上 下
156 / 185
第4章

第34話 無言の圧力を受けているのだ……!

しおりを挟む
 海のバカンス三日目。今日のアルデオレ達は、別荘のある島から移動して、平民も住む近隣の島へとやってきていた。こちらのほうが本島ということで、結構な住民がいるようだ。その人口はうちの村より断然多いらしい。

 普通なら船で数時間はかかるそうだが、ティスリの魔法で文字通りひとっ飛びだった。ユイナス、ミア、ナーヴィンがそれぞれ度肝を抜かれていたが。

 そうして到着した島では、ものすっごい密林を木舟カヤックで見て回る遊びがあるそうで、オレ達はそれを楽しんだ。

 昨日のシュノーケリングといい、お貴族様はほんといろんな遊びを考えるもんだ。オレたち平民が海に潜ったり森に入ったりするときは、漁か狩りであくまでも仕事だから、それを遊びにするなんて思いつきもしないだろうな。

 そんなわけで基本的には楽しく過ごしているのだが──

「い、いやぁ、凄かったなティスリ。オレ達の村にも森はあるが、ぜんぜん種類が違くて迫力満点だったな!」

「………………ソーデスネ」

 ──ティスリの機嫌は、今日もすこぶる斜めだった。

 いや昨夜、水着の件で意味不明な揉め方をしたから、今日のティスリは機嫌が悪いことは覚悟していた。

 だけど今朝、なぜかティスリは上機嫌だったのだ。

 ほんと、どうしてなのかはまるで分からなかったんだが、とにかく機嫌が直ったならそれでいいかと、オレは胸を撫で下ろしながらカヤックツアーなるものを楽しんでいたのだが……

 ふと気づけば、ティスリの機嫌は再び悪化していた。乱高下が激し過ぎんか……?

 ただこれに関しては、明確に思い当たる節がある。

 まず、今日は水着を着ていないから今回は関係ない。

 つぎに、相変わらずオレはユイナスに掛かりっきりだが、ティスリは、ユイナスに関してはとても寛容なのでそこも問題ない。

 ということで問題なのは……ミアなのだ。

「ほんと、カヤックツアーは凄かったよね、アルデ。わたしもう、一生分の遊びを経験しちゃったかも」

「ちょっとミア! お兄ちゃんと話してるんじゃないわよ!?」

「ええ……? お話するくらい、いいじゃない」

「あと距離! 距離が近すぎ!!」

「そんなことないよ?」

「ありすぎなのよ!」

 と、こんな感じで……

 どういうわけか、今日はミアがオレから離れない……!

 だからユイナスが怒り心頭なのは当然として、後ろを歩くティスリからも無言の圧力を受けているのだ……!

 カヤックツアーのときだって、誰と乗るかでちょっと揉めたし。カヤックは二人乗りだったから、ユイナスがオレと乗ると言い出すことは、付き合いの長いミアなら分かっているはずなのだが……

 どうしてか、ミアはオレと乗ることを譲らなかった。

 だから最終的にはじゃんけんになって、オレはナーヴィンと乗る羽目になったが。

 そうして今は、そのカヤックツアーも終わって、リリィの本島宅に向かっているのだが……

 オレの右側にはユイナスがひっついて、左側はミアが歩いていた……手でも繋がんばかりの距離感で。

 そんなミアに、ユイナスが文句を言いまくっている。

「とにかくお兄ちゃんから離れなさいよ!」

「離れてるってば」

「どこがよ!? っていうかなんなのあんた! 昨日までは大人しかったってのに、今日は一体どういうつもりよ!」

「だって、旅行に来てからずっとユイナスちゃんがアルデを独占してるじゃない。そろそろよくない?」

「よくないわよ! お兄ちゃんはわたしのものなんだから!!」

「なんでオレがお前のものなんだよ。ってか二人ともちょっと離れてくれ……!」

 という感じでオレが仲裁に入ることは、一度や二度じゃなくなっていた。

 すると後ろからナーヴィンが言ってくる。

「くそーーー! なんでアルデばっかり! ティスリさん、あんなヤツは見捨てませんか!?」

「ソーデスネ。見捨てられても文句はイエマセンネ」

 おいナーヴィン! ティスリを煽るな!?

 と言ってやりたいが、オレが抗議したら間違いなくティスリの機嫌が崩壊するので、オレはぐっと堪える。

 そんなことを考えていたら──服の裾がちょいっと引っ張られた。

 少しだけ離れたミアだったが、なぜかオレの服をつまんでいる。

 えっと……これはどういう……

 目が合うと、ミアは恥ずかしそうに視線を逸らして──

 ──またぞろユイナスが喚き立てる。

「ちょっとユイナス!? お兄ちゃんの服を掴むな!」

「あ、バレた?」

「バレるに決まってるでしょ!!」

 くそ暑いというのに、ユイナスはますます熱くなっていた。

 はぁ……この状況、いったいどうしたものかと思っていたら、ユイナスが振り向いてリリィを呼んだ。

「ちょっとリリィ!」

「な、なんですの……!?」

 不思議なことに今日は大人しいリリィだったが、まるでユイナスにビビっているかのような感じでワタワタしている。大貴族様だというのに、なんでだ?

「こっち来なさい!」

「ど、どうしてですか!?」

「いいから! あ、ミア! わたしがいない間にお兄ちゃんに手を出したら許さないからね!?」

 などと言いながら、ユイナスはリリィを引っ張って反対側の歩道にいってしまう。何か聞かれたくない話でもあるのだろうか。

「アルデ……」

 するとミアがオレに声を掛けてくる。

「これ、あとで読んで」

「え……?」

 そうしてミアは、さっと、オレにメモ書きを手渡す。その後はすぐに離れてくれた。

 その内容は気になるが……しかし背後からティスリの視線をヒシヒシと感じるので、オレは、そのメモ履きを素早くポケットにしまった。

 角度的にティスリには見えていないはずだが……内心ヒヤヒヤするしかないオレだった。

 っていうかオレ、なんでこんなに焦ってるんだ……!? 悪いことなんて何もしていないのに……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

別に構いませんよ、予想通りの婚約破棄ですので。

ララ
恋愛
告げられた婚約破棄に私は淡々と応じる。 だって、全て私の予想通りですもの。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

処理中です...