上 下
40 / 69

040 ダメ神様にお願い

しおりを挟む
交易都市グラスの中心部に建立された神殿に足を運んだ。
荘厳で美しい神殿にはリュシーファの像が安置されている。
相変わらず過度な美形に造られているな。
だが、実物を見た事のある身としては遜色ないという印象だ。

「おい、話があるから出て来い!」

誰もいない神殿で怒鳴った。
傍から見ればヤバい奴だが、入口にはリオンが見張りとして立っている。
だから人目を気にする必要はない。

「もう少し敬った言い方をして下さいよ~」

像がリュシーファ本人に変化した。
最近では天から光が差す神秘的な演出は割愛されて普通に出てくる事が多い。

手抜きか!

とツッコむべきかと思ったが、別に求めてないので黙っている事にした。

「それで、今回は何の御用ですか?」

「ちょっと手伝って欲しい事がある。お前を崇める教会絡みの件だ」

「ああ、あの者達ですか。なにか問題でも?」

「大問題だ。このままじゃ子供の命が奪われかねない。地位と権力の闘争でな」

強欲な枢機卿ムンジェスを名指しして批難した。
これまでの経緯を説明すると、リュシーファは呆れたように深い溜息をついた。

「そのようなことが……熱心なのは良いのですが。困りましたね。私は彼等に何かを望んでるわけではないのです」

「望む望まぬでも神は神だ。責任の一端はお前にもある。教会の教義がそもそもの間違いだろ」

「あれは彼等が勝手に作った物です。私が信託を授けたと言ってますが、全くのデタラメです」

「そこなんだよ!」

リュシーファを指差して詰め寄った。
驚いたリュシーファは面食らって上体を仰け反らせる。

「教義がデタラメだと認知させればいいんだ。だいたいだな、お前は同性愛や近親愛に不寛容なのか?俺の世界でも中世の時代じゃ当たり前だったぞ」

「別に私は問題視していませんよ。双方に合意があれば、どのような形でも良いと思っています」

「じゃあ話は簡単だ。ちょっと骨を折ってくれれば解決するからさ」

俺はこれからの展望を説明した。
リュシーファは渋面になり。

「思いっきり現世に関わっちゃうじゃないですか!」

猛然と拒否した。
創世神であるリュシーファは現世に干渉してはならない決まりだ。
だから俺の提案に有り得ないと拒絶する。

「仕方ないだろ。それ以外に方法が無いんだから」

「だからって大衆の前に顕現するなど有り得ません!そんな事をしたら、それこそ収拾がつかなくなってしまうじゃないですか!」

やらかし癖のあるリュシーファだ。
恐らくだが、過去に何かしらの失態を演じているのかも。
そう思うほど真に迫る勢いがある。

「子供の命がかかってるんだぞ」

「うっ……だ、だとしても、絶対にダメです!」

頑なに拒否するリュシーファ。
普段はチョロい奴なのに今回は折れてくれそうにない。
ここまで頑固な態度は初めてだ。
やはり過去に何かやらかしたのだろう。
俺の予想は確信に変わった。

そうなると難しいか。
俺は落胆して髪を掻き乱すと。

「ああ、そうかい!わかったよ。だったら他の手を考えるさ。せっかく良い案だと思ったのに。まあ、それが通ったらリオンがベタベタ引っ付いて来そうだからな」

同性愛や近親愛が公認になれば常日頃から鬱陶しいリオンやアスタールが増長する恐れがある。
免罪符を与えかねないので、ある意味よかったのかもしれない。
そう思って納得するしかなかった。

「えっ?」

俺の呟きにリュシーファが反応した。
そのまま何やら考え込む。
目を瞑り、眉間にシワを寄せ、思案を巡らせる。
そうして真剣な表情で低く唸った。

何を考えているのだろう?

俺は嫌な予感がした。
このダメ神様が真剣に悩んでいる時は決まってロクな事じゃない。
よくよく観察すると鼻の下が伸びている。
恐らくだが、邪な妄想を思い描いているのだろう。
例えば、俺とリオンが同性愛を営む絵図とか。

果たして、俺の予感は的中した。
カッと目を見開いたリュシーファは意気込み強く言い放つ。

「素晴らしい案です!全面的に協力します!」

舌の根も乾かぬうちに手の平を返した。
やっぱりダメ神だコイツ。
欲望に忠実過ぎだろ。

俺は呆れ顔で冷たい視線を向けた。
快諾したリュシーファは鼻血を垂らしつつ、満面の笑顔で親指を立てたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き
ファンタジー
【ステータス1の最弱主人公が送るゆるやか異世界転生ライフ】✕【バレたら殺される世界でハイドレベリング】✕【異世界人達と織り成すヒューマンドラマ】 毎日更新を再開しました。 20時に更新をさせていただきます。 第四創造世界『ARCUS』は単純なファンタジーの世界、だった。 しかし、【転生者】という要素を追加してしまってから、世界のパワーバランスが崩壊をし始めていた。挙句の果てに、この世界で転生者は罪人であり、素性が知られたら殺されてしまう程憎まれているときた! こんな世界オワコンだ! 終末までまっしぐら――と思っていたトコロ。  ▽『彼』が『初期ステータス』の状態で転生をさせられてしまった! 「こんな世界で、成長物語だって? ふざけるな!」と叫びたいところですが、『彼』はめげずに順調に協力者を獲得していき、ぐんぐんと力を伸ばしていきます。 時には強敵に負け、挫折し、泣きもします。その道は決して幸せではありません。 ですが、周りの人達に支えられ、また大きく羽ばたいていくことでしょう。弱い『彼』は努力しかできないのです。 一章:少年が異世界に馴染んでいく過程の複雑な感情を描いた章 二章:冒険者として活動し、仲間と力を得ていく成長を描いた章 三章:一人の少年が世界の理不尽に立ち向かい、理解者を得る章 四章:救いを求めている一人の少女が、歪な縁で少年と出会う章 ──四章後、『彼』が強敵に勝てるほど強くなり始めます── 【お知らせ】 他サイトで総合PVが20万行った作品の加筆修正版です 第一回小説大賞ファンタジー部門、一次審査突破(感謝) 【作者からのコメント】 成長系スキルにステータス全振りの最弱の主人公が【転生者であることがバレたら殺される世界】でレベルアップしていき、やがて無双ができるまでの成長過程を描いた超長編物語です。 力をつけていく過程をゆっくりと描いて行きますので「はやく強くなって!」と思われるかもしれませんが、第四章終わりまでお待ち下さい。 第四章までは主人公の成長と葛藤などをメインで描いた【ヒューマンドラマ】 第五章からは主人公が頭角を現していくバトル等がメインの【成り上がり期】 という構成でしています。 『クラディス』という少年の異世界ライフを描いた作品ですので、お付き合い頂けたら幸いです。 ※ヒューマンドラマがメインのファンタジーバトル作品です。 ※設定自体重めなのでシリアスな描写を含みます。 ※ゆるやか異世界転生ライフですが、ストレスフルな展開があります。 ※ハッピーエンドにするように頑張ります。(最終プロットまで作成済み) ※カクヨムでも更新中

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...