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冥王の怒り

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 掘り起こされた転移の魔法陣は、僕だけが通れるように書き換えられていた。
 ラカンがやったんだろうか。

 転移した先は、驚きの光景だった。
 おそらくここは、地中深くの大空洞。
 でも、光の魔法で明るさに満ちて、高い高い天井の間に背の低い木々が生い茂っている。
 空洞の中央部に大きな街がある。街の家々の屋根が黄金で輝いていた。

 小道を歩いて行くと、地底人だろうか、人間なら5歳くらいの背の高さの小人いた。
 そして、僕を見て驚いて、キャーキャーワーワー言いながら逃げて行く。

 地底の国に足を踏み入れた僕は、その異様な光景に目を奪われた。
 まず目に入ったのは、地底人の皮膚の色だった。青緑色に輝く肌は、まるで暗い洞窟の中でも光を放っているかのように微かに発光していた。

 彼らの目は、大きく、瞳は縦に細長く光を反射して煌めいていた。その眼差しは鋭く光る。高い知性を感じさせる。

 耳は尖っていて、頭の側面についていた。その形状はまるでエルフのようだけど、より機能的で周囲の音を敏感に捉えているようだった。

 彼らの髪は、触手のように動き、金属質の光沢を持っていた。静かに波打つその様子は、まるで生きているかのようで、不思議な生命感を漂わせている。

 体型は細長く筋肉質だったが、動きに無駄がなかった。身体の倍以上の岩を軽々を持ち上げるところを見ると、とんでもない怪力のようだ。

 手足は四本の指を持ち、指先には吸盤のような構造があった。これが彼らが地底の湿った環境でしっかりと地面に張り付くための工夫なのだろう。
 足も同様に四本の指で、地面にしっかりと安定して立っていた。

 皮膚には自然な模様があり、その色が変化していた。この模様は、どんな意味があるんだろう。

 装飾品として、彼らは金属製の装飾品や紋章がついた衣装を身に着けている。
 それが彼らの社会的地位を示しているのかもしれない。装飾品は複雑なデザインで、その一つ一つが何らかの意味を持っているのだろう。

 大きな門の前まで歩いてきた。
 門の前には厳重な警備が敷かれていて、衛兵が僕を確かめるために近づいてきた。

「ここは、冥界ハデランテスの入り口だ。
 むむむ。
 黒髪、10代の人類で、短剣を所持し、荷物が少ない軽装。。。
 ほうほう。
 なよなよした印象を持つ男子。。。
 お前は、ピッケルか」

 なよなよってなんだよ。

 僕は、「そうだ」と答えた。

 その瞬間、衛兵が数人集まり、目にも止まらない速さで、あっという間に僕を縛り上げた。
 やっぱりとてつもない怪力だ。

「兵長!兵長!
 指名手配のロム・ピッケルを拘束しました!」

 兵長が驚いた表情で現れた。

「なに?!ついに現れたか。
 冥王様の元へ連れていけ!
 魔法が使えないように絶縁具をつけたか?」

「もちろんです!」

 衛兵が答えた。

 僕は、抵抗する間もなく、絶縁具を装着され、力強い手に引っ張られて、冥王の御前へと連れて行かれた。

 道中、頭の中が混乱し、不安が募るばかりだった。
 僕が何をしたというのか、何故指名手配されているのか、全くわからなかった。

 冥王の玉座の間は、荘厳で威厳に満ちた存在感を放っていた。
 その玉座は、巨大な地下洞窟の奥深くに位置し、周囲の壁が光り輝く鉱石で覆われている。
 魔法の光によって、様々な色に輝き、まるで星々を映し出すかのように幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 玉座そのものは、黒曜石と金剛石で作られていて、漆黒の輝きを放っている。
 大理石の柱には、精緻な彫刻が施され、歴史と文化が刻まれていた。
 彫刻の中には、冥王の力と威厳を象徴する龍や蜘蛛、クリスタルの骸骨の姿もある。

 玉座の周囲には、純金で装飾された柱が四方に立ち、その上部には炎のように輝くクリスタルが配置されていた。
 このクリスタルが常に柔らかな光を放ちながら周囲を照らしている。
 柱の間には、美しいタペストリーが掛けられている。そのデザインは、地底の神秘に満ちていた。

 玉座の左右には、忠実な衛兵たちが整然と並んでおり、彼らの甲冑は黒曜石と金で作られている。
 衛兵たちの顔は、冷厳な表情を浮かべて、冥王の威厳をさらに高めていた。
 背が低くても、屈強なことが伝わってくる。

