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第5章

第5話 白けた視線を向けてくるのだった……

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 アルデオレ達は、南の島からいったん村に戻り、村を経由して王都へと転移魔法で移動した。

 ティスリ曰く、村の外れに、国内各地と繋げた転送ゲートを設置したとのこと。うちの村、そんな設備まで出来ただなんてすげぇな……移動設備としては要塞並みだぞ。

 それにしても、魔動車での移動も早かったが、転移魔法はもはや別格だ。ティスリと一緒に地元までやってきた数カ月が一瞬とは恐れ入る。その分、旅路の情緒も何もないから味気ないわけだが。

 いずれにしても、王都に戻ってからのティスリはめまぐるしく働いていた。

 今後のプランをあっという間に作成し、四大貴族側を問答無用で呼びつけ、ものの数日で交渉の場──協議会を設けたのだ。

 ラーフルによると、内戦になりかねない緊迫したこの曲面で、わずか数日で協議会を設けるだなんて、普通ならあり得ないとのこと。本来なら数カ月、下手をすると数年もの硬直状態になる場合だってあるという。

 分かっていたことではあるが、ティスリの手腕たるや恐れ入るしかない。

 しかもほとんどティスリ一人がやったからなぁ。各方面の官僚に的確な指示を出しながら、さらに自分の仕事をすべてこなしたのだ。もはやオレには、ティスリが分身しているかのように思えてきた。

 おそらくは、官僚達に指示を出している間も、ティスリの脳内では自身の仕事が進行していて、さらには完成しているんだろう。だからあとは、それを書面に書き起こしているだけ……というわけだ。

 オレなんかは、ちょっとした書類を書くのでも、書きながらウンウンうなるわけだが、ティスリはもはや書く前に内容が出来ているって感じだな。

 オレも何かを手伝ってやりたいところだが、デスクワークとなると何にもすることないし。だからオレは、ティスリの仕事ぶりを脇で眺めているしかないのだった。

 宿泊先のリリィ宅に帰れば、ユイナスが「やることないなら休めばいいじゃない! 観光に付き合ってよ!」と言ってくるのだが、そういうわけにもいかんだろう。護衛だって仕事なんだから。

 まぁティスリに護衛が必要かどうかはともかく。

 などと思っていたら、その日の仕事終わり、執務室でティスリが言ってきた。

「明日は丸一日協議会になりますが、アルデはユイナスさん達の護衛をお願いします」

 協議会──つまりこの反乱の行く末を決める重要な会議なわけだから、敵となった貴族と相対するはずだが……

「いいのか? 敵と対峙するのなら、お前に護衛が必要なんじゃないのか?」

「協議会に護衛は必要ありませんよ。むしろ、わたしの知人を人質に取られるほうがやっかいです」

「なるほど。そういうこともあり得るか……」

「可能性としてはゼロに等しいですが、念のためということです。守護の指輪もありますし、そこまで警戒する必要もありません。あなたも観光を楽しむといいでしょう」

「なるほどな。そういうことなら、あいつらの護衛は任せてくれ」

「ええ、よろしくお願いします」

「殿下」

 話がまとまったところでラーフルが声を上げる。

「具申、よろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

 王城に戻ってからは、ラーフルも、ティスリの傍らにいつもいるのだ。だから、なんかちょっと窮屈でなぁ……

 そのラーフルが、オレのことは視界に入らないとでも言わんばかりの態度でティスリに言った。

「明日の協議会には、ぜひとも自分を同席させて頂けないでしょうか?」

「協議会に? しかし軍人は入れたくないのですが……相手を警戒させることになるので」

「であれば武装解除した上で会議に臨みます。いかがでしょうか?」

「ふむ……」

 ティスリは、いっとき考えた後に答えた。

「あなたの経験にもなるでしょうし……であれば官僚の一人として参席することを許可します」

「ハッ! ありがとうございます!」

 ラーフルは、ティスリに向かって一礼した後、こちらをチラリと見てくる。

 その顔は、どことなく得意げだった。

 う、う~ん……お貴族様って、重要な会議に参加することがステータスなのか?

 まぁいいか。

 なぜか今のオレは、貴族以外に立ち入れないはずの王城の出入りを許されているけど、もちろんお貴族様でもなんでもないわけで。

 さらに言えば、今のオレはティスリの客人って位置づけだ。軍人でも官僚でもなく。あるいはティスリの私兵と言ったところか。

 だから、城内においてオレの立場は曖昧なのだ。

 だいたい、まさかこうして、追放された王城に帰ってくることになるとは夢にも思っていなかったしなぁ。衛士という仕事をクビになったのに、あのころより王城の中枢にいるなんて不思議なもんだ。

 とはいえ、明日はほぼ休暇になったので、城内にいる必要はなくなったわけだが。

「そうしたら、明日はどこにいくかなぁ……」

 衛士時代は王都住まいだったとはいえ、なんだかんだと忙しくて、王都観光なんてしたことなかったのだ。どうせなら珍しいところに行ってみたいな。まぁこの王城以上に珍しい場所なんてないとは思うが。

 そんなことを考えていたら、ティスリが、チラチラとこちらを見てくる。

「ん? どしたティスリ?」

「えっ……!? どうした、とは?」

「いや、こっちを見てくるから、何か気掛かりなことでもあるのかと思って」

「べ、別に気掛かりなことは何もありませんが!?」

「そうか? けど今は非常事態だし、何か気になることが少しでもあるなら言ってくれよ。オレじゃあ気づけないことでも、お前なら気づけるだろうし」

 そう促すと、ティスリは、先ほどまでの凜々しい顔とは打って変わって、なぜか頬を赤らめワタワタとしだす。

 えーと……あの表情は、いったいどういう感情だ?

 オレが首を傾げていると、その間に何かを決意したらしいティスリは、オレからは目を背けながらも言ってきた。

「そ、その……明日は……みんなで観光するんですよね?」

「みんなって……そりゃそうだろ? 護衛も兼ねるんだし」

「で、ですよね……別に、誰か特定の人と観光するわけではないんですよね?」

「それじゃ護衛にならんだろうが」

「ですよね!」

 その質問の意味が分からず、オレは眉をひそめるしかない。

「ならば構いません! 絶対に、誰かと二人っきりになってはいけませんよ!」

「お、おう……分かったよ」

「ではこの話はおしまいです!」

 ようは、全員をしっかり守っていればいいんだよな? ティスリがどうして、そんな念押しをしてきたのかはさっぱり分からないが……

 首を傾げるしかないオレに、どういうわけか、ラーフルが白けた視線を向けてくるのだった……
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