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復興支援と炊き出し

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「寒いわね」

 夜明け直後の早朝の寒さにターニュがガタガタと震えていた。

 しかも冷たい雨まで降って、薄黒い雲の下、春とは思えない気温の低さだ。
 ドラゴンゾンビが地中深くまで凍てつかせてしまったからだ。異常な寒さが被災者の人々を苦しめている。
 自然災害規模の余波が、ドラゴンゾンビの脅威の強大さと、ポセイドンZの戦いの激しさを物語っていた。
 
 カリンと炎犬のチームがカイロ周辺の大地の凍結を解決するために活動している。ミピシトとヌプルス、ゾゾ長老もきてくれて、カリンを助けてくれている。
 高所恐怖症の炎犬たちは、無理矢理大鵬に乗せられて可哀想だったけど、途中から慣れて楽しくなったみたいだ。よかった、よかった。

 アシュリは、仮説の住宅の建設や街の再建をレゴレで行っている。ラトタスとゴーレム達がそれを手伝う。

 ターニュと僕は、炊き出し会場の設営と準備中だ。

 炊き出し会場には、もうすでに長蛇の列ができている。
 アレイオスからドシドとメンガ、そしてガンダルとヤードルとキーラが駆けつけてくれた。
 ジューケイからタッケ、マツモトからゴルちゃん、リノスからガブルとナイゼルとスピーラ、他にも冒険者ギルドから大勢の人たちが復興支援のためにカイロに集まってきていた。

 それに世界強者決定戦の本戦メンバーも各都市の支援を携えてきてくれている。
 リノスのミピシト、ジューケイのライライ、メキシコのラムー、アメダバドのヌプルス、ミラノのトッドマーク、チェンマイのブギー。
 特にブギーは、普段は料理人ということで、双剣を日本の包丁に持ち替えて、すごい勢いで炊き出しの食事を作っている。

 困った時は、お互い様。助け合いの輪が広がっている。

 炊き出しに並ぶ列では、小競り合いや喧嘩が絶えない。みんな余裕がないのだ。街では略奪や犯罪も起こっている。みんな生きるために必死だ。
 
「おい!横入りするなよ!こっちは昨日の夜から並んでるんだ」

「幼い子がいるんだ、譲ってやりな!」

「関係ないだろ?そんなの」

 気がつくと体格のいい男たちが喧嘩し始めていた。

「おい!お前たち!物資が世界中から届いている。準備が整えば全員が今日食べるだけちゃんとあるんだ」

 メンガが喧嘩の間に割って入って、力づくで喧嘩しようとしていた2人を引きはがす。

「なんだよ!お前!」

「俺はメンガだ。海を越え、空を越えて、アレイオスからカイロの街を助けにきた。余裕がないのは、分かる。分け合えば増えるものもあるんだ」

「なんだそりゃ!訳わかんネェこといいゃがって」

 ガシッ

 喧嘩しようとしていた1人が、勢いでメンガの顔面を殴った。
 でも、メンガは、やり返さない。微動だにしないで、殴った男を憐れむ目で見つめた。

 逆に殴った男がバツが悪そうにしている。

「なんだよ!俺が悪いみたいじゃないかよ」


メンガが優しささえ漂わせた声で言う。

「気が済んだか」

「はぁ?」
 
 男の声がイラツキで満ちている。
 メンガの声は、息子を叱る父親のように愛情深い。

「気が済んだか聞いてるんだよ。俺を殴って、腹が膨れたか?
 いいか、俺たちは、この街を助けに来たんだ。
 殴って気が済むなら、殴れよ。ほら。
 ほら!もっとやってみろよ!」

 メンガの圧倒する勢いに押されて、殴った男はうなだれる。

「ぐっ。すまねぇ、悪かったよ。どうかしてたぜ」

「いいんだ。イライラしてるのは、お前だけじゃない。
 お前は、みんなの気持ちを代弁しただけだ。
 ほら、見ろ!炊き出しがはじまったぞ!
 みんな、慌てなくていい!ロム万能薬の炊き出しだ!
 押さずにゆっくり前に。
 落ち着いて、前に進むんだ」

