上 下
41 / 115

空から女の子

しおりを挟む
「すごかったわ。
 やっぱりミニゴーレムは、作った砂のゴーレムに乗り移ることができるみたい。
 動かないミニゴーレムを囮にしてタイミングをずらしてカニグモに攻撃し始めたの。
 カニグモが右のハサミを前に突き出した時に、カニグモの左のハサミを石のミニゴーレムが上から押し潰して砂にめり込ませたわ。
 ひるんだカニグモを砂のミニゴーレムが上から押し潰して、また砂に埋めたの。
 それから
石のミニゴーレムがジャンプして、カニグモの両目の間をドロップキックでかち割った!
 素晴らしい作戦だったわ」

「そんな動きをミニゴーレムが考えたなんて。でも、なんで焼けてるの?」

「またそれからがすごかったのよ!
 瀕死のカニグモにミニゴーレムがファイポくらいの火を出してカニグモを焼いたの」

「え?すごい。僕が使える魔法を使えるのかな」

「ピッケルは、ミニゴーレム達になんて指示を出したの?」

「俺は、カニグモを倒せとしか念じてないよ?細かい指示は、1つも出してないし、魔法を使えることも、使ったこともわからなかった。
 ミニゴーレムを作った俺の知識や経験を元に、自律して行動してるのかも」

 ミニゴーレム達は、動く時も火の魔法を使う時にも俺の魔力を使っていない。背中に刺した炎犬の骨の魔力を使ったと言うことか。

「驚きだわ。ピッケルが経験を積めば、ミニゴーレムがもっと強く賢くなるってことかしら」

 空からトンビが飛んできて、焼けたカニグモを掻っ攫っていく。
 香ばしい香りと磯の香りも一緒に飛んでいってしまった。
 潮の香りだけが残る。

 ミニゴーレムが怒ったようにぴょんぴょん飛び跳ねて、獲物を盗られたことを抗議しているみたいだ。
 感情のようなものまであるのかな。

 ふと、思ったことを口に出す。

「ゴレゴレム、不思議な魔法だ。人類も神様がゴレゴレムで作ったのかな」

「え?そんなこと考えたことなかった。
 でも、確かにゴレゴレムって、神様の技みたいよね。びっくりする事ばかりだわ。
 やっぱりずるいな。ピッケルだけ。
 そうは言っても、ミニゴーレム、今のところ倒す相手は、カニグモくらいがちょうど良さそうね。炎犬を倒すことはできないかも。
 それに、ピッケルは試練があるから、ぜんぜん羨ましくはないけど。プププっ」

「ははは。今やドラゴン殺しのピッケルだもんね。まいったよ、本当に。。。」

「ピッケルって怖くないの?あのドラゴンさえ殺してしまう力が。
 あたしは別に怖くないけど。ピッケルはピッケルだし」

「怖くないって言ったら嘘になるけど、知りたい!の方が大きいかな。なにか理由があるはずなんだ。僕にはどんな役割が与えれているのか」

「そっか、ピッケルには前世の記憶があるんだもんね。ねぇ、聞かせてよ。前世の世界の話」

 他に誰もいない月明かりの砂場で、ひんやりと冷たい砂の上に座ったまま、カリンと色々な話をした。
 カリンが僕の手の上に手を乗せてきた。ドキドキしながらカリンの手を握り返す。カリンの手もポカポカしている。

 カリンの父さんがアレイオスで2人目の奥さんをもらって、子供ができたと聞いて、びっくりした。
 カリンにとっても生まれたばかりの男の赤ちゃんが可愛くて仕方ないらしい。

 きっかけは、カリンのお父さんがアレイオスで巨人神拳の武術道場を開業したところから始まった。今では、門下生が100人を超える人気道場とのこと。一子相伝なのに、そんなに門下生を増やしていいんだろうか。

 ともあれ、それで2人目の奥さんをもらうほどの財力になったのならいいか。魔法使いになったカリンの代わりに奥義を伝える子供も必要だしな。

 武道家としての素質はピカイチのカリンだけど、魔法と武道を両方極めるのは難しいとお父さんに言われて、泣く泣く伝承を諦めたらしい。お父さんもさぞ悔しかっだろう。

 それから僕の身の上話、仕事の話、社会がどうなっているか、テーマパークや遊園地、ファッションやスイーツ、ご飯の話まで。

「あたし、原宿に行ってみたいな。なんかその山盛りクリームのフルーツパンケーキとか、並んででも食べたい!
 ジェットコースターも絶対乗りたいし、絵本の中に入り込んだような公園にも!
 飛行機で世界中を飛び回るのもいいなー!」

