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007 厄介な問題

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領地経営に携わって1ヶ月が経った。
事前準備の資金と新作クッキーの売上で金銭的な不安はない。
人手もアスタールにより確保され、生産力において一定の目処が立った。
次に取り掛かるのは開拓だ。
雑木林を切り開いて耕作地を広げ、収穫量を増やす必要がある。
そのためにはノコギリや斧、農具が必要だ。
もっともすでに見越して準備してあるため、あとは実行に移すのみなのだが。

「どうしたものか……」

邸宅の会議室で地図を眺めて頭を悩ませた。

実行に移す前に解決すべき問題が一つ。
それはリュシーファに賜った情報によるものだ。
雑木林は長年放置されてきたため伐採するのに問題はない。
問題なのはそこに亜人が住み着いている、ということだ。

「困りましたね。ゴブリンやオークならともかく、オーガが相手では」

ベルナールが眉間にしわを寄せて呟いた。
オーガは亜人の上位種でゴブリンやオークより遥かに強い。
人間に近い知能と技術を持ち、戦闘においては怪力を誇るため厄介な存在である。
エルロンドの手駒で太刀打ちできるのはリオンくらいだ。
数の優位性を考慮すれば、とても駆逐できるものではない。

「テオドール様にお願いして軍を派遣してもらっちゃどうっスか?」

「テオドール様は領土経営に口を出さないと仰られた。様々な問題を試練として課すおつもりなのだろう。嘆願してもエルロンド様の評価を下げるだけだ」

至極真っ当なベルナールの言葉に、「んじゃどうすりゃいいんっスか~!」と頭を抱えるアスタール。
相手が亜人では商人の弁舌も役にはたたない。
となると武力だが、リオンは厳しい面持ちで無理だと首を横に振った。

「ええい!虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。こうなりゃ、直接出向いて説得するしかない!」

「へっ?オケツがなんですって?……ってか、なに言ってんスか!直接って。まさか坊ちゃんが行く気じゃないっスよね⁉︎」

「そう言ったつもりだけど?」

「「「へっ?」」」

思いもよらぬ言葉に間抜けな声を漏らす3人。
するといつもはエルロンドを猫可愛がりするアスタールが猛然と憤りを現にした。

「ダメっす!ぜっっったいにダメっす!俺の可愛い坊ちゃんを一人でオーガの巣に行かせるわけには行かないっス!」

「誰が俺の坊ちゃんだ!勝手なことを言うな!」

やや論点がズレた所でいがみ合うリオンとアスタール。
呆れたベルナールは溜息を吐くと。

「エルロンド様。御止めしても行かれるのは理解しています。ですので止めは致しませんが、貴族の訪問は先に使者を遣わすのが礼儀です。その任、交渉役を担ってきた私にお命じ下さいませ」

「だけど、相手は亜人だ。ベルナールの交渉力は信頼しているけど、万が一の事を考えると」

ベルナールの妻子が悲しむじゃないか。
俺は暗に示して止めさせようとしたが。

「奴隷に堕ちた折に一度死んだも同然の私です。二度死ぬのも同じこと。妻と娘にはエルロンド様のため命懸けで仕えると言い含めてあります。最悪の事態も、覚悟しております。なんら心配には及びません」

真面目で頑固なベルナール。
本当に良い部下を持って幸せだ。

「……わかった。護衛にリオンを付けることを命じる。そして厳命だ。決して命を粗末にするな。絶対に無事帰って来い」

「厳命、承知いたしました」

ベルナールは片膝をつくと胸に手を当てて深く頭を下げた。
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