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020 待望の家畜
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「ただいまッス!頼まれた物を仕入れてきたッス!」
アスタールが行商から帰ってきた。
今回は収穫した野菜と卵を売りに行かせたが、反応は想像以上で取引の依頼が殺到したらしい。
当初設定した価格を軒並み上回り、瞬く間に完売したそうだ。
収穫し終えた畑には種を蒔き、すでに芽が出ている。
1ヶ月もすれば大きく育ち、収穫することが出来るだろう。
「ご苦労様。大変だったろう?」
「いやいや、今回は近場で行商してきたッスから。それに運よく相場よりも安く買えたッス。坊っちゃんの注文より多く買えたッスよ」
アスタールは商品の背中をポンポンと叩いた。
すると反応する様にモォ~!と鳴き声をあげる。
購入してきたのは黒い毛並みの乳牛だ。
「助かるよ。これで牛乳が安く手に入る」
俺は満面の笑顔で感謝した。
牛乳好きの俺にしてみれば由々しき問題だからだ。
アクセルには乳牛が一頭もいなかった。
維持費と労力がかかるためだ。
それに牛乳も量がなければ商人が買い付けに来ない。
飼育してもメリットが無いに等しいのだ。
だから基本的に牛乳は購入するものであり、保存性やコストの問題から牛乳は高価な代物だった。
だから乳牛を手に入れて牛乳を生産してやろうと思ったのだ。
今回は10頭の乳牛を購入できた。
特産品として売り出すには及ばない数だが、アクセル内で出回る量なら問題なく確保できる。
毎回購入する金額を考えれば、長い目でみても安い買い物だ。
「期待してるぞ」
俺は乳牛の腹を優しく撫でた。
1週間後。
環境に慣れたのか、乳牛は乳を出すようになった。
それまではストレスと環境の違いで乳が出なかったのだが、奴隷達が甲斐甲斐しく世話を焼いたことで思いが通じたのだろう。
搾乳された牛乳は薄黄色で味が濃く、牛乳として飲むには少し塩気が強い感じだった。
「1週間も溜まってたんだ。まあ、しょうがない」
毎日搾乳していれば牛乳本来の旨味が出てくるだろう。
遺伝子改造しても良いのだが、本来の味を楽しみたい気持ちがある。
牛乳好きのこだわりだ。
充分に堪能してから遺伝子改造をする予定である。
「こうなるとチーズやヨーグルトを作ってみたいな」
かなり手間のかかる代物だけに今の設備と人員では少々心もとない。
実行に移すには時期尚早か。
俺は一案として構想を練ることにし、とりあえず牛乳の普及を優先することにした。
1ヶ月後。
畑には野菜が大きく実っていた。
遺伝子改造した種は実に優秀である。
今回は葉物野菜の種をリュシーファから貰って蒔いてある。
そのためレタス、キャベツ、ほうれん草などが実り、再び料理を作って振る舞う事になった。
料理人達は腕を奮って食材を調理し、領民の胃袋を満たしている。
葉物野菜は大好評で人気を博し、特にキャベツはダントツの支持を獲得した。
「キャベツは応用が利くから大量に作ってもいいか」
予想以上の反響にキャベツは生産物のメインに据えることにした。
甘味と歯応えが領民の胃袋を掴んだらしい。
原種は素っ気ない味で紙を食べているような代物だったため、当然といえば当然だろう。
「領主様~!」
荷馬車を曳く男が遠くから呼んだ。
乳牛の管理を任せている奴隷のライルだ。
面倒見がよく忍耐強い性格のため乳牛の飼育に向いていると抜擢した青年である。
「今日も良質の牛乳が採れました~!」
「ホントか!」
俺は舌舐めずりしてライルの元に駆け寄った。
ライルは毎度の事に心得ているようで、椀を用意すると荷台に積んだ水瓶から牛乳を注いだ。
「どうぞ」
ライルが椀を差し出すと息も整えぬまま牛乳を一気飲みした。
搾りたての牛乳は濃厚で温かく、ほのかに甘味があって喉ごしがいい。
旨味成分も強く、遺伝子改造しなくても充分に美味い代物だ。
「くっはぁ~っ!美味い!」
「お気に召していただいて良かったです」
「やっぱり牛乳は搾りたてが一番だな!」
仕事終わりのビールを堪能する勢いで甘美の吐息を漏らした。
ライルは微笑ましそうに目を細めると。
「飼育環境が素晴らしいですからね。手間隙をかけて餌にもこだわって、普通はここまで手をかけません」
ライルは感心したように言った。
というのも、乳牛には鉄分を取り除いた濾過水を与え、飼料にはトウモロコシ、大豆、くず野菜、ワイン作りの残りカスを与えている。
毎日丁寧にブラッシングし、牛舎は異物の混入を防ぐため徹底して清掃させていた。
全ては良質の牛乳を得るためだ。
「良い物を得るためには手間隙を惜しんじゃ駄目だからね」
「確かに、その通りだと思います。私も世話をしていて実感する毎日です。それに、手間隙をかけるほど愛しくなりますので」
「やっぱりライルに任せて正解だったな」
誉められたライルは照れ臭そうに頬を掻いた。
