172 / 185
第5章
第5話 白けた視線を向けてくるのだった……
しおりを挟む
アルデ達は、南の島からいったん村に戻り、村を経由して王都へと転移魔法で移動した。
ティスリ曰く、村の外れに、国内各地と繋げた転送ゲートを設置したとのこと。うちの村、そんな設備まで出来ただなんてすげぇな……移動設備としては要塞並みだぞ。
それにしても、魔動車での移動も早かったが、転移魔法はもはや別格だ。ティスリと一緒に地元までやってきた数カ月が一瞬とは恐れ入る。その分、旅路の情緒も何もないから味気ないわけだが。
いずれにしても、王都に戻ってからのティスリはめまぐるしく働いていた。
今後のプランをあっという間に作成し、四大貴族側を問答無用で呼びつけ、ものの数日で交渉の場──協議会を設けたのだ。
ラーフルによると、内戦になりかねない緊迫したこの曲面で、わずか数日で協議会を設けるだなんて、普通ならあり得ないとのこと。本来なら数カ月、下手をすると数年もの硬直状態になる場合だってあるという。
分かっていたことではあるが、ティスリの手腕たるや恐れ入るしかない。
しかもほとんどティスリ一人がやったからなぁ。各方面の官僚に的確な指示を出しながら、さらに自分の仕事をすべてこなしたのだ。もはやオレには、ティスリが分身しているかのように思えてきた。
おそらくは、官僚達に指示を出している間も、ティスリの脳内では自身の仕事が進行していて、さらには完成しているんだろう。だからあとは、それを書面に書き起こしているだけ……というわけだ。
オレなんかは、ちょっとした書類を書くのでも、書きながらウンウンうなるわけだが、ティスリはもはや書く前に内容が出来ているって感じだな。
オレも何かを手伝ってやりたいところだが、デスクワークとなると何にもすることないし。だからオレは、ティスリの仕事ぶりを脇で眺めているしかないのだった。
宿泊先のリリィ宅に帰れば、ユイナスが「やることないなら休めばいいじゃない! 観光に付き合ってよ!」と言ってくるのだが、そういうわけにもいかんだろう。護衛だって仕事なんだから。
まぁティスリに護衛が必要かどうかはともかく。
などと思っていたら、その日の仕事終わり、執務室でティスリが言ってきた。
「明日は丸一日協議会になりますが、アルデはユイナスさん達の護衛をお願いします」
協議会──つまりこの反乱の行く末を決める重要な会議なわけだから、敵となった貴族と相対するはずだが……
「いいのか? 敵と対峙するのなら、お前に護衛が必要なんじゃないのか?」
「協議会に護衛は必要ありませんよ。むしろ、わたしの知人を人質に取られるほうがやっかいです」
「なるほど。そういうこともあり得るか……」
「可能性としてはゼロに等しいですが、念のためということです。守護の指輪もありますし、そこまで警戒する必要もありません。あなたも観光を楽しむといいでしょう」
「なるほどな。そういうことなら、あいつらの護衛は任せてくれ」
「ええ、よろしくお願いします」
「殿下」
話がまとまったところでラーフルが声を上げる。
「具申、よろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
王城に戻ってからは、ラーフルも、ティスリの傍らにいつもいるのだ。だから、なんかちょっと窮屈でなぁ……
そのラーフルが、オレのことは視界に入らないとでも言わんばかりの態度でティスリに言った。
「明日の協議会には、ぜひとも自分を同席させて頂けないでしょうか?」
「協議会に? しかし軍人は入れたくないのですが……相手を警戒させることになるので」
「であれば武装解除した上で会議に臨みます。いかがでしょうか?」
「ふむ……」
ティスリは、いっとき考えた後に答えた。
「あなたの経験にもなるでしょうし……であれば官僚の一人として参席することを許可します」
「ハッ! ありがとうございます!」
ラーフルは、ティスリに向かって一礼した後、こちらをチラリと見てくる。
その顔は、どことなく得意げだった。
う、う~ん……お貴族様って、重要な会議に参加することがステータスなのか?
