89 / 115
ユピテルの一撃
しおりを挟む
「パワーアップしたが、かえって弱くなっているのぅ」
おかしい。強くなっているはずなのに。
闘気が交錯し、熱気が辺りを支配する中、パバリ王が圧倒的な優勢で立ちはだかっている。
その場の空気が一層緊迫感に包まれる中、パバリ王との間にピリピリとしれびるような感覚が張り巡らされる。
パバリ王の体からは圧倒的な力が溢れ、その存在感が場を圧倒している。
全速力の動きの中で、ゆっくりと感じる光と音の中、闘志をぶつけあう。
パバリ王が左右に身をかわし、上下に飛び交う激しい動きで捕まえられない。
パバリ王の剛拳とカリンの敏捷な身のこなしとが交差する。
パバリ王が巧みな動きであたしの攻撃をかわし、瞬時に反撃する。
パバリ王の動きは予測不能。
その流れるような一撃は鋭く、痛烈だった。
それでも左右にステップを踏み、立ち上がり、再び構える。
左右からの削り合いが続き、上下の激しい打ち合いが交わる。
「はぁ、はぁ」
「うまくいっていないようじゃな。なぜだか分かるかな?」
汗が全身から吹き出す。
圧倒的な実力差。
でも、焦りや思うようにいかないもどかしさは、あたしの中に原因がありそうだ。
「わ、分からない。。。パワーもスピードも上がっているはずなのに。。。もう一度!」
やっぱり、パンチやキックのキレが良くなっている。
余裕で避けられるのは、仕方がない。
魔法を使わないパバリ王にかすりもしないのは元からだ。
問題は、前より感覚が鈍いことだ。どうして?
「前はパワーがないながら、一撃でも当てようと隙を狙っていた。
ズルく、がむしゃらにな。
実力差があっても、気を抜くことができない鋭さがあったんじゃ」
たしかに。
今は、必死さより、基本に忠実になっている。
手を抜いてなんかいない。
パワーが上がった分、使いこなす為に型の効率の良さを身体が自動的に選んでいく。
昔は、なかなかできなかった動作。今は、こんなに型通りにできるようになったのに。
「身体に刻み込んだ型に振り回されているようじゃ。
よし、ここまで。
充分にカリンの成長を確かめることができた」
「あ、ありがとう。。。でも、全然ダメだ」
「ダメなわけじゃないぞ。
動きの型は、むしろ、よい。
大昔にわしが教えたことの大事な部分が正しく伝承されている。
すごいことじゃ。時を超えて、世代を超えて伝えていくことがどれほど困難なことか。
じゃが、カリン、奥義を教わっていないな?」
「は、はい。巨人神拳は、一子相伝。あたしは、拳士より魔法を選んだ。
父は、あたしへの奥義の伝承を諦めた。。。
当時、あたしは、力を解放するのが怖かった。
でも、今は違う。
自分の力に向き合って、全てを知りたい!」
「よいじゃろう。
一子相伝か。
涙ぐましい努力じゃな。
源流であるわしから教えるのなら、問題あるまい。
知るがいい。
奥義を伝授しよう」
ゴクリ。奥義を。パバリ王から。
父から教わりたかった気持ちもある。でも、いずれ父を超えたいとも思っている。
「1日に使える全ての力をただ一つの拳に込めること。これが奥義じゃ」
「え?どういうこと?」
「たった1人、倒すべき相手を見極めること。そして、その相手に、全てを込めた一撃を必ず命中すること。
それだけじゃ」
「でもどうやって?」
「岩を砕く練習をしたな?」
「したけど。。。」
「意識を集中して、感情を無にすること。心を拳と一つにして、岩を貫く。そうじゃな?」
「そう。心が澄み切って、拳と一つになる感覚が好きなんだ」
「よし。
奥義は、その先にあるのじゃ。
その一撃に、1日に使える全ての力を込める。爆発的な一撃じゃ。
いや、文字通り、爆発を起こす。
スピカは、この一撃で地を裂き、山を削った。
例え話じゃなくて、本当に地面に割れ目を作ったんじゃ」
おとぎ話じゃなくて、本当の話?!
そんなことできるの?岩を砕くのとは違う。地面を割る?
「やってみる」
「よし。構え!」
感情を無にする。
「一撃に全てを込めよ!」
「ダメじゃな。まだ自分の中の巨人との繋がりが薄いようじゃ。赤い目の巨人ユピテルの血が目覚めていないんじゃ」
そんなの、どうしたら?
「まぁ、すぐにはできん。
だが、伝えたぞ。まだ受け取れていないようじゃが。
奥義、ユピテルの一撃を。
使いこなせるかどうかは、カリン次第じゃ。
恐ろしいほどの力じゃ。
使い方に悩むことにもなるじゃろう。
1万年前、スピカは、ユピテルの一撃で全巨人の頂点に君臨した。
精進せよ、カリン」
「ありがとう。まだできないけど修めてみせる。
そろそろ、お店を開く時間だわ」
「ガッハッハ!ロム万能薬の開店を多くの人が待っておる!
