38 / 55
本編
21】変化の兆し(上)
しおりを挟むえーと、後半ね?( ̄▽ ̄;)
=================
オレは、たぶん、きっと、エヴァンの事が好きだと思う。うん、…好き。
惚れっぽいところがあるのは自覚してる。
最初の恋は、憧れで終わった。
次の恋は、一歩踏み出したら、オレを受け入れてくれた。
受け入れてくれたが、搾取されるだけで、セックスは辛くて、耐えるものだと教えられた。ポーターの仕事を覚えたのもその頃だったか。
初めの頃は、馬車が通れない道を商人などの荷物を背負って運んだ。
少しでも多くの荷物を運べる身体が欲しくて鍛えた。
あの頃の影響か背があまり伸びなかった。小さければ狭い場所でも行けるので需要はあったが…。
ある日、買い出し先で荷物を詰めてると、小さな鞄に大きな荷物が入るのを見て、その技術が欲しくて仕組みを尋ねた。その人は、手の内は見せたくないのか渋ったが、オレが幼く見えたのだろう、魔法陣が関わってると教えてくれた。
独学で魔法陣学を学んだ。その過程で後の師匠になる人を知った。
ある日、ガラの悪い男たちがやってきた。オレは、売られたのだと知った。彼の隣には綺麗な女の人が寄り添っていた。
オレは、練習に描いていた魔法陣を発動させて逃げた。
逃げる後ろで爆破音が何度も聞こえ、地面が揺れたが、オレは振り返らずに走った。
ポーターをしながら、公国の師匠のところに辿り着き、そこで、学校にも行って、『魔法陣学』『薬草学』や魔法を学んだ。実践も経験した。学費はポーターなどで稼ぎ。実入りがいい冒険者のポーターをする為に投擲を学んだ。
師匠に付いて旅をしたり、冒険者のポーターをして各地を巡った。
あの時は恋なんてしてる暇もなかった。学びたい事、知りたい事がいっぱいだった。
そう言えば、いつだったかセックスが気持ちいいのだと教えてくれた人がいたが、一度きりの関係で終わった。痛くも辛くも無かったが、そんなに気持ちいいとは思わなかった…。
そして、勇者一行の一員になってダロンに恋をした。年下だったけど、カッコ良かったんだよ。一生懸命でさ。
サムエルは、オレを売った男のように大きくって惚れる対象にはならなかったが、気は合った。いい奴だ。
恋をしたが、実るとも実らせるとも思わなかった。ただただ、彼の為に、彼らの為に、出来るだけの事をした。喜んでもらいたい一心だった。それがオレの喜びだった。ただそれだけ…。
ダロンを諦めた頃、もう恋なんてと思ってたのに、エヴァンさんと話してみるととても楽しくて、気づいたら恋をしていた。はぁ…オレって惚れっぽいなぁ…。
何をしたら彼は喜ぶだろう…と、考えてる自分がいた。これは性分だろうな…。苦笑い。でも、こんな自分を嫌いではないと思えるようにはなっていた。旅に仲間が教えてくれた事。オレの宝物だ。
もう恋なんてしないと決めてたのに…ね。これもオレなんだろうな…。
話せば話すほど好きになっていく。
彼の一挙手一投足を追ってしまう。
エヴァンは王族で、でも、今はただの人だと言ってる。
オレでも付き合えるかも…、もらえるかも、知れない…けど…。
彼の好きなタイプはゲアントさんみたいな大柄なマッチョさん。
だから、告白したところで、振り向いてくれるはずもない。
それに告白なんてしたら、今の関係だって崩れてしまう。
それは、嫌だ…。
いずれさよならする人だ思おう…、だからこそ、このまま、そばにいる間だけ、この時間だけでも…。
オレは、あなたを…好きでいてもいいよね。…好きでいさせて下さい…。
恋心はそっとしまっておくから…。奥深くにそっと。
今日もベッドの上で向かい合わせに座って手を繋ぐ。二人の間にクンティンの魔法陣の紙。聖水を混ぜた特殊インクで描いてるとか。これで、聖水も節約できると彼は胸を張って鼻高々に言ってた。
褒めて欲しいのだろう。
俺はクンティンの頭をワシワシ撫でてやった。嬉しそうだ。旅をしてた時もこうして撫でてやったなぁ…。
今回の浄化も順調に済んだ。こうして手を繋いで正面で彼を見てると、最近思うんだよな…。色っぽいって。
クンティンが色っぽい。色っぽい?
ん?
伏せた目にかかる睫毛が長いなって思うのは、変わらないんだけど、なんて言うか…。なんだろう…。よく分からん。
詠唱を終えたクンティンが不思議そうにこっちを見てる。
あっ、終わったのに手を繋いだままだった。
最近は手が冷たい事も少ない。薬漬けになってなければいいが。
「サムエル、魔晶石は手に入りそう?」
ベッドから降りて、準備を整えてる俺に進捗を訊いてきた。考え過ぎか。いつものクンティンだ。
「要望通りのが手に入りそうだ。今日持ち帰れると思うんだが。もしかすると泊まりになるかも。そしたら、その分、量も確保してくるよ」
俺の言葉に嬉しそうにしてる。さて、頑張るかッ。
「農地の開墾も進んだし…今日は結界の改良を済ませよう」
紙の山から設計図を探してるようだ。
エヴァンが風魔法で器用に開墾したって言ってたな。様子を語るクンティンがはしゃいでて…なんと言うか、可愛く見えた。
エヴァンと一緒に行動するようになってから、また笑うようになったな。ダロンとの失恋も乗り越えられそうだな。
手を出されるかと身構えてたが、どうも杞憂に終わりそうだ。
リューリさんも言ってたが、俺たちは恩人だそうだ。恩人に手は出さないよな。魔王じゃないんだし…。
「じゃあ、帰ったら多めに譲渡か…」
「そうならないようにするよ。発動はサムエルが帰ってからにしようかな」
カラカラ笑ってる。
「ポーション節約しろよ」
がぶ飲みするなと言っても、反発されるので、倹約傾向の彼にはこちらが効く。
「分かってるって~」
ほら、機嫌良く返ってきた。
これから出かけるのだから、気分良く別れたい。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる