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本編
8】会談(上)
しおりを挟む剣に手を添える。いつでも抜ける準備は出来てる。
他のメンバーも俺に引きづられるように緊張が走る。
思ってたのとは違った。
襲ってくる魔族はいなかった。
促されるまま中へ入る…。
中は質素だが貴族の応接間のような広い部屋。
大きめなテーブルの向こうに人が立ってる。時代遅れの煌びやかな服を着ていた。どこかの王族の王子さまといった感じだ。
魔王? ひとり?
あ、メイド服の魔族がいる。胸が大き過ぎて、前が閉まりきってない。
アリスンが言ってた容姿の男だった。
彼女はやはり凄い。
「ようこそ。さっさと話を進めましょう。じゃないと、帰る頃には、あなた達の居場所がなくなってしまう」
ニッコリ微笑んで、席に着くように促された。
仕掛けはないのだろうか。
剣士に視線を送れば、彼はさっさと座ろうとしていた。安全という事らしい。
彼が魔族だとしたら、俺たちはずっと騙されていた事になる。ならば、ここは安全ではない。だが、彼はアリスンが夢見で見つけたメンバーだ。魔族などあり得ない。
俺も座ったが、頭の中は大混乱だった。
大柄な魔族が魔王に耳打ちしている。
「え? 知り合いなの? バレちゃったの? いいの? 話し合い終わったら、一緒に食事する? 遠慮しなくても、」
魔王が一方的に話して、魔族は首や手を振ってる。楽しそうだ。二人でキャッキャと盛り上がってる。そこに執事服の男が咳払いをして制止した。
「すまん。私はここの領主をしている。公爵のエヴァン=カプリーアだ。……公爵って言っても、国が無くなったので、無意味になってるんがね。なんだか『魔王』という事になったらしいし…」
自己紹介をあっさり済ませようとしてたようだが、なんだか、ぼやっと後ろが続いてる。段々と、恨み節の様相になって来た…。
「魔王ってなんなのさって感じでさ。俺がなんで魔王なのさ。ホント、魔王ってなにさ」
自称も、俺になってるし。ぼやき出した。自分の言葉にプンプンし始めて来た。
??? 意味分かんねぇッ!
「落ち着いて下さい。外界がすでに3年ほど経過しております」
魔王の横の執事服の男が魔王を諭すように声をかけてる。人質ではなかったようだ。
人型が魔王で、魔族で、人質のようなのも仲間で…。何コレ? 誰か説明して…。
それに『3年』って何?
「コホン。すまん。まず、何から…」
「あの…」
隣に座っていたアリスンが可愛らしく胸元で手を挙げている。発言の許可を求めているようだ。
「どうぞ」
魔王がフレンドリーに手を差し出して促した。
「アリスンと申します。あの、失礼ですが、姓が、『カプリーア』でしたが、公国と関わりが?」
そう言えば、そうだった。
「ありがとう。そこから説明した方がいいか。ーーー公国が、小国、カプリーア王国時代の「あっ! 思い出したッ!」
アリスンの隣に座っていたクンティンが素っ頓狂な声を上げた。
時々空気を読まずに、はしゃぎ出す男だったが、今ここで発現しなくても…。気になる事があると深く考えて動かなくなったり…。学者肌なところがあると思ってたが…。黙ってよぉ~。俺は説明が聞きたいんだ。
「絵画の人だ。講堂の隅にあったアレだよ。タイトルは…確か…」
クンティンが目を瞑って、唸りながら腕組み首を傾げてる。眉間の皺がなんだか可愛い。年上なんだが、なんだか小柄からか仕草が可愛らしいんだよな。なんか、もういいやぁ~。
「ああ、あれか。『贖罪』だったな」
俺の隣に座ってるサムエルが、補足した。
教会内をよく二人でうろうろしていたな。二人は気が合うようでよく二人で行動していた。俺だって、仲間なのに…。ちょっと寂しいんだぞ…。
「あのあたりにあるのは、200年以上前の物ばかりと聴いたぞ」
俺も信徒達の言葉を思い出し混ぜて貰う。
「そうなんだ。あの絵は、他のよりももっと古そうだったな。それに、忘れられてるのかって感じの隅の方だった…」
サムエルが俺の言葉に自分の記憶と照らし合わせている。
「白い法服のようなのを着て、祈りの姿で黒い霧に包まれてた」
クンティンが頭の中で絵画を見てるように呟いてる。
「似てるな…」
クンティンとサムエルが俺を挟んで話してる。二人は目の前の魔王を見ながら。俺は絵画を思い出そうとしていたが、思い出せなかった。
「そっか。父上か、兄達かが描いてくれたのかな…贖罪か…」
呟くように魔王が溢した。寂しそうだ。
「俺は、王国の第三王子で、領地と公爵の爵位を与えられて、ここに来た。そして、俺は、その…どういった訳か、世界中の瘴気を集めてしまったらしんだ。そして、この会談を早く終結させなければならない理由として、君たちに言わなければならない重要な事がある。時間だ。ここの1日は、外では3ケ月~4ヶ月にあたる」
「え? だから3年? えーと、瘴気に入ってから…」
クンティンが指折りカウント…。
1日が???
「こうしてる間も瘴気の向こうの時は過ぎ去ってる」
「過ぎ去る? 本当か? なぜ?」
俺が代表して質問していた。焦りが湧いてくる。意味が分からん。
「原理は分かりませんが、瘴気が濃くなるにつれて、物質などに負荷がかけられて動きが遅くなっているようなのです」
魔王の隣りの執事服の男が説明に入った。そっちも分からんのかッ。とんでもないところに来たんだな。生死をかけて来たつもりだったが、コレは根本的なところで何かが違うような気がして来た。勝ったところで、凱旋に行く場は?
「魔獣も魔人、あっ、あなた方は魔族と言われてる方ですが、この負荷に耐えれるように姿形を変えているように思われます。こちらもこの状況に気づいたのも最近でして、憶測でしか話せませんが、コレが現状です。ここに来て3年なんで…」
研究職の方がいるようにもないここで、現状を把握しただけでも。それに、明らかに人型の人間は二人しか見ていない。他にいるとしたら、魔王の近くにいるような気がする。
ここには二人だけなのでは?
「『聖魔法』が保有する量か何かで、変化が変わるようでね。君たちは十二分に『聖魔法』を持ってるって事さ。容姿の変化がない」
魔王がキリッと言い切った。
「確かに、聖魔法に護られてると思う。コレも教会から渡されたから」
クンティンが首にかけた紐を引っ張り胸元から小さな宝珠を取り出した。
争いは無用だと俺も理解した。
今までの国王たちの言葉よりも目の前の魔王の言ってる事の方が信用できる気がする。
サムエルが言ってた兄貴さんはどう見てもサムエルと同じ年に見える。
彼は気づいてるのだろうか。
以前、傭兵時代に可愛がってくれた兄貴のような存在がいたと、聞いていた。多分その男だ。防具が傭兵が使ってる物に類似してる。型落ちだろうか。
こうも過去の遺産のようなのを見せられたら、納得するしかないだろう。
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