上 下
12 / 26

12

しおりを挟む
「ねぇ、ミリー。ちょっと話があるんだけど」
「どうしたんです?そんな神妙な顔をして」

 机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に置きながらミリーに問いかけた。
 ミリーは先日拾った子猫(バニラと命名)と遊びながらリーゼに向き合った。

「薄々感じてはいたんだけど、もしかしてと思って…」
「なんですかぁ?勿体ぶらずに言っちゃって下さいよ」
「団長様…ウィル様って、もしかしてだけど…私の事、本気で好きなんじゃと思ってるんだけど…」

 そう問いかけた瞬間、ミリーは驚いたと言うか驚愕の表情を見せた。その表情を見て、リーゼは完全にやらかしたと思っていた。

 あれ!?やば。これは自意識過剰、勘違い野郎の方だった!?

 リーゼは羞恥心で全身が燃えるように熱くなっている。いっその事、このまま燃え尽きたい。

「ごめん!!今のは忘れて!!団長様が私なんかに本気になるわけないのにねぇ。はは、私ったら血迷ってたわ」

 慌てて取り繕ったが、何故か自分で言った言葉が胸に突き刺さる。笑顔を作ろうとするが、顔が引き攣っているのが自分でもよく分かる。

 そんなリーゼを見たミリーは、ゆっくりと口を開いた。

「何を今更当たり前の事言っているんです?」

 首を傾げながら不思議そうに言い切った。

「え?本当に…?」
「逆にそんな質問が出た事が驚きです。誰がどう見ても大切にされているは明らかじゃないですか」

 大切にされていると言うより、遊ばれている感が否めない…それでも時折見せる瞳は、とても柔らかで優しくて暖かくて…悔しいけれど、その瞳が凄く好きだった。

「この屋敷にいる者全員に聞いても同じ意見だと思いますよ?」
「そ、そう…」

 顔が火照るのが分かり、慌てて顔を逸らした。

「ちなみに、お嬢様はどう思っているんですか?」
「えっ!?私!?」

 ミリーに詰め寄られ、思わず飛び退いた。

 どうって……そんなことを聞かれるとは思ってもみなかったから、上手く言葉出てこない。

「顔良し、家柄良し、高収入、周囲の評判も上々。こんな高スペックそう簡単には見つかりませんよ?」

 そう言われればそうなんだが、その相手が訳あり令嬢となれば当人はよくても周りは黙っていない。まあ、それを訴えた所でウィルフレッドは「気にするな」と言うだろうし、周りを黙らせることぐらいしそうだ。

(こっちはそうもいかないんだよ)

 本当の所、ウィルフレッドを好きになってしまった時の自分を考えた時が怖い。

 人を好きになる事が怖いんではなく、もしウィルフレッドに好きな人できて自分が捨てられる事を考えたら恐ろしくて仕方ない…

 恋愛なんて一生無縁だと思っていた節もあってか、絶対に惚れない自信があったからこそ、ウィルフレッドの隣にいるが、ここ最近その自信が失われつつある。
 気のせいだと自分に言い聞かせて虚勢を張っているが、このままでは取り返しがつかなくなると分かっている。
 だからこそ、花が咲く前に蕾を摘む必要がある。

 …この屋敷に滞在して一月ほどが経つ。そろそろ頃合いだろう。

 リーゼは意を決したように、隣と繋がるドアを眺めた。


 ❊❊❊


 コンコン…

 夜遅く、ウィルフレッドが帰宅した頃を見計ってドアをノックした。

「珍しいな。夜這いか?」

 わざわざドアを開けてくれ、リーゼを迎え入れてくれる。

 嬉しそうにリーゼを見つめるウィルフレッドに、今から伝えようとする言葉を飲み込んでしまいそうになる。

 促されるまま、ソファーに座って深呼吸をした。

 初めて入ったウィルフレッドの私室は無駄なものが置いておらず、リーゼの部屋と比べると随分殺風景な印象だ。

「単刀直入にお伝えします。婚約を白紙に戻し──」
「断る」
「…………」

 全て言い切る前に、食い付き気味で言い返された。

 まあ、こっちだって簡単にいくとは思っていない。

「ええ~…仮の婚約者となって一月経ちましたが、殿下との婚約破棄の件は下火になってますし、あの二人の動向に変化もありません。この辺りで、しれっと白紙に戻してもさほど騒がれないはずです」

