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043 悩ましい報告

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「金に目が眩んだ馬鹿野郎め!」

ジャンの報告を受けて俺は口汚く罵った。
まさかジャミルがこれほど深く関わっているとは、
事態は俺の予想を遥かに超えていた。

てっきりムンジェスに協力する形で不正に関わっていると思っていたのだ。
それならば都合良くジャミルを排除できただろう。
しかし真相は違う。
ジャミルが主導してムンジェスと共謀していたからだ。

これではジャミルを断罪できない。
もし断罪したらジャミルだけの問題では済まなくなる。
オスカーシュタイン家の存続に発展する可能性があるからだ。

俺の調べでは相当な不正に手を出している。

例えば奴隷の売買だ。
ブランドル王国では住民を奴隷として他国に売り渡してはいけない。
そう法律で決められて厳密に禁止されている。

しかしジャミルは禁を犯してブランドル王国の住民を奴隷として他国に売り渡していた。
ブランドル王国の人間は容姿が良くて教養もあるため高値で取り引きされるからだ。
しかも国が売買を禁止しているため付加価値がついている。
人身売買をすれば大儲けできるのは明白だ。

さらに持ち出しを厳禁にされた薬草がある。
ブランドル王国のみに自生する薬草で非常に薬効の高い薬草だ。
その薬草は流行病にも効くため、ブランドル王国は大病無しと呼ばれるほど病に強い国だった。
だから群生地には警備隊が配置されて厳重に管理されている。
その薬草をどういう手を使ってか入手して売り飛ばしているらしい。

その他にも流通量を制限している毛皮や鉄製品。
酒などの嗜好品を大量に売り捌いている。
毛皮などは密猟を行って仕入れているらしい。
酒は密造を行って大量に製造し、市場価格より安価な代物を高値で取り引きしているようだ。

極めつけはブランドル王国の内部情報を高値で取り引きしている事だろう。
もちろんオスカーシュタイン家に敵対する貴族の情報が主で、調略や内応の手引きを促しているようだ。
もちろん蹴落として没落させるのが狙いだろう。
愚かしい話だ。
わざわざブランドル王国の内紛を引き起こして国力低下を招く一助を担うなど。

「最悪だ……これが白日のもとに晒されたらオスカーシュタイン家は破滅するぞ」

いかに父テオドールが功績の高い忠臣で国王の覚えが良くても。
これがバレたら家の取り潰し。
最悪の場合は極刑に処される可能性がある。

ジャミルは絶対にバレない自信でもあるのだろう。
だが、俺にバレている。
その時点でアウトだ。
ムンジェスを隠れ蓑に使っているのかもしれないが。
もし他の誰かにバレでもしたら。
想像するだけで恐ろしい。

「アイツら最悪ですよ。好き放題に女を犯して、その女達を売り飛ばすって言うんですから」

ジャンは胸糞悪そうに、嫌悪感を丸出しにしながら言った。
リオンなど怒りが表情に現れている。
目の前にジャミルとムンジェスが居たら問答無用で斬殺しそうだ。

逆にシャークウッドは平然としていた。
耳にタコが出来るほど聞き飽きた話だと言わんばかりだ。
むしろ嫌悪感に苛立つ俺達を見て忘れていた新鮮味を思い出している節がある。

「それで、例のブツってのは確認できたのか?」

苛立つ俺に変わってシャークウッドが問いかけた。
ジャンは頷き。

「屋敷の地下にバカデカい倉庫がありました。そこにムンジェスとジャミルが入って行くのを確認したので潜入したのですが」

ジャンの調査で屋敷の地下に大量の不正物資が収納されている事を突き止めた。
その証拠となる薬草を数株持ち帰っており、ジャンは懐から取り出して俺に渡す。
間違いなく禁制の薬草だ。
動かぬ証拠を手にした俺は背筋に冷や汗を浮かべた。

これをオスカーシュタイン家の荷物に偽装して運ぶつもりだろう。
おそらく断罪裁判を終えた後にでも。
それまでは地下に隠して。
王族の住む王都でなんと大胆不敵な。
まともな神経じゃない。

まさに灯台もと暗しだ。
王都に不正物資があるなど誰も想像しないだろう。
俺ですら思いもしなかった。
盲点としか言いようがない。
だからだろう。
ジャンからの報告を考察するにムンジェスとジャミルは慣れ切って油断しているようだ。

東方には戦略物資と偽って、食糧の供給に紛れ込ませて運び込むに違いない。
実際にテオドールは国王と貴族に請われて物資を供給している。
主に兵糧をだ。
だからオスカーシュタイン家の荷物が運び込まれる事に不信感を抱く者はいないだろう。

北方にはエルロンドの母ソアラの実家であるノストラード家に贈物とでも偽るのだろう。
もしくは北の王国に友好の贈物を届けるとか。
テオドールの名を出せば通用する理由だ。
北方の友好は主にオスカーシュタイン家が担っていると言って過言ではないからだ。

西方と南方にはオスカーシュタイン家の商取引とでも銘打てば通行が許されるはずだ。
西方はテオドールが攻略中だが、陥落した土地に物資を運び込むのは何ら不自然ではない。
そして南方は敵対でも友好でもないため商取引自体は自由だ。
この二方は比較的に運び込みが容易だろう。
それだけに不正の温床になっている。
非常に頭の痛い問題だ。

「少し風向きが変わったな。どうする坊主?義兄を断罪するか?」

シャークウッドがからかう様に言った。
リオンが鋭い目で睨みつける。
冗談を言ってる場合か。
目が口ほどに物を言う。

「予定を変更せざるを得ないな。ふぅ~……まったく、厄介な事になったものだ」

ジャミルとムンジェスを一網打尽にする計画だったのだが中止だ。
このままではジャミルと共に俺まで道連れになってしまう。
とはいえ計画を中止にしたらロジャーノは極刑を免れない。
はてさて面倒な事になったものだ。

「う~ん……仕方ない。背に腹はかえられないからな」

悩んだ結果、俺は苦渋の決断を下す事にしたのだった。
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