俺は今後も頼むと発破をかけると、お碗を差し出して「もう一杯!」とお代わりを催促するのだった。
アスタールが行商から帰ってきた。
今回は収穫した野菜と卵を売りに行かせたが、反応は想像以上で取引の依頼が殺到したらしい。
当初設定した価格を軒並み上回り、瞬く間に完売したそうだ。
収穫し終えた畑には種を蒔き、すでに芽が出ている。
1ヶ月もすれば大きく育ち、収穫することが出来るだろう。
「ご苦労様。大変だったろう?」
「いやいや、今回は近場で行商してきたッスから。それに運よく相場よりも安く買えたッス。坊っちゃんの注文より多く買えたッスよ」
アスタールは商品の背中をポンポンと叩いた。
すると反応する様にモォ~!と鳴き声をあげる。
購入してきたのは黒い毛並みの乳牛だ。
「助かるよ。これで牛乳が安く手に入る」
俺は満面の笑顔で感謝した。
牛乳好きの俺にしてみれば由々しき問題だからだ。
アクセルには乳牛が一頭もいなかった。
維持費と労力がかかるためだ。
それに牛乳も量がなければ商人が買い付けに来ない。
飼育してもメリットが無いに等しいのだ。
だから基本的に牛乳は購入するものであり、保存性やコストの問題から牛乳は高価な代物だった。
だから乳牛を手に入れて牛乳を生産してやろうと思ったのだ。
今回は10頭の乳牛を購入できた。
特産品として売り出すには及ばない数だが、アクセル内で出回る量なら問題なく確保できる。
毎回購入する金額を考えれば、長い目でみても安い買い物だ。
「期待してるぞ」
俺は乳牛の腹を優しく撫でた。
1週間後。
環境に慣れたのか、乳牛は乳を出すようになった。
それまではストレスと環境の違いで乳が出なかったのだが、奴隷達が甲斐甲斐しく世話を焼いたことで思いが通じたのだろう。
搾乳された牛乳は薄黄色で味が濃く、牛乳として飲むには少し塩気が強い感じだった。
「1週間も溜まってたんだ。まあ、しょうがない」
毎日搾乳していれば牛乳本来の旨味が出てくるだろう。
遺伝子改造しても良いのだが、本来の味を楽しみたい気持ちがある。
牛乳好きのこだわりだ。
充分に堪能してから遺伝子改造をする予定である。
「こうなるとチーズやヨーグルトを作ってみたいな」
かなり手間のかかる代物だけに今の設備と人員では少々心もとない。
実行に移すには時期尚早か。
俺は一案として構想を練ることにし、とりあえず牛乳の普及を優先することにした。
1ヶ月後。
畑には野菜が大きく実っていた。
遺伝子改造した種は実に優秀である。
今回は葉物野菜の種をリュシーファから貰って蒔いてある。
そのためレタス、キャベツ、ほうれん草などが実り、再び料理を作って振る舞う事になった。
料理人達は腕を奮って食材を調理し、領民の胃袋を満たしている。
葉物野菜は大好評で人気を博し、特にキャベツはダントツの支持を獲得した。
「キャベツは応用が利くから大量に作ってもいいか」
予想以上の反響にキャベツは生産物のメインに据えることにした。
甘味と歯応えが領民の胃袋を掴んだらしい。
原種は素っ気ない味で紙を食べているような代物だったため、当然といえば当然だろう。
「領主様~!」
荷馬車を曳く男が遠くから呼んだ。
乳牛の管理を任せている奴隷のライルだ。
面倒見がよく忍耐強い性格のため乳牛の飼育に向いていると抜擢した青年である。
「今日も良質の牛乳が採れました~!」
「ホントか!」
俺は舌舐めずりしてライルの元に駆け寄った。
ライルは毎度の事に心得ているようで、椀を用意すると荷台に積んだ水瓶から牛乳を注いだ。
「どうぞ」
ライルが椀を差し出すと息も整えぬまま牛乳を一気飲みした。
搾りたての牛乳は濃厚で温かく、ほのかに甘味があって喉ごしがいい。
旨味成分も強く、遺伝子改造しなくても充分に美味い代物だ。
「くっはぁ~っ!美味い!」
「お気に召していただいて良かったです」
「やっぱり牛乳は搾りたてが一番だな!」
仕事終わりのビールを堪能する勢いで甘美の吐息を漏らした。
ライルは微笑ましそうに目を細めると。
「飼育環境が素晴らしいですからね。手間隙をかけて餌にもこだわって、普通はここまで手をかけません」
ライルは感心したように言った。
というのも、乳牛には鉄分を取り除いた濾過水を与え、飼料にはトウモロコシ、大豆、くず野菜、ワイン作りの残りカスを与えている。
毎日丁寧にブラッシングし、牛舎は異物の混入を防ぐため徹底して清掃させていた。
全ては良質の牛乳を得るためだ。
「良い物を得るためには手間隙を惜しんじゃ駄目だからね」
「確かに、その通りだと思います。私も世話をしていて実感する毎日です。それに、手間隙をかけるほど愛しくなりますので」
「やっぱりライルに任せて正解だったな」
誉められたライルは照れ臭そうに頬を掻いた。
俺は今後も頼むと発破をかけると、お碗を差し出して「もう一杯!」とお代わりを催促するのだった。
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