 ウィルフレッドは黙ってリーゼの目を見つめて逸らさない。全身の毛穴から汗が吹き出すほどの威圧感を感じながらも続けた。

「それに、あまり長く私が隣におりますと次の婚約者を探す際の足枷となってしまいます。ここで元に戻すのがお互いの為なんです」

 そう…これ以上ここにいたら駄目…この人に、私は釣り合わない…

 ギュッと拳を握りしめながら伝えた。
 ウィルフレッドは一言も発さず黙っている。自分勝手過ぎると呆れているのか怒っているのか…どちらにせよ、自分が悪いと分かっている。リーゼは怒号も覚悟していた。

「…………そうか」

 落ち着いた声だが酷く冷たい声が聞こえ、ビクッと肩が震える。

「そちらの気持ちはよく分かった。随分と勝手なことを言うな」

 頭上からかけられる言葉が心を締め付けるように絡みついてくる。

 リーゼはウィルフレッドの顔が見れず、黙って俯いたままだった。その様子に「そちらがその気なら」とウィルフレッドはリーゼを抱き上げた。

「なッ!?」
「黙っていないと舌を噛むぞ」
「いや、離してください!!」

 必死に抵抗をして、ドサッと置かれた先はベッドの上…

 直感でヤバいと感じ、這いつくばって逃げようとしたが腕を掴まれ組み敷かれてしまった。逃げられぬように腕を拘束され、そのまま食らいつくように乱暴に唇を奪う。

「……ん……ちょ…………」

 苦しそうに目に涙を浮かべて訴えるが離してくれない。

 空気を求めるように口を開けたら、舌が絡み付いて更に苦しくなる。

「………ッん~~……ん~……!!」

 執拗に絡みついてきてもう限外だと思い始めた所で、ようやく離してくれた。涙で滲む視界でウィルフレッドを見ると

 ドキッ

 月明かりに照らされながら濡れた唇を舐めるウィルフレッドは、とても魅惑的で妖艶でとても同じ人とは思えないほど美しかった…

「乱暴な事はしたくなかったが仕方ない。今からお前を抱く」

 そう言いながらシャツのボタンを引きちぎった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

離婚します!~王妃の地位を捨てて、苦しむ人達を助けてたら……?!~

琴葉悠
恋愛
エイリーンは聖女にしてローグ王国王妃。 だったが、夫であるボーフォートが自分がいない間に女性といちゃついている事実に耐えきれず、また異世界からきた若い女ともいちゃついていると言うことを聞き、離婚を宣言、紙を書いて一人荒廃しているという国「真祖の国」へと向かう。 実際荒廃している「真祖の国」を目の当たりにして決意をする。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

【完結】私に冷淡な態度を取る婚約者が隠れて必死に「魅了魔法」をかけようとしていたらしいので、かかったフリをしてみました

冬月光輝
恋愛
キャメルン侯爵家の長女シャルロットは政治的な戦略としてラースアクト王国の第二王子ウォルフと婚約したが、ウォルフ王子は政略結婚を嫌ってか婚約者である彼女に冷淡な態度で接し続けた。 家のためにも婚約破棄されるわけにはいかないので、何とか耐えるシャルロット。 しかし、あまりにも冷たく扱われるので婚約者と会うことに半ばうんざりしていた。 ある日のことウォルフが隠れて必死に呪術の類のようなものを使おうとしている姿を偶然見てしまう。 調べてみるとそれは「魅了魔法」というもので、かけられた者が術者に惚れてしまうという効果があるとのことだった。 日頃からの鬱憤が溜まっていたシャルロットはちょっとした復讐も兼ねて面白半分で魔法にかかったフリをする。 すると普段は冷淡だった王子がびっくりするほど優しくなって――。 「君はどうしてこんなに可憐で美しいのかい?」 『いやいや、どうしていきなりそうなるのですか? 正直に言って気味が悪いです(心の声)』  そのあまりの豹変に気持ちが追いつかないシャルロットは取り敢えずちょっとした仕返しをすることにした。 これは、素直になれない王子と令嬢のちょっと面倒なラブコメディ。

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

処理中です...