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その杖はなんぞ?

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異世界に召喚されて四日目の朝。

今日もメイドの声と朝日の眩しさで目が覚めた。
城の中に用意された私の部屋はそれはそれは豪華絢爛で、都心のタワーマンションの最上階に住んでいた私の部屋を優に超える大きさに最初は驚いたが、慣れればどうってことは無いただの部屋。
なんせ、私は適応能力が高いのだ。それは自他ともに認める事実。

そのおかげで海外でも平気で仕事が出来ているんだけどね。
だから異世界だろうと私にとっては海外にいるようなもの。

「ルイ様、陛下達がお待ちですので急いで支度致しましょう」
「えぇ~……たまには昼までゆっくり寝て、一人でのんびり食事したいんだけど」
「そうはいきません!!ルイ様は聖女様なんですよ?王族の方々と食事を共にするのは当然の事です」

気だるく布団の中から這いずり出てくると、メイドのリリーが急かすように布団を剥いだ。

ここに来てからずっと食事は国王陛下と王妃様、更には王子達も一緒にしている。
私が席に着くと、途端に質問攻めに合うせいで落ち着いて食事を楽しんだ試しがない。

「あぁ~、またこのような格好で寝られたんですか?」

私の姿にリリーが呆れた様子で呟いた。

私は寝る時、出来るだけ衣類を纏いたくない人なのだ。普段は下着のみで寝ている。
流石にここは他人のだから、下着姿で寝るのはまずいかと思って、シュミーズをキャミソール丈に切ったものとフレアパンツで寝ている。

初めて起こしに来たリリーが私の姿を見て悲鳴をあげたので、慌ててやって来た騎士らにガッツリ見られたが顔を真っ赤にさせながらすぐに部屋を飛び出して行ったのは記憶に新しい。

さて、そんな私が大人しくヒラヒラした可愛らしいドレスを着るはずもない。
その事を察してくれたリリーは仕事が出来るメイドだと思う。

リリーはお姫様が着るような鮮やかなドレスではなく、落ち着いた色味で体のラインが出るタイトでしなやかな物をに用意してくれた。
けれど、着てみるとタイト過ぎて歩きにくい……仕方なく太腿まで布を割いてスリットを入れたら丁度よくなった。

リリーはもう驚きもせず淡々と「このようなドレスをご用意致します」と約束した次の日にはクローゼット中がタイトなドレスで埋め尽くされていた。
全てが同じ形ではなく胸元を強調するものから、オフショルダーの様に肩を出すもの、背中をギリギリまで開けたものまで様々だ。
因みにデザインは全て私。
私は刺青作品が目立つよう、肌を露出するものしか着ない。
当然、こんな格好で城の中を歩くもんだから二度見する奴や影からコソコソ見る奴多数。
国王様達だって、初めてこの格好で食堂に行った時は驚きすぎて空いた口が塞がらなくなっていた。

(特にアルフレードは軽蔑するような目で私を見ていたっけ)

そんな訳で、今日はボルドーの胸元が強調されたドレスに決め食堂へ向かった。

最近の陛下達は私の装いに驚くことも無く、いつものように食事が始まった。

この国にはアルフレードの他にも王子が二人いる。
最初の食事の時に軽く挨拶されたけど、第二王子がリュディガー。王妃様そっくりなこの人はアルフレードとは違い優しそうな雰囲気が印象的だった。末っ子の第三王子がルドルフ。上二人に比べるとオドオドした大人しい子だった。

そして、驚くべきことにアルフレードは私よりも三つ年上だった。
第二王子のリュディガーが私と同い年で、ルドルフが二つ下。

イケメンは年齢も不確定になるんだと判明した瞬間だった。

まあ、そんな感じで今日も無事に朝食が済み、部屋へ戻ろうとした所で国王に呼び止められた。

「ルイ殿、今日はそなたに渡したい物がある」

そう言うと、国王様は後ろに控えている者に何やら持ってこさせた。
それは、年季の入った杖……?

「これは歴代の聖女達が魔王退治に使った杖だ。この杖を使えば魔王を討伐できる」
「見た感じただの杖だけど?」
「……使い方は分からぬのだ……ただ、文献と共にこの杖が代々引き継がれるのだが……」

またモゴモゴと歯切れの悪い事を……

でも、何故か分からないが、何かしらの力を感じる。
取説がないなら、思いつくやり方を試せばいい。
とりあえず杖を手にしてみると、長年使われてきたからか、手にしっくりと馴染んだ。
何処かにボタンがないか確認したが、ボタンらしきものは見当たらない。
その代わり、杖の頭の部分に翠色の綺麗な石がはめ込められていた。

(エメラルド?違うな……エメラルドほど色が濃くない。ペリドットぽいけど……)

ソッとその石を撫でるように触れると、眩い光に覆われた。

思わず目腕で覆い、視界を遮った。
次に目を開けると、そこには真っ白い空間が広がっていた。

「なに?この気がおかしくなりそうな空間……」
「その様にこの空間を例えたのはお前が初めてだな」

顰めっ面で呟いていると、後ろから声がかかった。

振り返ると、明らかに人じゃない透き通った白い肌をした銀髪の長髪を靡かせた長身の男が立っていた。
魔王がいるということは、この人は神か何かなのだろう。

目の前の男は私があまり驚いていない事に驚いた様子だった。

「長年神をやっているが、私の美しさに驚かなかった人間はお前が初めてだな」
「やっぱり神様か……驚くも何も、ここが異世界なんだから何でもありでしょ?一々驚いてたら身が持たないっての」

溜息混じりに伝えると、神様は「あははは」と笑いだした。

「いや、いいなその反応。久しぶりに楽しめそうだ」
「人で遊ぶのは神様としてどうかと思いますけど?」

神様との初対面はお互いにジロっと睨み合いから始まった。


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