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058 無様な主神と魔王
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時間を止めたのは諸々の説明を行うためだった事を理解した。
確かに魔王が復活したなどと聞いたら収拾がつかなくなっていただろう。
俺ですら思考の整理がつかずに動揺したくらいだ。
下手をしたらリオンとハンゾウ達が戦いを挑んでいたかもしれない。
「そういやとんでもない魔素量だったけど。あれはどうなってるんだ?」
当然の疑問を口にした。
魔王だから個体の保有量が多いのは理解できるが。
それにしてもケタが違うと思う。
さすがに個人の保有量だけで説明がつく魔素量ではない。
「ああ、あれか。簡単な事じゃ。魔界から魔素を供給したに過ぎん」
「はい?」
言ってる意味がわからない。
まさかモストティアは魔界に通じる場所だったのか?
いや、そんなバカな。
いくら亜種族の王国だからって。
そんなはずないだろう。
「あ~……言葉が悪かったな。正確には妾のスキルを通して魔素を供給しておるのじゃ」
「え~っと……つまりスキルで魔素を補給していると?」
「そういう事じゃ」
ディナアリスは腰に手を当ててふんぞり返った。
その態度は、どうだ驚いたかと言わんばかりだ。
「という事は、魔界には魔素が大量にあるのか?」
俺の問いかけにディナアリスが答えようとした時だった。
グゥウウウウウ~ッ!
盛大に腹の虫が鳴った。
俺じゃない。
ディナアリスからだ。
「そういえば腹が減ったのう。封印されてから今まで何も食っておらんかったからな」
「え!大丈夫なのか?」
一万年も飲まず食わずでいたという事が驚きだ。
魔族も生物なのだから飲食できなければ死ぬはずなのだが。
「問題ない。冬眠してるような状態だったからのう。まあ、暇すぎて眠ってただけじゃがな」
「封印された亜空間では時間が止まってますから。空腹も喉の渇きもありません」
リュシーファの説明で納得した。
だからディナアリスは幼い姿のままなのだろう。
さすがに一万年も経てば魔族といえど老いるハズだろうし。
「確か昼飯の残りがあったな。待ってろ。いま持ってきてやる」
俺は開口部を抜けて坑道に戻った。
普段ならリオンに頼むのだが。
時間が止められている現状では致し方ない。
「ほら、こんな物しかないけど食えよ」
俺はバスケットに入ったパンとチーズ、燻製肉をサンドしてディナアリスに手渡した。
飲み物は牛のミルク。
デザートにはリンゴに似た果物が入っている。
「なんじゃこれは?変わった食べ物だのう」
サンドイッチを初めて見るのか。
ディナアリスは物珍しそうに眺めつつ大きく口を開けて齧り付いた。
「ど、どうした?」
ディナアリスの動きがピタッと止まった。
もしかして口に合わなかったのだろうか?
「美っ味ぁ~~~っ!な、なんじゃこれはーーーっ!」
盛大に歓喜すると物凄い勢いで食べ始めた。
まるでハムスターがキャベツを暴食するかのように。
バスケットに入っているサンドイッチがあっという間に完食される。
「すげぇ……小さいクセによく食べたなぁ」
フードファイターを彷彿とさせる食いっぷりだ。
ミルクもデザートも美味い美味いと叫びながら完食している。
そんなに絶賛する程の物だろうか?