 床には、深い紫色の絨毯が敷かれ、その中央には冥王の紋章が鮮やかに刺繍されている。絨毯の縁には金糸で織られた複雑な模様が施されていた。

 この荘厳な玉座の前に立つと、誰もが自然と頭を垂れ、冥王への尊敬と畏怖の念を抱かずにはいられないだろう。

 玉座に座る冥王の姿は、この荘厳な環境と相まって、まさに神々しいまでの威厳を漂わせていた。

 そして、その冥王は、見間違えるわけがない、ラカン本人だった。

「ラカン!」

 ラカンが鋭くて冷たい目で僕を睨む。

「今さら何をしにきた?ピッケル」

 ラカンは、冥王として地底の国に君臨していた。僕を見つめる厳しいその目には、深い恨みが込められている。

「遅くなって、ごめんよ、ラカン。。。」

「どれだけ我を待たせたか分かっているのか?」

 ラカンの声は怒りに震えていた。

「ラカン…僕は…」

 何も言えず、言葉が詰まった。
 それからラカンは、ゴリムートに転移されてからのことを話し始めた。

 自力で先代女神の館に辿り着いたラカン。そこには、先代女神しょうこと異次元のゴーレム 、、、実際には人工知能のトトが暮らしていた。

 異次元のAIって、どういう存在なんだろう。

 ラカンがそこで待てど暮らせど僕が現れることは、なかった。
 それでもラカンは、僕を待ち続けた。

 数か月が経ち、待ち続けることに疲れたラカンは、諦めて放浪することにした。
 旅の途中でケルベウスに出会った。
 そして、ケルベウスがいたから街を避けて旅をした。

 それでラカンの情報が少なかったんだ。

 やがて、ラカンは、地底の国にたどり着き、地底人に出会った。地底人というだけでも驚きなのに、なんと彼らは、異星人だった。
 その頃、ハデランテスの北と南で、地底人達は、絶えず争っていた。
 ラカンは、従えたケルベウスの炎で力を示して、争いをやめさせた。
 ハデランテスの人々は、ラカンを冥王として敬った。
 ラカンもまたその地で新たな役割を果たすことになった。。。

「お前を待ちきれず、お前のクローンを何体も培養することに成功したんだ。
 ピッケルの生体細胞から、地底人の異星の技術を使って」

「なんて恐ろしいことを。。。」

「生体細胞を適切な栄養環境で増殖させた。
 そして、遺伝子編集技術を駆使して、クローンに適切な遺伝子修正を施した。
 成長と形態の調整も行い、今のピッケルと同じ外見や体型を持つようにした。
 作ったんだ、魂がない生身のゴーレムをね」

「なんでそんなものを」

「怒りを抑えるために、何体も燃やした」

 なんて悲しいことを。

「どれだけの夜を一人で過ごしたか…」

 狂気だ。正気の沙汰じゃない、そんなこと。

 ラカンが泣きながら叫んだ。

「どうしてこんなに遅かったのだ?カリンとは再会したのか?」

 正直に話すしかない。

「カリンとは、先に再会した。アシュリともう1人出会ったエルフとも婚約したんだ」

 僕が答えると、ラカンが逆上した。

「やっぱりお前は、何も分かっていない!
 迎えに来ることもなく!
 さぞ楽しかっただろうな?
 はっ?婚約者だと?それも3人も!
 誰だよ、エルフって!
 我がどれほど苦しんだと思っているのか!」

「ラカン。。。ごめんよ。。。実は。。。」

「黙れ!言い訳など聞きたくない!
 一体何度涙を流したと思っているのか!
 お前の無関心さに耐えられない!」

「やっと迎えに来れたんだ」

「うるさい!うるさい!
 裏切り者め!
 我の気持ちを踏みにじり、他の女たちと婚約するとは何事だ!
 どれほど我を馬鹿にしているのか?」

「ラカン、それは違う。馬鹿になんかしていないよ」

「馬鹿げた言葉だ!我の気持ちを軽んじ、見限ったのだ!
 待ち続け、愛し続けたのに、それが何だというのか!」

「ラカン、そんな想像しているようなことじゃない。僕は…」

「黙れ!もう言葉など聞く耳はない!裏切りは、許さない!!」

「ラカン、待って!話を聞いてほしい」

「我の怒りは消えることはない。
 地獄の業火に焼かれるのがお前の運命だ。焼き尽くして、灰も残らないようにしてやるよ!お前は、極刑!死刑だ!」

「ラカン、落ち着いてよ!僕を殺す気なの?」

「当然だ。
 あの夜の貸しを忘れたお前の裏切りを決して許さない。
 我が怒りを受け止めろ!
 ケルベウスの火によってお前を火刑に処す!死を持ってあがなえ!」

 ラカンは、激しく怒り、衛兵に僕の装備を剥ぎ取らせ、僕に木綿の囚人服を着せた。そして、僕を暗く冷たい牢屋に入れた。

 このままでは本当に殺されてしまう。どうしたらいいのか…

 僕は、牢屋の中で考えた。無理矢理出ることは、できるかもしれない。でも、それではラカンと仲直りすることができない。

 詰んだな。ここでおしまいか。

 いや、これまで幸せすぎたな。
 いっそ、ここまでの人生と諦めるか。
 
 ラカンをこんなにも悲しませてしまった。
 
 でも、死んだらカリンとアシュリとターニュに怒られるな。

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