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035 報告
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ジャンを部下にして数日が経った。
ロジャーノの動きはまだない。
警戒しているのか。
それとも用心深いだけなのか。
ロジャーノは教会に閉じこもって勤勉に布教している。
見張り役の傭兵にジャンを伴わせて監視を続けているのだが。
下町の教会に足を運ぶ様子は未だ無かった。
ロジャーノが動かなければ話にならないのだが。
それはそれ。
これはこれだ。
その間にアスタールが着々とエルネスト商会の地盤を固めていた。
まだ結婚していないというのに各種手続きを行い、あとは決裁されるだけという状態にまでこぎつけている。
ロジャーノが結婚を認めれば全て完了という状態だ。
こうなると是が非でもロジャーノの尻尾を掴まなければならない。
「早いとこ馬脚を露わしてほしいな。グラスに長滞在するにも限界がある」
高級レストランの個室で昼食を摂りながら愚痴をこぼす。
同席しているのはリオン、テイル、エレオノーラの三人だ。
アスタールも誘ったのだが会長に就任する準備に余念がない。
今は商魂と恋愛に熱を上げているようだった。
「ベルナールの報告ではアクセルに問題はないようです。ですが、アルフレッド様とジャミル様に不審な動きがあるとのことです」
ナイフとフォークを優雅に動かして食事を摂るリオン。
子牛のステーキを切り分けて口に運ぶ。
丁寧な所作で食事する様は貴族の子息みたいだ。
とても元奴隷だったとは思えない。
「私のせいで不便をおかけして申し訳ございません」
エレオノーラが陳謝した。
エルネスト商会の再建が足枷となって迷惑をかけている。
そんな後ろめたさを感じているのだろう。
「気にする必要はないよ。メリットがあるから骨を折っているんだ。エルネスト商会の再建は、巡り巡って皆の利益になるんだ。多少の痛手は覚悟の上さ」
「そう言って頂けると救われます」
「それに、エルネスト商会が再建したらアスタールと一緒に頑張ってもらうしね」
エルネスト商会の持つ情報網と販路の有益性を考えれば、今ここで地盤固めを行うのは当然のことだ。
モストティアでの交渉が上手く行けばエルネスト商会の力が大いに発揮されるだろう。
頭を悩ませていた流通と輸送の問題が一気に片付くのだ。
多少の骨折りや痛手は苦にならない。
それから数日経って待望の報せが舞い込んだ。
ロジャーノが教会を抜け出したというものだ。
就寝しようとしていた矢先のことで、俺は眠い目をこすりながら執務室で報告を受ける。
「それで、ロジャーノは教会に行ったのか?」
「はい、下町の教会に入ったとの報告がありました。入れ替わるように神父が出て行った事を見ても何かあるかと」
傭兵団の伝令係が拝礼したまま告げた。
シャークウッドは相変わらず不遜な態度で壁に寄りかかっている。
「孤児院はどうなっている?」
「エリオットが孤児院を抜け出したのを確認しました。やはり下町の教会に入ったのを確認しています」
「決まりだな。後は動かぬ証拠を掴むだけだが」
「任せとけ。すでに手は打ってある」
シャークウッドが自信満々に言った。
「へえ、どんな手だ?まさか、教会に乗り込むって訳じゃないよな」
「そんな下手を打つかよ。そもそも、そのためにジャンを手下に引き入れたんじゃないのか」
俺はニヤリと笑って肯定した。
シャークウッドは良く心得ている。
だったら何も言うことはない。
「朗報を期待してるよ」
「ああ、坊主が起きる頃には良い報せを持ってきてやるさ」
シャークウッドは手をヒラヒラと振って下町の教会に赴いた。
ロジャーノの動きはまだない。
警戒しているのか。
それとも用心深いだけなのか。
ロジャーノは教会に閉じこもって勤勉に布教している。
見張り役の傭兵にジャンを伴わせて監視を続けているのだが。
下町の教会に足を運ぶ様子は未だ無かった。
ロジャーノが動かなければ話にならないのだが。
それはそれ。
これはこれだ。
その間にアスタールが着々とエルネスト商会の地盤を固めていた。
まだ結婚していないというのに各種手続きを行い、あとは決裁されるだけという状態にまでこぎつけている。
ロジャーノが結婚を認めれば全て完了という状態だ。
こうなると是が非でもロジャーノの尻尾を掴まなければならない。
「早いとこ馬脚を露わしてほしいな。グラスに長滞在するにも限界がある」
高級レストランの個室で昼食を摂りながら愚痴をこぼす。
同席しているのはリオン、テイル、エレオノーラの三人だ。
アスタールも誘ったのだが会長に就任する準備に余念がない。
今は商魂と恋愛に熱を上げているようだった。
「ベルナールの報告ではアクセルに問題はないようです。ですが、アルフレッド様とジャミル様に不審な動きがあるとのことです」
ナイフとフォークを優雅に動かして食事を摂るリオン。
子牛のステーキを切り分けて口に運ぶ。
丁寧な所作で食事する様は貴族の子息みたいだ。
とても元奴隷だったとは思えない。
「私のせいで不便をおかけして申し訳ございません」
エレオノーラが陳謝した。
エルネスト商会の再建が足枷となって迷惑をかけている。
そんな後ろめたさを感じているのだろう。
「気にする必要はないよ。メリットがあるから骨を折っているんだ。エルネスト商会の再建は、巡り巡って皆の利益になるんだ。多少の痛手は覚悟の上さ」
「そう言って頂けると救われます」
「それに、エルネスト商会が再建したらアスタールと一緒に頑張ってもらうしね」
エルネスト商会の持つ情報網と販路の有益性を考えれば、今ここで地盤固めを行うのは当然のことだ。
モストティアでの交渉が上手く行けばエルネスト商会の力が大いに発揮されるだろう。
頭を悩ませていた流通と輸送の問題が一気に片付くのだ。
多少の骨折りや痛手は苦にならない。
それから数日経って待望の報せが舞い込んだ。
ロジャーノが教会を抜け出したというものだ。
就寝しようとしていた矢先のことで、俺は眠い目をこすりながら執務室で報告を受ける。
「それで、ロジャーノは教会に行ったのか?」
「はい、下町の教会に入ったとの報告がありました。入れ替わるように神父が出て行った事を見ても何かあるかと」
傭兵団の伝令係が拝礼したまま告げた。
シャークウッドは相変わらず不遜な態度で壁に寄りかかっている。
「孤児院はどうなっている?」
「エリオットが孤児院を抜け出したのを確認しました。やはり下町の教会に入ったのを確認しています」
「決まりだな。後は動かぬ証拠を掴むだけだが」
「任せとけ。すでに手は打ってある」
シャークウッドが自信満々に言った。
「へえ、どんな手だ?まさか、教会に乗り込むって訳じゃないよな」
「そんな下手を打つかよ。そもそも、そのためにジャンを手下に引き入れたんじゃないのか」
俺はニヤリと笑って肯定した。
シャークウッドは良く心得ている。
だったら何も言うことはない。
「朗報を期待してるよ」
「ああ、坊主が起きる頃には良い報せを持ってきてやるさ」
シャークウッドは手をヒラヒラと振って下町の教会に赴いた。
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