上 下
26 / 115

これがアレイオス

しおりを挟む
 夜明け前の暗闇の中、ファイポの灯りもつけずにアレイオスの運河を草舟に布を被せて、身を隠して進んでいく。
 幾何学模様に計画された運河で水先案内をしていくれているのは、18になってすっかり美女に成長したカリンだ。
 水の魔法を操って、舵を取っていく。どうやっているのか、かなり高度な魔法だ。
 3年ぶりに会うカリンは、暗い色のローブのせいもあるけど、雰囲気がずいぶん大人になっている。あどけなさより、凛とした美しさが優っている。緊迫した空気の中、厳しい表情の横顔がフードの合間から見える。
 僕とカリンは、再会を喜び合う余裕もなく、アレイオスの入り口で草舟に無言で同乗して、息を殺して静かにゾゾ派の秘密のアジトに向かう。
 アレイオスにもピッケル排除派の刺客が多数潜り込んでいるらしい。
 今夜、僕がアレイオスに来るのを狙って、船を襲撃する動きがあって、囮の草舟が運河にいくつも流されている。
 陽動も含めて、かなりの人数が街中で警備をしているらしい。
 実際に、小さな戦闘も起こっているようで、物々しい雰囲気になっている。


 グサッ


 流れ矢が草舟の縁に突き刺さる。


「あぁ!ピッケル坊ちゃま、私、怖くて」


「プルーン、大丈夫。今は信じて進むしかない」


「ですが。。。」


 カリンが口に指を当てて、こちらを覗き込む。


「静かに」


 震えるプルーンの背中をさする。


 大丈夫。きっと大丈夫だ。


 草舟の準備といい、ゾゾ長老が事前に事態を想定して周到な計画を立てているんだから。
 上から被せた布の隙間から見えるアレイオスの街並みは、闇の中でも分かるくらいテーマパークのようにカラフルだ。陽が登れば、さぞ、楽しくて美しいに違いない。


 草舟を操るカリンをじっと見つめる。草舟ではなく、水の流れを操るイメージ。曲がる時は、曲がりたい方の水の流れを遅くするみたいに。


 カビ臭い暗い水路のトンネルの中を行く。関所のように見張りの魔法使いがいる門を通る。通り過ぎると水路が石の扉で閉じられる。セキュリティがすごい。
 トンネルを抜けると地下に大きなスペースが広がっていた。複数人が灯りを持って、船着場で草舟を待っている。


 カリンもファイポでたいまつを点ける。
 カリンがフードを外して、やっと安心したような顔をして、ふぅっと息をする。
 白い肌に金色の髪が広がって、花が咲いたみたいに華やかだ。


「ピッケル、着いたわ。もう大丈夫よ。ようこそ、アレイオスに!
 それにしてもピッケル、背が伸びたわね。筋肉もついて、ゴツくなったわね。見違えるくらい逞しくなったわ」


 ニカッと笑うカリンにドキドキする。


 たいまつ灯りを映して、目がキラキラ輝いている。やっと向き合って話せた。張り詰めた緊張が緩んで、ホッと生きた心地がする。
 10メートル以上はありそうな巨大な石柱がいくつもある。最近作ったというよりは、大昔からここにあるみたいに見える。
 あちこちにある真っ暗な闇に続く洞窟への入り口には、木で柵で封鎖されて、立ち入り禁止と書いてある。