現代の食味を知る俺の見解からすると10点中3点という感じなのだが。
「驚いたぞ!今の時代にはこんなに美味いものがあるのだな!」
ディナアリスは眼をキラキラと輝かせながら両腕を天に突き上げて喜んだ。
「逆にお前の時代にはどんな食い物があったんだよ?」
「そうじゃのう。肉を丸焼きにして食っておったかのう」
まんま原始人の食生活だ。
どうやら調理技術は発展していなかったらしい。
対するリュシーファ達神族はそこそこ充実していたようだ。
それでも今と比べると原始的な食生活だったようだが。
「じゃあ、コレ食ってみるか?」
俺はポケットからクッキーを取り出した。
保存食と栄養補給として携帯しておいた物だ。
だからクッキーにはドライフルーツを練り込んである。
まだリュシーファも食べていない新作のクッキーだ。
「あ、食べます食べます!」
真っ先にリュシーファが手を挙げた。
土下座の姿勢だから物乞いしているように見えてしまう。
そのリュシーファの反応を見て美味しい物だと察したのだろう。
ディナアリスの瞳がキラリと輝く。
「もらうのじゃ!」
リュシーファに奪われまいとガッつくディナアリス。
やはり反応は大袈裟で、某美食マンガのようなリアクションを取り始めた。
そんなディナアリスを無視してリュシーファにもクッキーを手渡す。
するとクッキーを食べたリュシーファは涙を流しつつ「一生ついて行きます~!」などと訳の分からない言葉を吐いていた。
さて、盛大に話の腰が折られてしまった。
というわけで話を戻そう。
「腹も満たしたようだし改めて聞くぞ。魔界には魔素が大量にあるのか?」
「当然じゃ。そもそも魔素は魔界で発生するものじゃ。神界や人界で言う所の神力や精気と同じじゃな。それが各界のゲートを通じて漏れ出ているに過ぎん。もっとも今は魔界のゲートが封印されておるからのう。人界に魔素は少なかろうて」
「え?ゲートを封印って……それって、もしかして」
「ご明察通りです。人界の魔法が発展しなかった原因はゲートを封印した影響によるものです」
リュシーファが土下座したまま補足した。
そろそろ立っても良いのだが。
反省を促す意味でももう少し放置しておこう。
「そういう事じゃ。人界の個体が保有する量じゃとファイアーボール程度がせいぜいじゃろうな。もっとも魔界じゃと子供でも操れる初歩の初歩じゃがな」
「その代わり聖属性の魔法は発展してるんですけどね。教会の神官が操る回復魔法は秀逸ですし。あとは精霊魔法がありますが」
回復魔法の存在は知っている。
一部の神官が救済の名目で人々を治癒しているからだ。
もちろん御布施を捧げるのが暗黙の了解になっているが。
ウイルス感染には効果が無いものの、外傷や内傷といった負傷や自然治癒で回復する病には絶大な効果があった。
「精霊魔法があるのか?」
「もちろんです。人族は知らないようですが存在しますよ。まあ亜種族を敵視している人族と精霊が契約する事はありませんが」
リュシーファの話ではごくごく限られた亜種族の一部で精霊魔法が使われているらしい。
その多くは認識阻害や結界などに使われているそうだ。
そもそも精霊は選り好みが激しいため滅多に契約する事はないという。
なるほど。
人間が知り得るはずが無いわけだ。
「魔界から魔素を供給する方法は無いのか?」
「ゲートの封印を解く以外には無いじゃろうな。リュシーファの封印は強力じゃからのう。妾の魔力を分け与えても良いが、果たして人族に耐えられるかのう?」
「無理でしょうね。まずケタが違い過ぎますし、人族の許容量は非常に小さいですから」
結論を聞いてガッカリした。
残念だ。
魔法が使えるようになれば色々と有益になると思ったのだが。
「であろうな。魔法が発展しておらぬでは当然じゃ。むしろ魔素が大量に漏れ出たら人界にどんな影響を及ぼすか見当もつかぬ」
「少なくとも魔物や魔獣が凶暴化するでしょうね。」
よし、魔素を供給する件は封印だ。
圧倒的にデメリットが大きい。
魔物や魔獣が凶暴化するのはまだ良いが。
生態系に悪影響を及ぼされたらたまったもんじゃない。
「妾から漏れ出す魔素量ですらゴーレムが誕生したくらいじゃ。魔界のゲートが解放されたら大災害を引き起こすやもしれぬな」
ケラケラと高笑いするディナアリス。
ん?ちょっと待て。
今なんて言った?
ディナアリスの魔素でゴーレムが誕生しただと。
「ほほう、お前が元凶かぁ」
こめかみに青筋を立ててニッコリと笑った。
その態度にディナアリスの高笑いがピタッと止まる。
先ほどリュシーファにブチ切れた光景を思い起こしたのだろう。
失言だったと気づいたディナアリスはしまった!という表情を作った。
「おい、リュシーファ。今すぐコイツを封印しろ」
「へ?え、いや、それは……」
気の毒そうにチラッとディナアリスを見るリュシーファ。
その反応を見ていよいよヤバいと思ったのか。
ディナアリスは今にも泣き出しそうな表情で俺の腰に抱きついてきた。
「嫌じゃ嫌じゃ!もう封印など真っ平じゃ!せっかく解放されたんじゃから美味い物をたらふく食いたい!そして人界を見て回りたいんじゃ~!」
ディナアリスは号泣して謝罪した。
なんだか同い歳の少女を思いっきり虐めてる感覚になる。
物凄い罪悪感を感じる。
いやいや、ここで仏心を出しても……。
「はぁ~……しょうがないなぁ」
俺は人が良いのだろうか。
根負けして許してやる事にした。
やっぱり精神年齢がオッサンだと少女の号泣はキツい。
もっともディナアリスは一万歳以上も年上なのだが。
「俺の言うことを聞くか?」
「もちろんじゃ!聞く聞く!なんでも従うぞ!」
安っぽい言葉だな。
まあ喜びが勝ってる状態だから許してやろう。
「俺の許し無く絶対に人を傷つけるなよ。約束できるか?」
「お安い御用じゃ!」
なんか信用できない。
本当に大丈夫だろうか?
