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040 ダメ神様にお願い

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交易都市グラスの中心部に建立された神殿に足を運んだ。
荘厳で美しい神殿にはリュシーファの像が安置されている。
相変わらず過度な美形に造られているな。
だが、実物を見た事のある身としては遜色ないという印象だ。

「おい、話があるから出て来い!」

誰もいない神殿で怒鳴った。
傍から見ればヤバい奴だが、入口にはリオンが見張りとして立っている。
だから人目を気にする必要はない。

「もう少し敬った言い方をして下さいよ~」

像がリュシーファ本人に変化した。
最近では天から光が差す神秘的な演出は割愛されて普通に出てくる事が多い。

手抜きか!

とツッコむべきかと思ったが、別に求めてないので黙っている事にした。

「それで、今回は何の御用ですか?」

「ちょっと手伝って欲しい事がある。お前を崇める教会絡みの件だ」

「ああ、あの者達ですか。なにか問題でも?」

「大問題だ。このままじゃ子供の命が奪われかねない。地位と権力の闘争でな」

強欲な枢機卿ムンジェスを名指しして批難した。
これまでの経緯を説明すると、リュシーファは呆れたように深い溜息をついた。

「そのようなことが……熱心なのは良いのですが。困りましたね。私は彼等に何かを望んでるわけではないのです」

「望む望まぬでも神は神だ。責任の一端はお前にもある。教会の教義がそもそもの間違いだろ」

「あれは彼等が勝手に作った物です。私が信託を授けたと言ってますが、全くのデタラメです」

「そこなんだよ!」

リュシーファを指差して詰め寄った。
驚いたリュシーファは面食らって上体を仰け反らせる。

「教義がデタラメだと認知させればいいんだ。だいたいだな、お前は同性愛や近親愛に不寛容なのか?俺の世界でも中世の時代じゃ当たり前だったぞ」

「別に私は問題視していませんよ。双方に合意があれば、どのような形でも良いと思っています」

「じゃあ話は簡単だ。ちょっと骨を折ってくれれば解決するからさ」

俺はこれからの展望を説明した。
リュシーファは渋面になり。

「思いっきり現世に関わっちゃうじゃないですか!」

猛然と拒否した。
創世神であるリュシーファは現世に干渉してはならない決まりだ。
だから俺の提案に有り得ないと拒絶する。

「仕方ないだろ。それ以外に方法が無いんだから」

「だからって大衆の前に顕現するなど有り得ません!そんな事をしたら、それこそ収拾がつかなくなってしまうじゃないですか!」

やらかし癖のあるリュシーファだ。
恐らくだが、過去に何かしらの失態を演じているのかも。
そう思うほど真に迫る勢いがある。

「子供の命がかかってるんだぞ」

「うっ……だ、だとしても、絶対にダメです!」

頑なに拒否するリュシーファ。
普段はチョロい奴なのに今回は折れてくれそうにない。
ここまで頑固な態度は初めてだ。
やはり過去に何かやらかしたのだろう。
俺の予想は確信に変わった。

そうなると難しいか。
俺は落胆して髪を掻き乱すと。

「ああ、そうかい!わかったよ。だったら他の手を考えるさ。せっかく良い案だと思ったのに。まあ、それが通ったらリオンがベタベタ引っ付いて来そうだからな」

同性愛や近親愛が公認になれば常日頃から鬱陶しいリオンやアスタールが増長する恐れがある。
免罪符を与えかねないので、ある意味よかったのかもしれない。
そう思って納得するしかなかった。

「えっ?」

俺の呟きにリュシーファが反応した。
そのまま何やら考え込む。
目を瞑り、眉間にシワを寄せ、思案を巡らせる。
そうして真剣な表情で低く唸った。

何を考えているのだろう?

俺は嫌な予感がした。
このダメ神様が真剣に悩んでいる時は決まってロクな事じゃない。
よくよく観察すると鼻の下が伸びている。
恐らくだが、邪な妄想を思い描いているのだろう。
例えば、俺とリオンが同性愛を営む絵図とか。

果たして、俺の予感は的中した。
カッと目を見開いたリュシーファは意気込み強く言い放つ。

「素晴らしい案です!全面的に協力します!」

舌の根も乾かぬうちに手の平を返した。
やっぱりダメ神だコイツ。
欲望に忠実過ぎだろ。

俺は呆れ顔で冷たい視線を向けた。
快諾したリュシーファは鼻血を垂らしつつ、満面の笑顔で親指を立てたのだった。
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