まぁいいか。
なぜか今のオレは、貴族以外に立ち入れないはずの王城の出入りを許されているけど、もちろんお貴族様でもなんでもないわけで。
さらに言えば、今のオレはティスリの客人って位置づけだ。軍人でも官僚でもなく。あるいはティスリの私兵と言ったところか。
だから、城内においてオレの立場は曖昧なのだ。
だいたい、まさかこうして、追放された王城に帰ってくることになるとは夢にも思っていなかったしなぁ。衛士という仕事をクビになったのに、あのころより王城の中枢にいるなんて不思議なもんだ。
とはいえ、明日はほぼ休暇になったので、城内にいる必要はなくなったわけだが。
「そうしたら、明日はどこにいくかなぁ……」
衛士時代は王都住まいだったとはいえ、なんだかんだと忙しくて、王都観光なんてしたことなかったのだ。どうせなら珍しいところに行ってみたいな。まぁこの王城以上に珍しい場所なんてないとは思うが。
そんなことを考えていたら、ティスリが、チラチラとこちらを見てくる。
「ん? どしたティスリ?」
「えっ……!? どうした、とは?」
「いや、こっちを見てくるから、何か気掛かりなことでもあるのかと思って」
「べ、別に気掛かりなことは何もありませんが!?」
「そうか? けど今は非常事態だし、何か気になることが少しでもあるなら言ってくれよ。オレじゃあ気づけないことでも、お前なら気づけるだろうし」
そう促すと、ティスリは、先ほどまでの凜々しい顔とは打って変わって、なぜか頬を赤らめワタワタとしだす。
えーと……あの表情は、いったいどういう感情だ?
オレが首を傾げていると、その間に何かを決意したらしいティスリは、オレからは目を背けながらも言ってきた。
「そ、その……明日は……みんなで観光するんですよね?」
「みんなって……そりゃそうだろ? 護衛も兼ねるんだし」
「で、ですよね……別に、誰か特定の人と観光するわけではないんですよね?」
「それじゃ護衛にならんだろうが」
「ですよね!」
その質問の意味が分からず、オレは眉をひそめるしかない。
「ならば構いません! 絶対に、誰かと二人っきりになってはいけませんよ!」
「お、おう……分かったよ」
「ではこの話はおしまいです!」
ようは、全員をしっかり守っていればいいんだよな? ティスリがどうして、そんな念押しをしてきたのかはさっぱり分からないが……
首を傾げるしかないオレに、どういうわけか、ラーフルが白けた視線を向けてくるのだった……
ティスリ曰く、村の外れに、国内各地と繋げた転送ゲートを設置したとのこと。うちの村、そんな設備まで出来ただなんてすげぇな……移動設備としては要塞並みだぞ。
それにしても、魔動車での移動も早かったが、転移魔法はもはや別格だ。ティスリと一緒に地元までやってきた数カ月が一瞬とは恐れ入る。その分、旅路の情緒も何もないから味気ないわけだが。
いずれにしても、王都に戻ってからのティスリはめまぐるしく働いていた。
今後のプランをあっという間に作成し、四大貴族側を問答無用で呼びつけ、ものの数日で交渉の場──協議会を設けたのだ。
ラーフルによると、内戦になりかねない緊迫したこの曲面で、わずか数日で協議会を設けるだなんて、普通ならあり得ないとのこと。本来なら数カ月、下手をすると数年もの硬直状態になる場合だってあるという。
分かっていたことではあるが、ティスリの手腕たるや恐れ入るしかない。
しかもほとんどティスリ一人がやったからなぁ。各方面の官僚に的確な指示を出しながら、さらに自分の仕事をすべてこなしたのだ。もはやオレには、ティスリが分身しているかのように思えてきた。
おそらくは、官僚達に指示を出している間も、ティスリの脳内では自身の仕事が進行していて、さらには完成しているんだろう。だからあとは、それを書面に書き起こしているだけ……というわけだ。
オレなんかは、ちょっとした書類を書くのでも、書きながらウンウンうなるわけだが、ティスリはもはや書く前に内容が出来ているって感じだな。
オレも何かを手伝ってやりたいところだが、デスクワークとなると何にもすることないし。だからオレは、ティスリの仕事ぶりを脇で眺めているしかないのだった。
宿泊先のリリィ宅に帰れば、ユイナスが「やることないなら休めばいいじゃない! 観光に付き合ってよ!」と言ってくるのだが、そういうわけにもいかんだろう。護衛だって仕事なんだから。
まぁティスリに護衛が必要かどうかはともかく。
などと思っていたら、その日の仕事終わり、執務室でティスリが言ってきた。
