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episode.14
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結論から言うとリアムとヨルグは、仲良くなることはなかった。だが……
『小僧。次会った時にはお主の吠え面を見せてもらうからな』
「何言ってるか分かんないけど馬鹿にされたことだけは分かるね。次こそはその肉そぎ落としてやるから覚悟してなよ」
『ふん。口の減らん奴だ』
そう鼻を鳴らすヨルグだったが、その表情はどこか楽し気だった。
『娘、世話をかけた。すまぬな』
「いえいえ。こちらこそリアムがごめんなさいね。それと私の名はベルベットよ。ベルって呼んで頂戴」
『ベルか……あい、分かった』
「それと、一つだけ約束して。この場所は他言無用でお願い」
ヨルグが帰る前にこれだけは絶対約束を取り付けたかった。まあ、簡単に人の家の場所を話すような狼に見えないが、言質が欲しかった。
『それは構わぬが……』
「絶対よ!!お願いね!!」
ベルベットのあまりに必死な形相にヨルグはその理由が聞きたかったが、流石に無粋だと思い口を閉じた。
『人と言うものは面倒な生き物だな……』
そう呟くと大きな尻尾で挨拶をすかのように頭を一撫でしてからゆっくりと帰路についた。ベルベットは黙ってその後姿を見送った。その表情は心から安堵したような穏やかな表情を浮かべていた。
ヨルグにこの場所を知られたのは不測な事態だった訳だが、覆水盆に返らず。今更、過去には戻れない。ならばこれから起こりうる可能性を潰して行けばいい。
(言質は取った。これで大丈夫)
……そう思っていたのに……
❊❊❊
『あい、すまぬ』
「な、な、な、な、な…………!!!!」
二日後再び姿を現したヨルグだったが、頭を項垂れて浮かない顔で扉の前に座っていた。最初はどうしたんだ?と不思議に思っていたが、後ろから現れた人を見て全身の血の気が引いた。
「みぃつけた」
薄ら笑いを浮かべながら、ベルベットの前に出てきたのは教皇であるロジェ。表面上は笑顔だが、その目の奥は笑っていない。
最悪な事に今家にいるのはベルベット一人だけ。あまりのタイミングの悪さに自然と足が後退ってしまう。それと同時にあれだけ約束したのに、それを破ったヨルグに怒りが湧いてきた。
『ち、違う!!こやつが勝手に我の後を付いて来おったのだ!!断じてお主との約束を破った訳では無い!!』
ジト目で見つめているのが分かったのか、ヨルグが慌てて言い訳を述べてきた。
あくまで自分は悪くない。と言いたいようだが、そんな事こちらからしたら知ったこっちゃない。
「ああ、ちゃんと自己紹介をしていませんでしたから驚くのも仕方ありませんよね。──私はこの国で教皇位を持っており、このヨルグの後見人でもあります」
ベルベットの様子など気にも止めず、淡々と自身のことを話すロジェ。
そんな事今更話されなくても知っているベルベットはジリジリと距離を詰めてくるロジェからどうやってこの場を切り抜けか必死に考えを巡らせていた。
「……そんなお偉い方がこの様な辺鄙な場所に何用でしょうか?」
「おやおや、そんな事聞かずともお分かりでしょう?」
ロジェはベルベットを逃がさんと言わんばかりに目を光らせながら詰め寄ってくる。
もしかして、私が悪役令嬢だと言うことがバレて捕らえに来たとか?いや、それは無い。この人の前でシャノンと対面したことは無いし、万が一の事を考えて私の身の上は話していない。ならば何故……?
「私に黙っていなくなったことは正直許し難いですが、こうしてまた出会えましたのでその件に関しましては不問にいたしましょう」
ダラダラと嫌な汗が頬を伝う最中、ロジェがおもむろに手を伸ばして来た。
「これは先日助けて頂いた時のお礼です」
ベルベットが首元に手をやるとロジェの瞳の色と同じ、琥珀色に輝く宝石の付いたネックレスが着いていた。とても安物には見えないそれを易々と貰う訳にもいかず慌てて外そうとしたが、ロジェがそれを許さなかった。
「これは誰の為でもない、貴方の為だけに作らせた物です。外すなんていけませんよ。これ一つ作るだけにどれだけの人と手間がかかっていると思っているんです?」
そんな脅迫らしからぬ言葉を言ってくる時点で、お礼の意味を知っているのか疑問になるが、ロジェの目は反論は許さないと言っている。
(ここで突き返すのは得策とは言えないわね)
まあ、ここで受け取っておけば私に借りは無くなるし、会いに来る理由もなくなるからな。これは私の為にも黙って受け取っておこう。
「えっと~、では、有難く頂戴致しますね」
「ええ、是非。……それにしても、随分と古びた家屋ですね。いくらあの騎士から逃げる為とは言え、些か早急すぎでは?」
「え?」
思いもよらない言葉が聞こえた。
「おや?違うのですが?私はてっきり、あの執着男から逃げる為に転居したのだと思っていたのですが……」
それは間違ってはいない。確かに逃げる為に引っ越した。ついでに言うと貴方からも……