「あ、ありがとう。カリンも、すごく、す、素敵になったね」


「ふん!もっと褒めてもいいのよ?ま、まぁ、いいわ。背は抜かされちゃったわね。ちょっと悔しいな」


「そう?ほとんど背も同じくらいだよ。
 カリンの船を動かす魔法、すごかった!どうやってやってるの?」


「ふっふっふ。すごいでしょ?あたしが見つけた魔法なの。ボトラって言うの。
 ボトラで船を動かすのは、まだ、あたしと数人しかできないのよ」


「す、すごいね。かっこよかった。ここがアジトなの?」


「そう。ここがアジト。ゾゾ派の地下研究所アゴラスよ」


「なんで地下なの?」


「ククル魔法院は、伝統学派が牛耳ってるの。王族や貴族に媚を売って、腐っているわ。特に、ガナシェ伯は最悪だった。あの変態エロ親父。
 ゾゾ派を目の敵にしてくるの。研究を盗んだり、ひどいことばかり。
 ガナシェ伯の陰謀で王都カラメルを追い出されて、たどり着いたのがここってわけ。
 おかげで伝統学派に秘密で色々な研究ができるようになったわ」


「秘密の研究施設。すごいな。
 それに、なにかの神殿みたいだ。こんな場所があるなんて」


「この地下の部分は元々あった古代遺跡を利用しているの」


 こ、古代の地下遺跡?壁に書いてある文字のような模様は。。。読めない。人類の知らない歴史が関係しているのかな。コウモリが何匹も天井に逆さにつかまっている。


「夜は、お化けがでるって話よ?」


「え?お、お化け?!そ、そうなんだね。精霊に関係してるのかな」


「お化けは、ただの噂よ。ビビった?」


「ち、ちょっとね。船着場にいるのは?」


「船着場にいるのは、ゾゾ派の魔法使いたち。上にはアシュリもポンチョもいるわ。地上の建物は、アレイオスの総督府になっているの」


「総督府の地下に、ゾゾ派の研究所があるんだ。。。」


 カリンが急に耳元で小声で話す。


「朝日が昇ったら、分からないように扮装して、こっそり街に行きましょ。朝市に美味しいものがたくさんあるわ。すごい人出と活気なのよ?」
 
 耳元にカリンの温かい息がかかって、くすぐったい。つい恥ずかしくて赤面してしまった。


「ありがとう。そうだね。安心したらお腹空いたよ」


 カリンが優しく微笑む。


「そうよね。みんなお腹空いているでしょう。何か食べれたらいいんだけど」
 
 草舟がゆっくりたいまつが灯る船着場に停まる。
 赤い髪の魔法使いがゾゾ長老の手を取って、船から桟橋に案内する。


「お帰りなさいませ。ゾゾ長老。皆様、お怪我もありませんか?」


「メルロ、出迎えありがとう。なんとか全員無事じゃ。
 主要なメンバーは、揃っておるかな?」


「ゾゾ長老、もちろんです。
 少し休まれますか?」


「ヒッヒッヒ!休む?何を言っておる!ワクワクして、居ても立っても居られんわ!状況を報告したい!広間に皆を集めるんじゃ!」


「かしこまりました。
 あと、マルキド国の使者の方も来られています。使者はキーラと名乗っておりますが。
 どう致しましょうか?」


「マルキド国からの使者も通せ。あのキーラか。先手を打ってきたな。流石は、賢王パピペコじゃわい。そうは言っても、動きが早すぎる気もするが」


「承知しました。
 お水と何か軽食をお持ちしましょうか?」


「そうじゃな。メルロ、砂糖漬けポムルス入りのパンを5つ持ってきておくれ。
 草舟の皆にも食べさせてやろう」


 酸っぱすぎるポムルスだけど、砂糖漬けなら美味しそうだ。それに、めちゃくちゃ元気が出る。ウヒヒヒ。
 それにしても、ゾゾ長老、元気すぎる。石造の螺旋階段を上にさくさく上がっていく。なんて足腰の強さだ。
 あっという間に地上3階くらいまでやってきた。
 そこには500人は入れそうな大理石の真新しい大広間があった。かなり豪華な造りだ。


 メルロがポムルスのパンを持ってきてくれた。10人は座れそうな大きな丸いテーブルでパンを食べることになった。


 アシュリはどこだろう。再会が楽しみなような、少し怖いような。3年間で何がどう変わってしまっているんだろう。
 良くも、悪くも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...