断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧

文字の大きさ
上 下
19 / 26

19

しおりを挟む
「…………もう一度言ってくれる?」

 リーゼは自身の部屋で、険しい顔をシンに向けながら問いかけた。

「だ・か・ら、殿下の現婚約者が主を追っかけて戦地に乗り込んだらしいよ?って言ったの」
「あんのアバズレ!!!!!!」

 バンッ!!と勢いよく机を叩きつけながら立ち上がった。
 シンはタイミングよくお茶の入ったカップを器用に持ち上げながら笑い転げている。

「あははははは!!思った通りの反応だね」
「笑い事じゃないわよ!!」

 ウィルフレッドに猛烈アプローチ掛けていることは知っていたが、相手にされないからってここまでする!?

「名目は騎士達のお世話らしいけど、十中八九目的は主一人だね」
「…………」
「それに、よく言うじゃない?戦地では危険と紙一重で本能的に子孫を残そうとするから、気持ちが昂りがちだって…あっちからすれば、既成事実ワンチャンいけるかも。的なノリじゃないの?」

 不安になるような事を淡々と述べるシンを睨みつけた。

 ウィルフレッドに限ってそんな過ちはないと信じたいが、ないと言い切れない所がまだ信用しきれていない証拠だ。

 リーゼは頭を抱えながら悩んだ。

 自分も行くべきか。だが、行ったところで邪魔になる。邪魔だと思われるぐらいなら、ここに残った方が…だけど、それだとあの女の毒牙にやられる可能性も…

 様々な感情が巡り、葛藤しながらも答えが出ない。

「ねぇねぇ、お嬢さんさ。大事な事忘れてない?」
「大事な事?」

 首を傾げながら聞き返すが、まったく検討が付かない。

「ヤダなぁ。僕がいるじゃない」
「……………」
「あ、ヤダ。何その顔」

 自慢気に言われたが、シンがいた所で不安は解消されない。リーゼは不満に満ちた顔で睨みつけた。

「その顔は訳が分からないって顔だね」
「…………」
「あはは、正直だね」

 シンは茶化すように笑っていたが、スンッと真剣な表情になり、リーゼに向き合った。

「いい?これから僕は主の元に向かう。女狐を強制的に連れ戻す為にね」

 細目を薄らと開けて口角を上げた。
 その笑みはゾッとするほど、猟奇的な印象だった。

「次期王太子妃を傷付けたなんて事になったら、この国だって黙ってはいられないだろ?流石に事が事なんでね。早急に連れ戻せってお達しがあったんだよ」

 なるほどね。国王様も遂に、重い腰をあげたって訳か…随分と遅いこと。

「うちの大将もいい加減堪忍袋の緒が切れる寸前でね。僕からすれば国なんかより、そっちの方が厄介な訳」

 困り顔で溜息混じりに言うところを見ると、シンの本音はこちらの方なんだろう。

「そんな訳で、しばらく留守にするけど…僕が帰るまで勝手な行動はしない事。何かあったらすぐに騎士であるお兄ちゃんを頼る事。分かった?」
「子供じゃないんだから…」
から言ってるの!!」