不安になってまだ土下座の姿勢をキープしているリュシーファに視線を向けると。
大丈夫ですよ。
とキリッとした表情で親指を立てた。
それにしても神族最強の男と古の魔王の一柱である少女が俺の前で無様を晒してる今の状況って何だ?
二人かしらすれば俺など小さな存在でしかないだろうに。
「なんだがなぁ……」
俺は呆れつつ、突拍子もない現実を受け入れる羽目になったのだった。
その日の夜。
睡魔によって意識を失う寸前にそれは起こった。
《契約紋の効果によりディナアリスが支配下登録されました》
《エルロンドの支配下に魔王が登録された事により主神リュシーファの加護が発動しました》
《特定の条件をクリアしました。新たに固有スキル【眷属化】を獲得しました》
【眷属化】
主神の加護により眷属化した個体の能力が10%アップします。
眷属化された個体はマスターに対する反逆行為が行使不可能になります。
《ディナアリスを眷属にできます。眷属に登録しますか?》
《YES》《NO》
《YES》
《凶食と好奇の魔導姫ディナアリスがエルロンドの眷属になりました》
《魔王が眷属になった事により主神リュシーファの加護が発動しました》
《固有スキル【ゲノムカスタマイズクリエイト】がランクアップしました。新たな権能【スロット】を獲得しました》
【スロット】
眷属化した個体に割り当てられる特別枠。
個体によってスロットの数が決まっている。
《発動条件となる【キースキル】が覚醒していません。【スロット】を完全発動するには【キースキル】を獲得する必要があります》
《【ゲノムカスタマイズクリエイト】と【眷属化】の獲得によりスキルが覚醒しました。固有スキル【盟約の絆】を獲得しました》
【盟約の絆】
眷属化した個体の能力の一部を行使できる。
眷属化した個体が得た経験値、スキルを獲得可能。
なんだこれ?
若干ビビりつつも俺は睡魔に勝てず眠りについたのだった。
確かに魔王が復活したなどと聞いたら収拾がつかなくなっていただろう。
俺ですら思考の整理がつかずに動揺したくらいだ。
下手をしたらリオンとハンゾウ達が戦いを挑んでいたかもしれない。
「そういやとんでもない魔素量だったけど。あれはどうなってるんだ?」
当然の疑問を口にした。
魔王だから個体の保有量が多いのは理解できるが。
それにしてもケタが違うと思う。
さすがに個人の保有量だけで説明がつく魔素量ではない。
「ああ、あれか。簡単な事じゃ。魔界から魔素を供給したに過ぎん」
「はい?」
言ってる意味がわからない。
まさかモストティアは魔界に通じる場所だったのか?
いや、そんなバカな。
いくら亜種族の王国だからって。
そんなはずないだろう。
「あ~……言葉が悪かったな。正確には妾のスキルを通して魔素を供給しておるのじゃ」
「え~っと……つまりスキルで魔素を補給していると?」
「そういう事じゃ」
ディナアリスは腰に手を当ててふんぞり返った。
その態度は、どうだ驚いたかと言わんばかりだ。
「という事は、魔界には魔素が大量にあるのか?」
俺の問いかけにディナアリスが答えようとした時だった。
グゥウウウウウ~ッ!
盛大に腹の虫が鳴った。
俺じゃない。
ディナアリスからだ。
「そういえば腹が減ったのう。封印されてから今まで何も食っておらんかったからな」
「え!大丈夫なのか?」
一万年も飲まず食わずでいたという事が驚きだ。
魔族も生物なのだから飲食できなければ死ぬはずなのだが。
「問題ない。冬眠してるような状態だったからのう。まあ、暇すぎて眠ってただけじゃがな」
「封印された亜空間では時間が止まってますから。空腹も喉の渇きもありません」
リュシーファの説明で納得した。
だからディナアリスは幼い姿のままなのだろう。
さすがに一万年も経てば魔族といえど老いるハズだろうし。
「確か昼飯の残りがあったな。待ってろ。いま持ってきてやる」
俺は開口部を抜けて坑道に戻った。
普段ならリオンに頼むのだが。
時間が止められている現状では致し方ない。
「ほら、こんな物しかないけど食えよ」
俺はバスケットに入ったパンとチーズ、燻製肉をサンドしてディナアリスに手渡した。
飲み物は牛のミルク。
デザートにはリンゴに似た果物が入っている。
「なんじゃこれは?変わった食べ物だのう」
サンドイッチを初めて見るのか。
ディナアリスは物珍しそうに眺めつつ大きく口を開けて齧り付いた。
「ど、どうした?」
ディナアリスの動きがピタッと止まった。
もしかして口に合わなかったのだろうか?