 メンガのおかげでパニックにならずにすんだ。他の列ではドシドが睨みを利かせて人々を整列させている。

 ソニレテ団長やドットマークが見回りをしていることも効果が高い。
 今や彼らは、誰もが尊敬するスーパーヒーローだ。もちろんオメンポンも。
 まさか歯向かうものなど誰もいない。不安を抱える被災者に、勇気と安心を与えてくれている。

 辺りには暖かいシチューの美味しい香りが漂っている。
 少しでも避難民の心が安らいで、苛立ちが収まればいいな。
 直面している問題は、あまりにも厳しいけれど。

 炊き出しは、ゴルちゃんが取りまとめをして、数十人でポムルスのパンや水、温かいシチューを配っていく。スピーラもよく働いている。
 アレイオスでは、ドワラゴンが指揮を取って、被災地用のポムルスのパンの生産を続けていた。
 
 ガブルとナイゼルが担当している仮設住宅の受付、ライライが担当している病人や怪我人への医療チーム、ラムーが担当している亡くなった方への対応もパンク寸前だ。
 魔道具の修理にタッケが対応している。
 修理して作業に改造したレッドスコーピオンを使って、ラディリスが物資の運搬を手伝う。

「ピッケル、助かるよ。
君のおかげでどれだけ救われているか」

 ユラーリンが街の首長たちを連れて、挨拶にやってきた。

「いえ、カイロの街がポセイドンZを大切にしてきたから、ドラゴンゾンビを退けることができたんだ。
 僕のしていることは、小さなことだよ」

「なんと寛大なことか。この街の王としてなんと礼を言ったらいいか」

 人魚の女王キュッスルが頭を下げた。

「今は、みんなで助け合って乗り越えていこう。カイロのために世界中が協力している。必ず困難を乗り越えれるはずだよ」

 キャッスルの隣にいる猫耳族で商業ギルドマスターのラルトマワは、最初炊き出しに反対だった。
 商店が略奪にあって、犯罪が絶えないのだから、むしろ高値で物資を提供して商業ギルド再建の費用にしようとしていたのだ。

 炊き出しをされると誰も高値で物資を買わなくなる。それでは困るという訳だ。
 
 しかし、季節外れの寒さは、容赦なく避難民を襲っていた。特に、子供や老人、病人など、弱い者、幼いものには耐えられない。対応に急を要していた。
 結局、ラルトマワも、凍える人たちをみて、考え直してくれた。

 悪気があるわけではないのだ。余裕がないだけ。

 その直後、グランドギルドマスターのゴーヨンがカイロの商業ギルド立て直しの支援をすることを決めてくれた。
 各都市の商業ギルドも冒険者ギルドもカイロを復興支援することで一致団結することができた。
 これは、すごいことだ。

 それでラルトマワも炊き出しに参加してくれることになった。

 街の治安向上には、ガンダルやヤードル、キーラが活躍している。
 ラカンとケルベウス以外は、再会を果たすことができた。

「ピッケル、ダンジョンの瓦礫の中から転移の魔法陣が見つかったぞ!」

 オメンポンが教えてくれた。

「ありがとう。状況が落ち着いたら調べてみるよ」

 そこにカリンとアシュリがやってきた。

「ピッケル、行きな。ラカンは、きっとピッケルを待ってる。ここはあたし達に任せて」

「でも。。。」

「いいから!」

 カリンが僕の背中を押す。
 アシュリも頷いている。

「ピッケル、行きなよ。長い旅を終わらせてきて」

 ターニュも同じ意見のようだ。
 カリンが僕をまっすぐ見つめる。

「ラカンを見つけないと、結婚式ができないわ」

「え?」

 カリンがニヤリと笑う。

「ラカンにプロポーズしてきなさい!
 ピッケル、あたしが何も知らないと思ってるの?」

 ひーっ!
 
 隣で話を聞いていたドシドが乱暴に背中をバシンと叩いてきた。

「つべこべ言ってねぇで、さっさと行け!おら!ピッケル、女を待たせるんじゃねぇ!」

 イタタタ!相変わらずの粗暴さだ。

「ありがとう、みんな。分かった。行ってくるよ」

 そうだ。本当は、今にも行きたかった。
 ラカンを探しに行こう。
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