「明日は丸一日協議会になりますが、アルデはユイナスさん達の護衛をお願いします」
協議会──つまりこの反乱の行く末を決める重要な会議なわけだから、敵となった貴族と相対するはずだが……
「いいのか? 敵と対峙するのなら、お前に護衛が必要なんじゃないのか?」
「協議会に護衛は必要ありませんよ。むしろ、わたしの知人を人質に取られるほうがやっかいです」
「なるほど。そういうこともあり得るか……」
「可能性としてはゼロに等しいですが、念のためということです。守護の指輪もありますし、そこまで警戒する必要もありません。あなたも観光を楽しむといいでしょう」
「なるほどな。そういうことなら、あいつらの護衛は任せてくれ」
「ええ、よろしくお願いします」
「殿下」
話がまとまったところでラーフルが声を上げる。
「具申、よろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
王城に戻ってからは、ラーフルも、ティスリの傍らにいつもいるのだ。だから、なんかちょっと窮屈でなぁ……
そのラーフルが、オレのことは視界に入らないとでも言わんばかりの態度でティスリに言った。
「明日の協議会には、ぜひとも自分を同席させて頂けないでしょうか?」
「協議会に? しかし軍人は入れたくないのですが……相手を警戒させることになるので」
「であれば武装解除した上で会議に臨みます。いかがでしょうか?」
「ふむ……」
ティスリは、いっとき考えた後に答えた。
「あなたの経験にもなるでしょうし……であれば官僚の一人として参席することを許可します」
「ハッ! ありがとうございます!」
ラーフルは、ティスリに向かって一礼した後、こちらをチラリと見てくる。
その顔は、どことなく得意げだった。
う、う~ん……お貴族様って、重要な会議に参加することがステータスなのか?
まぁいいか。
なぜか今のオレは、貴族以外に立ち入れないはずの王城の出入りを許されているけど、もちろんお貴族様でもなんでもないわけで。
さらに言えば、今のオレはティスリの客人って位置づけだ。軍人でも官僚でもなく。あるいはティスリの私兵と言ったところか。
だから、城内においてオレの立場は曖昧なのだ。
だいたい、まさかこうして、追放された王城に帰ってくることになるとは夢にも思っていなかったしなぁ。衛士という仕事をクビになったのに、あのころより王城の中枢にいるなんて不思議なもんだ。
とはいえ、明日はほぼ休暇になったので、城内にいる必要はなくなったわけだが。
「そうしたら、明日はどこにいくかなぁ……」
衛士時代は王都住まいだったとはいえ、なんだかんだと忙しくて、王都観光なんてしたことなかったのだ。どうせなら珍しいところに行ってみたいな。まぁこの王城以上に珍しい場所なんてないとは思うが。
そんなことを考えていたら、ティスリが、チラチラとこちらを見てくる。
「ん? どしたティスリ?」
「えっ……!? どうした、とは?」
「いや、こっちを見てくるから、何か気掛かりなことでもあるのかと思って」
「べ、別に気掛かりなことは何もありませんが!?」
「そうか? けど今は非常事態だし、何か気になることが少しでもあるなら言ってくれよ。オレじゃあ気づけないことでも、お前なら気づけるだろうし」
そう促すと、ティスリは、先ほどまでの凜々しい顔とは打って変わって、なぜか頬を赤らめワタワタとしだす。
えーと……あの表情は、いったいどういう感情だ?
オレが首を傾げていると、その間に何かを決意したらしいティスリは、オレからは目を背けながらも言ってきた。
「そ、その……明日は……みんなで観光するんですよね?」
「みんなって……そりゃそうだろ? 護衛も兼ねるんだし」
「で、ですよね……別に、誰か特定の人と観光するわけではないんですよね?」
「それじゃ護衛にならんだろうが」
「ですよね!」
その質問の意味が分からず、オレは眉をひそめるしかない。
「ならば構いません! 絶対に、誰かと二人っきりになってはいけませんよ!」
「お、おう……分かったよ」
「ではこの話はおしまいです!」
ようは、全員をしっかり守っていればいいんだよな? ティスリがどうして、そんな念押しをしてきたのかはさっぱり分からないが……
首を傾げるしかないオレに、どういうわけか、ラーフルが白けた視線を向けてくるのだった……
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる