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【本編】〇〇までのカウントダウン

7・約束までのカウントダウン

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「おはよう」
なんとか言えた。

「おぅ」
コホンとひとつ咳。
今日は空気が乾燥してたんだろうか。

ポケットから彼の専用に持ってる飴を出す。

「ハイ、どうぞ」
彼の大きな手をとって掌に小さな包みを乗せる。
「ああ」
受け取ってくれた。自然と彼にも触れた
良かった…。

包み紙を剥いて口に。カランと鳴らす。
「ありがとう」
ハスキーボイス。
キュン。
自分の席にトトトッと向かった。

「おはよう。顔赤いけど、熱?」
「おはよう。大丈夫。走って来たからかな」
前の席の子に声を掛けられる。
この前、そこにタケシが座ってて……。
「そっかぁ。数Iの宿題した?」
「あ…ヤベ」
「お前もか…。誰かいないかなぁ」
自分でする気ねぇのかよって言っても、2時限目か。時間ねぇな。

「タケシィィ」
泣きついた。
ノートが無言で差し出される。ノートのは『数I』のタイトル。
オレまだ話してないんすけど。
「あざーす」
受け取ってダッシュで戻って、写す。
ノート提出だったんだ。
それも忘れてた。

セーフの連続で昼になった。
屋上で二人で昼食。
タケシはお弁当。オレは朝コンビニで買ってきた色々。

「甘いのばっかりじゃないか。大きくなれないぞ」
姿勢がいいなと所作を横目に、袋を覗き、呟いた。
「そうだな。牛乳は買うの辞めたから、なんか考えないとなぁ」
「お前の栄養管理は牛乳頼りだったのか。ーーーほれ」
声を掛けられ、ほへ?と顔を上げた。
口に押し付けられた。
反射でパクッと食べた。

「うっまッ!」
「照り焼き。美味いか、良かった」

卵焼きを差し出される。
もぐもぐ……

オレ、餌付けされてる……。
美味いなぁ。

「野菜も食え」
ブロッコリーも押し込まれた。
えーと、タケシってこんな事する方だったけ?
距離感が分かんなくなって来た。

「オ、オカンみたいな事、言うなよぉ~」
ドギマギしてるのが知られるのが嫌で、ぶっきらぼうに言い返してた。

くふふと笑って、照り焼きを差し出される。
パクッと食べる。美味しいんだもんッ。

モグモグしてたら、顔が近づいて来た。

ぺろっと口の端を舐められた。

ほへ?
舐められたところを押さえる。
「タレ付いてた。両手塞がってるから」
タケシがニコニコだ。

………ニコニコ?
????
距離感が……以下略。

クールな感じのタケシが笑ってる。
コレはコレで、いいんですけどぉぉぉおおおお。

さっきまで餌付けしてた箸でお弁当をモグモグ食べてる。
その横で、パンに齧り付いた。

相変わらず早食いだ。片付けて、お茶飲んでる。
パンをひとつ差し出す。
「やる」
弁当の中身が減った分。

屋上の風が肌寒くなって来てた。
もうすぐ冬だ。秋は短い。

「ーーー浮かれてた」
パンの袋を開けながら、タケシがポツリ。

「浮かれてたの?」
「浮かれないのか?」

「浮かれてるかなぁ。す、好きが大きくなって、どうしていいか、分かんなくなってる」
正直に言った。

「俺も…」

「そうなんだ…」
何故かホッとしてた。

「キスしていいか?」
オレたち、サルになってる?
でも、したいし、でも、学校だし、見られたら、男同士だし、なんと言っていいか……ぐるぐる…。

「したい…」
またその声…罪な声だ。
コクンと頷く。
大きな身体を小さくして、下からオレの唇と彼の唇が重なった。

ちょっと乾燥してて、温かくて、チュゥッとねっとりしたリップ音がして離れた。
ふいっと追っかけて、チュッと短い音のキスして離れた。
膝抱えて、顔を隠した。

「トオルの耳赤い…」
「う、うるさい。恥ずかしいんだよッ」
「俺は嬉しい。学校では、不味い事になりそうだから、放課後まではこういうのは、辞めとこうか」
「タケシが言い出して、したんじゃん」
「トオルもしてくれたじゃん」

気不味い……。

「「放課後な?」」
顔を上げたら、近くで同じ言葉を言ってた。
額が合わさる。
予鈴がなった。

「約束」
短く、魅惑の声が耳に届く。
「分かった」

オレたちの協定ができた。



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