行け!夜になったら飯でも食おう」
あたしは、必ず使いこなしてみせる。赤い目の巨人ユピテルの力も、奥義も。
あたしは、あたし。
あたしを知りたい。
待ってて、ユピテル。身体にそう語りかけると、心臓がいつもより大きくドクンッと鼓動した気がした。
もしかしたらあたしの中のユピテルも待ち遠しく思っているのかもしれない。
ドクンッ
あたしは、ユピテルのことも知りたいんだ。
アシュリに頼んでユピテルについての古文書を探してもらおう。
おかしい。強くなっているはずなのに。
闘気が交錯し、熱気が辺りを支配する中、パバリ王が圧倒的な優勢で立ちはだかっている。
その場の空気が一層緊迫感に包まれる中、パバリ王との間にピリピリとしれびるような感覚が張り巡らされる。
パバリ王の体からは圧倒的な力が溢れ、その存在感が場を圧倒している。
全速力の動きの中で、ゆっくりと感じる光と音の中、闘志をぶつけあう。
パバリ王が左右に身をかわし、上下に飛び交う激しい動きで捕まえられない。
パバリ王の剛拳とカリンの敏捷な身のこなしとが交差する。
パバリ王が巧みな動きであたしの攻撃をかわし、瞬時に反撃する。
パバリ王の動きは予測不能。
その流れるような一撃は鋭く、痛烈だった。
それでも左右にステップを踏み、立ち上がり、再び構える。
左右からの削り合いが続き、上下の激しい打ち合いが交わる。
「はぁ、はぁ」
「うまくいっていないようじゃな。なぜだか分かるかな?」
汗が全身から吹き出す。
圧倒的な実力差。
でも、焦りや思うようにいかないもどかしさは、あたしの中に原因がありそうだ。
「わ、分からない。。。パワーもスピードも上がっているはずなのに。。。もう一度!」
やっぱり、パンチやキックのキレが良くなっている。
余裕で避けられるのは、仕方がない。
魔法を使わないパバリ王にかすりもしないのは元からだ。
問題は、前より感覚が鈍いことだ。どうして?
「前はパワーがないながら、一撃でも当てようと隙を狙っていた。
ズルく、がむしゃらにな。
実力差があっても、気を抜くことができない鋭さがあったんじゃ」
たしかに。
今は、必死さより、基本に忠実になっている。
手を抜いてなんかいない。
パワーが上がった分、使いこなす為に型の効率の良さを身体が自動的に選んでいく。
昔は、なかなかできなかった動作。今は、こんなに型通りにできるようになったのに。
「身体に刻み込んだ型に振り回されているようじゃ。
よし、ここまで。
充分にカリンの成長を確かめることができた」
「あ、ありがとう。。。でも、全然ダメだ」
「ダメなわけじゃないぞ。
動きの型は、むしろ、よい。
大昔にわしが教えたことの大事な部分が正しく伝承されている。
すごいことじゃ。時を超えて、世代を超えて伝えていくことがどれほど困難なことか。
じゃが、カリン、奥義を教わっていないな?」
「は、はい。巨人神拳は、一子相伝。あたしは、拳士より魔法を選んだ。
父は、あたしへの奥義の伝承を諦めた。。。
当時、あたしは、力を解放するのが怖かった。
でも、今は違う。
自分の力に向き合って、全てを知りたい!」
「よいじゃろう。
一子相伝か。
涙ぐましい努力じゃな。
源流であるわしから教えるのなら、問題あるまい。
知るがいい。
奥義を伝授しよう」
ゴクリ。奥義を。パバリ王から。
父から教わりたかった気持ちもある。でも、いずれ父を超えたいとも思っている。
「1日に使える全ての力をただ一つの拳に込めること。これが奥義じゃ」
「え?どういうこと?」
「たった1人、倒すべき相手を見極めること。そして、その相手に、全てを込めた一撃を必ず命中すること。
それだけじゃ」
「でもどうやって?」
「岩を砕く練習をしたな?」
「したけど。。。」
「意識を集中して、感情を無にすること。心を拳と一つにして、岩を貫く。そうじゃな?」
「そう。心が澄み切って、拳と一つになる感覚が好きなんだ」
「よし。
奥義は、その先にあるのじゃ。
その一撃に、1日に使える全ての力を込める。爆発的な一撃じゃ。
いや、文字通り、爆発を起こす。
スピカは、この一撃で地を裂き、山を削った。
例え話じゃなくて、本当に地面に割れ目を作ったんじゃ」
おとぎ話じゃなくて、本当の話?!
そんなことできるの?岩を砕くのとは違う。地面を割る?
「やってみる」
「よし。構え!」
感情を無にする。
「一撃に全てを込めよ!」
「ダメじゃな。まだ自分の中の巨人との繋がりが薄いようじゃ。赤い目の巨人ユピテルの血が目覚めていないんじゃ」
そんなの、どうしたら?
「まぁ、すぐにはできん。
だが、伝えたぞ。まだ受け取れていないようじゃが。
奥義、ユピテルの一撃を。
使いこなせるかどうかは、カリン次第じゃ。
恐ろしいほどの力じゃ。
使い方に悩むことにもなるじゃろう。
1万年前、スピカは、ユピテルの一撃で全巨人の頂点に君臨した。
精進せよ、カリン」
「ありがとう。まだできないけど修めてみせる。
そろそろ、お店を開く時間だわ」
「ガッハッハ!ロム万能薬の開店を多くの人が待っておる!
行け!夜になったら飯でも食おう」
あたしは、必ず使いこなしてみせる。赤い目の巨人ユピテルの力も、奥義も。
あたしは、あたし。
あたしを知りたい。
待ってて、ユピテル。身体にそう語りかけると、心臓がいつもより大きくドクンッと鼓動した気がした。
もしかしたらあたしの中のユピテルも待ち遠しく思っているのかもしれない。
ドクンッ
あたしは、ユピテルのことも知りたいんだ。
アシュリに頼んでユピテルについての古文書を探してもらおう。
1
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる