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028 いざ、モストティアへ①

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晴れ渡る青空の下で荷馬車に揺られながらモストティアを目指していた。
商隊を率いる商人に偽装して俺はアスタール、リオン、ハンゾウを従えて悠々と馬を進ませる。
商隊なのだから荷が無ければ話にならないという事でアクセルの収穫物を積載して向かっていた。

「いい天気だなぁ。まるで明るい前途を示してるみたいだ」

「なに呑気なこと言ってんスか。モストティアに無事着いても安全かどうか分からないんスよ」

「大丈夫さ。別に争いを仕掛けに行ってる訳じゃないんだから。ヤシャも話の通じる相手だと言ってたし。それに、保険もかけてるしね」

「そりゃあ、ッスね」

アスタールは申し訳なさそうに視線を向けた。
その先には青ざめた顔で馬車に揺られている商人の姿があった。

「ずいぶん顔色が悪いな。馬車に酔ったかな?」

「なに言ってんスか。俺等のせいっスよ」

「なんで?」

あっけらかんと疑問をなげかけると、アスタールは疲れたように額を押さえた。

「坊ちゃん。わざと言ってるでしょ」

「あ、やっぱりバレた」

イタズラがバレた子供の仕草でペロッと舌を出した。

「悪趣味っス。けっこう命懸けなんスよ彼」

小言を言うアスタールは珍しい。
それだけ危険極まりない事を商人に押し付けているからだ。

彼はアスタールの商人仲間でテイルという。
まだ35歳の若い商人で、丁稚奉公から独り立ちした叩き上げの苦労人だ。
生真面目で人当たりの良い性格が信用を得たらしく、モストティアに出入りする数少ない商人の一人である。
そんな彼に今回無理を言って同行させてもらっていたのだ。

まあ、実際はアクセルの取引をタテに脅迫した形ではある。
テイルの商会は小規模で取引中止は即経営に響くからだ。
とりわけアクセルの商品は需要が高いため争奪戦の状態だ。
アスタールの口利きで取引出来ている事もあり、テイルは二つ返事で承知するしかなかった。

「いいじゃないか。命懸けの分だけ見返りも多いだろうさ」

「そりゃあ、購入した鉄の一割を譲渡する契約ッスからね」

鉄不足で需要が急騰しているため購入できれば大儲けだ。
しかも協力の報酬で無償提供されるのだからテイルにとって悪い話じゃないだろう。










商隊は北西に向かってのんびりと進んだ。
いくつかの街を経由してモストティアを目指す。
その道中で立ち寄った街で耳にした噂は、オスカーシュタイン家の後継者争いに対する庶民の本音だった。

ある者はアルフレッドこそが後継者に相応しいと豪語し、ある者はジャミルこそが繁栄をもたらすと息巻く。
恐らくは両者子飼いの間者だろう。
庶民に情報を流布して人気獲得に務めているようだ。

その噂に俺は含まれていなかった。
幸いと言うべきだろう。
まあ、11歳の子供に後継者争いは無理だ、という考えが働いただけかもしれないが。

とまあ、情報収集を兼ねながら道中を急いでいると思いがけぬ収穫が転がり込んできた。
ここはブランドル王国の王都ヘルメールから北に位置する交易都市グラス。
北方の商品を主に売買し、ここから王都に運ばれる中継地点の要だ。

「坊ちゃん朗報っス!」

「なんだ朝っぱらから騒々しい」

宿の食事を摂っているとアスタールが鼻息荒く駆け込んできた。
商品の仕入れに出かけたはずだが随分と早い帰りだ。
その理由は手にした一枚の広告にあった。

「なんだこれ?」

渡された広告に目を通しながらミルクを啜った。
紙面にはエルネスト商会閉店セールという見出しが踊り、全品格安で販売と謳っている。
どうやら在庫処分の販売チラシのようだ。

アスタールの話ではエルネスト商会は中堅ながら質の良い商品を扱うことで有名らしい。
しかし三年前に会長と後継者である息子が不慮の事故で亡くなり、遺された会長婦人が陣頭指揮を執って辛くも存続させてきた。
だが経営は厳しく、商会を存続させることが困難になったという事だ。
一時は権利の売却という話もあったそうだが、エルネスト商会の権利は高額であるため買い手がつかなかったらしい。
そのため店じまいの準備を順次行っているらしいが。

「こんな機会は滅多にないっス!坊ちゃん!」

瞳をキラキラさせながら懇願するアスタール。
本当なら直ぐにでも出発したいところだが。

「分かったよ。出発は延期するから好きなだけ買い漁ってきなよ」

「やったぁ!さすが坊ちゃん!大好きっス!」

アスタールはガバッと抱きついて頬擦りしてきた。
そのせいで危うくミルクを零しそうになったが。

「それじゃあ、行って来るっス!」

アスタールは意気揚々と宿を飛び出して行った。
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