「美っ味ぁ~~~っ!な、なんじゃこれはーーーっ!」
盛大に歓喜すると物凄い勢いで食べ始めた。
まるでハムスターがキャベツを暴食するかのように。
バスケットに入っているサンドイッチがあっという間に完食される。
「すげぇ……小さいクセによく食べたなぁ」
フードファイターを彷彿とさせる食いっぷりだ。
ミルクもデザートも美味い美味いと叫びながら完食している。
そんなに絶賛する程の物だろうか?
現代の食味を知る俺の見解からすると10点中3点という感じなのだが。
「驚いたぞ!今の時代にはこんなに美味いものがあるのだな!」
ディナアリスは眼をキラキラと輝かせながら両腕を天に突き上げて喜んだ。
「逆にお前の時代にはどんな食い物があったんだよ?」
「そうじゃのう。肉を丸焼きにして食っておったかのう」
まんま原始人の食生活だ。
どうやら調理技術は発展していなかったらしい。
対するリュシーファ達神族はそこそこ充実していたようだ。
それでも今と比べると原始的な食生活だったようだが。
「じゃあ、コレ食ってみるか?」
俺はポケットからクッキーを取り出した。
保存食と栄養補給として携帯しておいた物だ。
だからクッキーにはドライフルーツを練り込んである。
まだリュシーファも食べていない新作のクッキーだ。
「あ、食べます食べます!」
真っ先にリュシーファが手を挙げた。
土下座の姿勢だから物乞いしているように見えてしまう。
そのリュシーファの反応を見て美味しい物だと察したのだろう。
ディナアリスの瞳がキラリと輝く。
「もらうのじゃ!」
リュシーファに奪われまいとガッつくディナアリス。
やはり反応は大袈裟で、某美食マンガのようなリアクションを取り始めた。
そんなディナアリスを無視してリュシーファにもクッキーを手渡す。
するとクッキーを食べたリュシーファは涙を流しつつ「一生ついて行きます~!」などと訳の分からない言葉を吐いていた。
さて、盛大に話の腰が折られてしまった。
というわけで話を戻そう。
「腹も満たしたようだし改めて聞くぞ。魔界には魔素が大量にあるのか?」
「当然じゃ。そもそも魔素は魔界で発生するものじゃ。神界や人界で言う所の神力や精気と同じじゃな。それが各界のゲートを通じて漏れ出ているに過ぎん。もっとも今は魔界のゲートが封印されておるからのう。人界に魔素は少なかろうて」
「え?ゲートを封印って……それって、もしかして」
「ご明察通りです。人界の魔法が発展しなかった原因はゲートを封印した影響によるものです」
リュシーファが土下座したまま補足した。
そろそろ立っても良いのだが。
反省を促す意味でももう少し放置しておこう。
「そういう事じゃ。人界の個体が保有する量じゃとファイアーボール程度がせいぜいじゃろうな。もっとも魔界じゃと子供でも操れる初歩の初歩じゃがな」
「その代わり聖属性の魔法は発展してるんですけどね。教会の神官が操る回復魔法は秀逸ですし。あとは精霊魔法がありますが」
回復魔法の存在は知っている。
一部の神官が救済の名目で人々を治癒しているからだ。
もちろん御布施を捧げるのが暗黙の了解になっているが。
ウイルス感染には効果が無いものの、外傷や内傷といった負傷や自然治癒で回復する病には絶大な効果があった。
「精霊魔法があるのか?」
「もちろんです。人族は知らないようですが存在しますよ。まあ亜種族を敵視している人族と精霊が契約する事はありませんが」
リュシーファの話ではごくごく限られた亜種族の一部で精霊魔法が使われているらしい。
その多くは認識阻害や結界などに使われているそうだ。
そもそも精霊は選り好みが激しいため滅多に契約する事はないという。
なるほど。
人間が知り得るはずが無いわけだ。
「魔界から魔素を供給する方法は無いのか?」
「ゲートの封印を解く以外には無いじゃろうな。リュシーファの封印は強力じゃからのう。妾の魔力を分け与えても良いが、果たして人族に耐えられるかのう?」
「無理でしょうね。まずケタが違い過ぎますし、人族の許容量は非常に小さいですから」
結論を聞いてガッカリした。
残念だ。
魔法が使えるようになれば色々と有益になると思ったのだが。
「であろうな。魔法が発展しておらぬでは当然じゃ。むしろ魔素が大量に漏れ出たら人界にどんな影響を及ぼすか見当もつかぬ」
「少なくとも魔物や魔獣が凶暴化するでしょうね。」
よし、魔素を供給する件は封印だ。
圧倒的にデメリットが大きい。
魔物や魔獣が凶暴化するのはまだ良いが。
生態系に悪影響を及ぼされたらたまったもんじゃない。
「妾から漏れ出す魔素量ですらゴーレムが誕生したくらいじゃ。魔界のゲートが解放されたら大災害を引き起こすやもしれぬな」
ケラケラと高笑いするディナアリス。
ん?ちょっと待て。
今なんて言った?
