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本編
14】分かれ道
しおりを挟む確かに討伐してないからなぁ。誤魔化さねば…。クンティンを連れ帰る事しか考えてなかった。
んー、ああ、アレならいけるか?
「それなら、なんとかなるかも…」
ダロンが嬉しそうだ。
彼は基本、嘘は嫌いだ。そんな彼が世界に嘘をつこうとしているんだ。ちょっとは悪知恵を絞ろうかね。
「みんなが聞いてた魔王の容姿って、あの王子だったか?」
元気よくブンブンとみんなで首を振ってる。
「ツノが生えてて、口が裂けた牙の鋭い黒い生き物」
「大きな身体で、唸る声は地面が揺れる程」
「醜い容姿だと聞いてたわ」
三人で聞かさせていた容姿をあげていった。
「俺も同じだ」
俺のとも一致する。
事前にアリスンから聞いてなかったら、魔王を探しちまうところだったよ。
「で、ダロン、厨房まで行って訊いて来てくれ。この前狩った魔獣の頭部はどうなったか?ってな」
パッと明るい表情になったダロンが出口に向かった。
意図は通じたようだ。
アリスンが俺の袖を引っ張った。
ん? 手の中に何か捩じ込まれた。
「ちょっとションベン」
部屋を出て、手の中の紙を広げる。
『魔王の本当のお気に入りは少年のような容姿』
確信がここで告げられるとは…。
俺ひとりで、対策どうするんだよぉ~。決心が揺らぎそうになる。手の中の小さな紙を燃やし灰を握った。
水で洗い流して、鏡の中の疲れた顔と対峙する。俺がやらなきゃな。クンティンの尻叩いてさっさと完成させさせて、結界から出よう。
また入りたいと言われたら、体勢を整えてからとゴネるか。
一層の事、クンティンに教えるか?
いや、変に動揺させ、手元も頭も狂いが生じさせても困る。やはり警護するしかないな。
手を拭き拭き戻ってるとダロンが駆けてくる。
「処分前だったぁ~。良い具合に腐ってるよ~」
さて、筋書きとしては、魔王との死闘の末、クンティンと俺は死んで、魔王の首を持ち帰るので精一杯だったって事にした。
魔王を倒した時、強い光が発生して浄化されたようだが、魔王城の瘴気は晴れなかったって事にした。光は瘴気を包んでるようだとでもしておこうか。
これで、この辺りの浄化と結界の話については説明がつくだろう。
瘴気には基本近づかないので、結界については気づかないだろう。調べるとしたら公国にある研究機関ぐらいだ。
クンティンが俺の筋書きを頷きで同意しながら書き物をしている。
書き終えた物を封書にして、アリスンに渡してる。
どうやら俺の話を聞きながら思いついたようだ。
クンティンが俺のあとを継いで、後始末の準備を話し出した。
「ダロンは褒賞に森の近くの土地を貰い受ける予定だったな? 森の管理を勇者もしくは関係者で出来るように話を持っていってもらいたい」
「村で引っ越すつもりだから、大丈夫だと思うよ。ダメでも魔獣が出てくるかもしれない森には誰も近づかないよ」
明るく応えるダロンは嬉しそうだ。勇者出身の村には聖女の加護があるから大丈夫とでも言えとクンティン。
続けて、アリスンを見て言葉を続ける。
「アリスンには、公国側の干渉地に聖教会の本部が無理なら支部を置いてもらうようにして貰えるように働きかけてくれ」
「任せて。褒賞はどうしようかと思ってたから良いわよ」
「それから、それを師匠に渡してほしい。アリスンの力になってくれると思う。師匠が瘴気専門家として聖教会や王様に適当に言ってくれるよ。あの人、適当が上手いから。干渉地にうちの研究所がついてくるかもしれないけど、入れてあげて。オレの手伝いもしてもらいたいし」
「それから、コレを二人に」
紙束を渡してる。
「『伝書鳥』だ。俺のところに届くように設定してる。定期的に手紙を書いてほしい。外での様子が知りたい」
紙が鳥に変化して飛んでいくと聞く。実物を見るのは初めてだ。
「こうやって、普通に紙に文字を書いて、『運んで』と言ってやれば…」
クンティンの手の中でパタパタと紙が折り畳まれて、鳥の形になり羽ばたいた。
クンティンの手から離れる頃には羽毛の生えた黄色味を帯びた茶色い小鳥になった。
窓を開けるように俺に頼んだ。そこから飛んで行った。閉める。どこに飛んでったんだ?
「師匠のところに行ったはず。凱旋時には王都に居ると思うよ」
アリスンが安堵してる。師匠を探すにはクンティン以上に難易度が高い気がしてたんだろう。
「手紙の最後には日付を忘れないように。飛ばす日が望ましいな。以上」
いつもの締めの単語が出た。同時に出立だ。
クンティンを途中まで抱えて移動する。
魔王の首(仮)は、クンティン特製の鞄に入ってる。魔王城から色々持ち帰る用にあらかじめ用意していた物らしい。
めんどいとかって…。あるんじゃないかぁ!と言いたいが、グッと飲み込んだ。紙束はアリスンのポーチに収められた。
容量は小さいが、クンティン特製のポーチだ。女子は荷物が多いのとお願いしてたのがここで役に立った。実際はポーションが入ってる。彼女も自分の事より人の事だ。補助魔法を切らすのを恐れて余分にポーションを持ち歩いていた。
執務室の扉をノックすれば、魔王とリューリが迎えてくれた。
「魔王、というのも変だが、便宜上、魔王でいいかな」
頷きで許してくれた。
魔王側の話では、光りの柱は天を貫いて伸びていたそうだ。柱はそのまま広がって消えていったと。障壁の中で見ていた魔人たちの証言だそうだ。障壁の外が浄化されたのを感じたそうだ。
俺がこれからの事を報告した。
「クンティンと俺は、結界の補強の為に、ここにもう暫く残る。勇者と聖女は凱旋して、魔王討伐を報告してくる。この領地はそのままになるよう働きかける予定だ」
ダロンとアリスンは旅支度が済んでいる。
別れを言って、すぐに森に向かう予定だ。
途中までライドできる魔獣で行く。
隣りが帰還予定の王国だからな。
「分かった」
魔王があっさり了承した。拒否する事柄は何もないのだから当たり前だな。
クンティンを見る目が気になるぐらいだ。
クンティンは魔王の前ではすっくと立っていた。相変わらず弱みを見せない男だ。小柄な事を事あるごとに突かれてきた結果だろうな。
「魔王さん、もう暫く世話になるわ~」
クンティンが明るく言ってる。
「いつまででも居てくれ」
返としては普通なんだが、裏を考えてしまう。頑張らねばッ。
二人を見送る。
「空間魔法で別次元に切り取られた空間だから、王さまの前でプンプンと臭いと瘴気振り撒いてやれ~」
クンティンが爆弾発言で送り出した。
うわぁ~、王様にバカにされたの根に持ってやがる。ポーター風情って言われてたもんな~。
小さくなる彼らを見送り、俺は気合いを入れる。
魔王には触れさせないゾッ。
==================
研究者クンティン誕生ッ。ポーターは仮の姿。元に戻っただけですけどね。
走り回るクンティンと警護の為と追いかけるサムエル。
がんばれ、サムエルッ! 忍び寄る魔王ぉ…。
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