 そんな物凄い圧で言われたら「はい」としか言えない。

 まあ、この屋敷には父も兄もいる。シンがいなくても大丈夫だろう。そう思って、笑顔でシンを送り出した。


 ❊❊❊


「ウィルフレッド様、お茶が入りましたわ」
「……そこに置いておいてくれ」

 お茶を手にしたアリアナが、身体を密着させるようにウィルフレッドに寄り添って来た。

 胸元を大胆に開けた装いで、嫌でも胸元が目に入ってしまう。その視線に気が付いたアリアナは照れる様な素振りを見せながらも、頬を染めて微笑んでいる。

 アリアナがここに来たのは二日前の事。

 前もってシンが情報をこちらに寄こしてくれていたので慌てることはなかったが、戦地へ婚約者を寄こすなどロドルフの奴は何を考えている。

 ウィルフレッドは書類を目にしながら苛立ちを必死に抑え込む。だが、そんなことはアリアナには関係がない。

「わたくしにお手伝いできる事はありませんか?…例えば、夜のお相手とか…」

 大きな背中を撫でるようにしながら、豊満な胸をこれ見よがしに押し付け問いかけてくる。この言葉を聞いたウィルフレッドは呆れるように溜息を吐いた。

「それは、ロドルフの婚約者という立場を分かっての言葉か?」

 背中に張り付いていたアリアナを引き離すと、鋭い眼光で睨みつけた。その眼差しに一瞬怯んだが、何が何でもウィルフレッドをモノにしたいアリアナは必死に食らいつく。

「当然ですわ。次期王太子妃として、国を護る騎士達を労うのも役目だと思っております」

 胸を張って言い張るアリアナを黙って睨みつけた。

「こんな戦場ではお相手できる者がおりませんでしょ?この身体で溜まった熱を放出してください。…ああ、ご安心ください。リーゼ様には黙っておきますわ。ですから──」

 熱を帯びた目でウィルフレッドの胸に寄り添おうとした瞬間、思いっきり弾かれた。

 アリアナは「キャッ」と小さな悲鳴を上げて、その場に倒れ込んだ。
 すぐに顔を上げて「何をするんです!!」と文句を言おうとしたが、ウィルフレッドの顔を見てヒュッと息を飲んだ。

「黙って聞いていれば…いい加減にしろよ。身体を使って奉仕だ?はっ、次期王太子妃より娼婦の方が性に合ってるんじゃないか?」
「ーなッ!!」
「どこでそんな教育を受けてきたんだ?まあ、妃教育をまともに受けていれば、こんな場所に来ることも他の男に媚びを売る事もしないだろうがな」
「…………」

 アリアナはギリッと唇を噛みしめ、ウィルフレッドを睨みつけた。

「先に言っておくが、俺はロドルフとは違うからな。どんなに媚びを売って来ようと、お前に靡くことはない。それに、リーゼの方が何十倍もいい女だ。そんな上等な女がいるのに、下等な者に手を出す奴などいないだろ」
「う、ウィルフレッド様はあの女に騙されているんです!!あんな女よりわたくしの方がウィルフレッド様を悦ばせてさしあげれます!!」

「だから、一度だけでも…」と服をはだけながら言うと、今までにないない程の冷たい視線で睨まれた。

「はっきり言わないと駄目か?俺はリーゼにしか欲情しない。例え、絶世の美女だと言われる女が来ても同じだ。その点、お前は誰にでも尻尾を振っているからな。女と言うより雌犬だと認識しているが?」

「フッ」と嘲笑うように言えば、アリアナは悔しさか恥ずかしさかは分からない様な表情でウィルフレッドを一睨みすると、足早にその場を駆けて出て行った。

 ようやく静かになったところで、椅子に深く腰掛け天を仰ぎ、愛しい人の顔を思い出していた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

辺境令嬢ですが契約結婚なのに、うっかり溺愛されちゃいました

星里有乃
恋愛
「契約結婚しませんか、僕と?」 「はいっ喜んで!」  天然ピンク髪の辺境令嬢マリッサ・アンジュールは、前世の記憶を持つ異世界転生者。ある日マリッサ同様、前世の記憶持ちのイケメン公爵ジュリアス・クラインから契約結婚を持ちかけられちゃいます。  契約に応じてお金をもらえる気楽な結婚と思いきや、公爵様はマリッサに本気で惚れているようで……気がついたら目一杯溺愛されてるんですけどぉ〜!  * この作品は小説家になろうさんにも投稿しています。  * 1話あたりの文字数は、1000文字から1800文字に調整済みです。  * 2020年4月30日、全13話で作品完結です。ありがとうございました!

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

処理中です...