「……もしやとは思いますが、私から逃げる為。とは言いませんよね?」
ロジェは冷たい笑みを浮かべながらベルベッドを見つめていた。
『小僧。次会った時にはお主の吠え面を見せてもらうからな』
「何言ってるか分かんないけど馬鹿にされたことだけは分かるね。次こそはその肉そぎ落としてやるから覚悟してなよ」
『ふん。口の減らん奴だ』
そう鼻を鳴らすヨルグだったが、その表情はどこか楽し気だった。
『娘、世話をかけた。すまぬな』
「いえいえ。こちらこそリアムがごめんなさいね。それと私の名はベルベットよ。ベルって呼んで頂戴」
『ベルか……あい、分かった』
「それと、一つだけ約束して。この場所は他言無用でお願い」
ヨルグが帰る前にこれだけは絶対約束を取り付けたかった。まあ、簡単に人の家の場所を話すような狼に見えないが、言質が欲しかった。
『それは構わぬが……』
「絶対よ!!お願いね!!」
ベルベットのあまりに必死な形相にヨルグはその理由が聞きたかったが、流石に無粋だと思い口を閉じた。
『人と言うものは面倒な生き物だな……』
そう呟くと大きな尻尾で挨拶をすかのように頭を一撫でしてからゆっくりと帰路についた。ベルベットは黙ってその後姿を見送った。その表情は心から安堵したような穏やかな表情を浮かべていた。
ヨルグにこの場所を知られたのは不測な事態だった訳だが、覆水盆に返らず。今更、過去には戻れない。ならばこれから起こりうる可能性を潰して行けばいい。
(言質は取った。これで大丈夫)
……そう思っていたのに……
❊❊❊
『あい、すまぬ』
「な、な、な、な、な…………!!!!」
二日後再び姿を現したヨルグだったが、頭を項垂れて浮かない顔で扉の前に座っていた。最初はどうしたんだ?と不思議に思っていたが、後ろから現れた人を見て全身の血の気が引いた。
「みぃつけた」
薄ら笑いを浮かべながら、ベルベットの前に出てきたのは教皇であるロジェ。表面上は笑顔だが、その目の奥は笑っていない。
最悪な事に今家にいるのはベルベット一人だけ。あまりのタイミングの悪さに自然と足が後退ってしまう。それと同時にあれだけ約束したのに、それを破ったヨルグに怒りが湧いてきた。
『ち、違う!!こやつが勝手に我の後を付いて来おったのだ!!断じてお主との約束を破った訳では無い!!』
ジト目で見つめているのが分かったのか、ヨルグが慌てて言い訳を述べてきた。
あくまで自分は悪くない。と言いたいようだが、そんな事こちらからしたら知ったこっちゃない。
「ああ、ちゃんと自己紹介をしていませんでしたから驚くのも仕方ありませんよね。──私はこの国で教皇位を持っており、このヨルグの後見人でもあります」
ベルベットの様子など気にも止めず、淡々と自身のことを話すロジェ。
そんな事今更話されなくても知っているベルベットはジリジリと距離を詰めてくるロジェからどうやってこの場を切り抜けか必死に考えを巡らせていた。
「……そんなお偉い方がこの様な辺鄙な場所に何用でしょうか?」
「おやおや、そんな事聞かずともお分かりでしょう?」
ロジェはベルベットを逃がさんと言わんばかりに目を光らせながら詰め寄ってくる。
もしかして、私が悪役令嬢だと言うことがバレて捕らえに来たとか?いや、それは無い。この人の前でシャノンと対面したことは無いし、万が一の事を考えて私の身の上は話していない。ならば何故……?
「私に黙っていなくなったことは正直許し難いですが、こうしてまた出会えましたのでその件に関しましては不問にいたしましょう」
ダラダラと嫌な汗が頬を伝う最中、ロジェがおもむろに手を伸ばして来た。
「これは先日助けて頂いた時のお礼です」
ベルベットが首元に手をやるとロジェの瞳の色と同じ、琥珀色に輝く宝石の付いたネックレスが着いていた。とても安物には見えないそれを易々と貰う訳にもいかず慌てて外そうとしたが、ロジェがそれを許さなかった。
「これは誰の為でもない、貴方の為だけに作らせた物です。外すなんていけませんよ。これ一つ作るだけにどれだけの人と手間がかかっていると思っているんです?」
そんな脅迫らしからぬ言葉を言ってくる時点で、お礼の意味を知っているのか疑問になるが、ロジェの目は反論は許さないと言っている。
(ここで突き返すのは得策とは言えないわね)
まあ、ここで受け取っておけば私に借りは無くなるし、会いに来る理由もなくなるからな。これは私の為にも黙って受け取っておこう。
「えっと~、では、有難く頂戴致しますね」
「ええ、是非。……それにしても、随分と古びた家屋ですね。いくらあの騎士から逃げる為とは言え、些か早急すぎでは?」
「え?」
思いもよらない言葉が聞こえた。
「おや?違うのですが?私はてっきり、あの執着男から逃げる為に転居したのだと思っていたのですが……」
それは間違ってはいない。確かに逃げる為に引っ越した。ついでに言うと貴方からも……
「……もしやとは思いますが、私から逃げる為。とは言いませんよね?」
ロジェは冷たい笑みを浮かべながらベルベッドを見つめていた。
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