ディナアリスの魔素でゴーレムが誕生しただと。
「ほほう、お前が元凶かぁ」
こめかみに青筋を立ててニッコリと笑った。
その態度にディナアリスの高笑いがピタッと止まる。
先ほどリュシーファにブチ切れた光景を思い起こしたのだろう。
失言だったと気づいたディナアリスはしまった!という表情を作った。
「おい、リュシーファ。今すぐコイツを封印しろ」
「へ?え、いや、それは……」
気の毒そうにチラッとディナアリスを見るリュシーファ。
その反応を見ていよいよヤバいと思ったのか。
ディナアリスは今にも泣き出しそうな表情で俺の腰に抱きついてきた。
「嫌じゃ嫌じゃ!もう封印など真っ平じゃ!せっかく解放されたんじゃから美味い物をたらふく食いたい!そして人界を見て回りたいんじゃ~!」
ディナアリスは号泣して謝罪した。
なんだか同い歳の少女を思いっきり虐めてる感覚になる。
物凄い罪悪感を感じる。
いやいや、ここで仏心を出しても……。
「はぁ~……しょうがないなぁ」
俺は人が良いのだろうか。
根負けして許してやる事にした。
やっぱり精神年齢がオッサンだと少女の号泣はキツい。
もっともディナアリスは一万歳以上も年上なのだが。
「俺の言うことを聞くか?」
「もちろんじゃ!聞く聞く!なんでも従うぞ!」
安っぽい言葉だな。
まあ喜びが勝ってる状態だから許してやろう。
「俺の許し無く絶対に人を傷つけるなよ。約束できるか?」
「お安い御用じゃ!」
なんか信用できない。
本当に大丈夫だろうか?
不安になってまだ土下座の姿勢をキープしているリュシーファに視線を向けると。
大丈夫ですよ。
とキリッとした表情で親指を立てた。
それにしても神族最強の男と古の魔王の一柱である少女が俺の前で無様を晒してる今の状況って何だ?
二人かしらすれば俺など小さな存在でしかないだろうに。
「なんだがなぁ……」
俺は呆れつつ、突拍子もない現実を受け入れる羽目になったのだった。
その日の夜。
睡魔によって意識を失う寸前にそれは起こった。
《契約紋の効果によりディナアリスが支配下登録されました》
《エルロンドの支配下に魔王が登録された事により主神リュシーファの加護が発動しました》
《特定の条件をクリアしました。新たに固有スキル【眷属化】を獲得しました》
【眷属化】
主神の加護により眷属化した個体の能力が10%アップします。
眷属化された個体はマスターに対する反逆行為が行使不可能になります。
《ディナアリスを眷属にできます。眷属に登録しますか?》
《YES》《NO》
《YES》
《凶食と好奇の魔導姫ディナアリスがエルロンドの眷属になりました》
《魔王が眷属になった事により主神リュシーファの加護が発動しました》
《固有スキル【ゲノムカスタマイズクリエイト】がランクアップしました。新たな権能【スロット】を獲得しました》
【スロット】
眷属化した個体に割り当てられる特別枠。
個体によってスロットの数が決まっている。
《発動条件となる【キースキル】が覚醒していません。【スロット】を完全発動するには【キースキル】を獲得する必要があります》
《【ゲノムカスタマイズクリエイト】と【眷属化】の獲得によりスキルが覚醒しました。固有スキル【盟約の絆】を獲得しました》
【盟約の絆】
眷属化した個体の能力の一部を行使できる。
眷属化した個体が得た経験値、スキルを獲得可能。
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