルトの足が止まった。

「君も幸せになっていいのではないかい?」
「…………………………」

 その問いに返事はなく、ギルベルトはエルヴィンを残して去って行った。

「まったく……」

 呟くように溜息を吐くと、エルヴィンもゆっくりと足を進めた。


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