 下手くそな説明だったけど、カリンの興味が爆発して質問責めされるうちに、あっという間に時間が過ぎていった。

「いいなぁ!ピッケルは、やっぱり幸運だよ」

「え?!」

「そりゃ、試練もあるけどさ。
何にもない人生より、ずっと素晴らしいわ。
だってそうじゃない?
ピッケルの人生は刺激に満ちて、希望が必要で、人が恵まれて、今日を全力で生きてる。しかも、健康だわ」

「そうだね。でも、人やこの星を試練に巻き込んでいるのが、申し訳なくて。。。本当は、すごく辛い。
 大切な人を幸せにしたいのに」

 思わずカリンの手をギュッと強く握りしめる。

「試練を全部自分のせいだなんて思うなんて、そんなの変よ。
 むしろ、滅亡が決まっていた人類をピッケルが助けに来てくれたんだとあたしは思ってる。
 さっさと幸運を解明して、そんな理不尽なこと、ひっくり返してやりましょ!なんか、あたし、腹立ってきたわ!」

「誰に怒ってるんだよ」

「神様にもわからない幸運を与えた何かに対して怒ってるのよ。試練を与える女神様にも!あははは。なんだろね。それ」

「本当だよね。酷い話だよ!」

 一緒に笑いながら、涙が止めどなく出てきた。
 カリンが温かい両手で、俺の涙を拭う。

「なによ、ピッケル。また泣いてるの?泣き虫ね」

 カリンの優しい声に、また涙が溢れてくる。

 ありがたいな。ありがたすぎる。もったいないくらい幸せだ。
 幼いころ階段から転げ落ちた時に命懸けでキュアをかけ続けてくれたパンセナ。俺の将来を真剣に考えてくれるエタン。
 さっきだって、言葉はお互い少なかったけど、2人とも旅立ちを応援してくれた。パンセナは、相変わらず心配そうだったけど。
 厳しいけど道を示してくれるゾゾ長老、試練に対して怒ってくれたり笑い飛ばしてくれるカリン、力を貸してくれる仲間たち。
 本気で向き合って間違いを正してくれるアシュリ。
 なんて俺は、恵まれているんだろう。
 そうだ。試練だけじゃない。それに勝る希望がある。旅の中で何かヒントを見つけよう。必ず、この星を、俺自身を救ってみせる。自分の手で助けるんだ。

「あたし、みんなの前では隠してるけど、岩を割れるくらい怪力なの」

 そうなの?格闘家のお父さんが悔しがるわけだ。

「ときどき、自分の力が怖くなることがある。精霊が言ってた、赤い目の巨人の話も」

「大丈夫。どんなカリンでも、カリンはカリンだよ」

「ねぇ、ピッケルは、元の世界で彼女いたの?」

「へ?」

 唐突な質問に涙が引っ込む。

「何を間抜けな顔をしてるのよ。中身おじさんのくせに!まさかなんの経験もないの?」

「いや、ええええと」

 なんて答えたらいいんだろう。嘘はつけない。正直に言うしかない。
 うつむくとミニゴーレムが応援するようにバンザイしている。

「い、いなかったよ」

「うわ!え?本当に!?なんで?試練とか関係ないでしょ?」

「好きになってくれた人はいたんだけど。。。」

 沈黙。
 ギロリとカリンが俺を睨む。

「はぁ?!」

「ひっ!!」

「何よそれ!それで!?ピッケルを好きになったのはどんな人?なんで付き合わなかったの?全部話しなさい!」

 まいった。
 天を仰ぐ。

 大きな月が夜空の高い場所から俺たちを照らしている。
 金星のような明るさの星が月の近くに輝いている。あれ?でも、なんか金星のような星が変だ。俺の目が変なのかな。

「カリン、見て。月が綺麗。
 あれ?あれは何かな」

 不思議な光のある上空を指差す。

「何をあからさまに話を変えようとしてるのよ!
 流れ星?隕石とも違うわ。フワフワとゆっくりすぎる。
 ねぇ、あの光、こっちに近づいてきていない?」

 カリンが立ち上がって、夜空の同じ光を指差す。
 確かに何かゆっくり光が上空から降りてくる。
 とっさにファイポの灯りを小さくして、空の光がよく見えるように調整する。

「近くに落ちそうだ!」

 僕のポケットに石のゴーレムが潜り込んだ。
 僕も立ち上がって、お尻についたザラザラときた砂を払い落とす。
 砂浜には、動かない砂のゴーレムが転がっている。

「いけない!アレイオスの繁華街の方に落ちるわ!みんなに知らせないと!」

 ポケットからドワラゴンにもらった双眼鏡を取り出す。キュアでレンズの汚れが大分マシになっている
 でも、暗いし、よく見えない。

「光の中に人の形が?もしかしたら女の子?」

 僕もカリンも急いで光の方に駆け出した。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...