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第4章
第1話 二日酔いよりは心の傷のほうが大きいかもしんない
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アルデたち五人による飲み会が終わり、その翌日。
昼飯時になっても、ティスリは二階の自室から降りてくることはなかった。
「ティスリさん、大丈夫かしら……?」
リビングに昼食を運びながらアサーニがつぶやく。隣で食器を運んでいたオレはそのつぶやきに答えた。
「いつもなら、昼くらいには多少なりとも回復しているはずなんだけど。でも昨日は、普段よりたくさん呑んでたからなぁ……」
飲酒魔法が悪い方向に作用して、昨晩のティスリは、飲み会終盤まで寝落ちすることなく、かつお酒を大量に呑んでいた。量だけで言えば、オレよりぜんぜん多かったのだ。
だから回復魔法を使ったとしても、まだ二日酔いで苦しんでいるのだろう。
っていうか今回の場合、二日酔いよりは心の傷のほうが大きいかもしんないが。
そんなわけで、あのティスリに、致命傷を与えたかもしれない我が妹・ユイナスは──まぁ昨日に限って言えばユイナスは悪くないが──リビングテーブルに食器を並べながら吐き捨てる。
「あんな女、もういなくなればいいのよ……!」
すると同じく食事の準備を手伝っていたガットに、ユイナスが窘められる。
「これユイナス。お世話になっている人に、そんなことを言ってはいけないよ」
「だって! 昨日はわたし、すっごく迷惑したんだから!」
「お酒の席の、ちょっとしたおふざけだったんだろう?」
「おふざけで、人の頭を撫で繰り回す普通!?」
「撫でられるくらい、別にいいじゃないか」
「よくないわよ!」
一晩経っても、どうやらユイナスの怒りは収まらないらしい。
ティスリが泥酔してからは、ユイナスは激しく絡まれていたからなぁ。
しかも武芸にも秀でているティスリが、ユイナスの体を絶妙にホールドしているものだから、ユイナスはまったくもって逃げられなかった。
酔っ払っていても、身につけた技術とかはまるで支障ないんだよな、ティスリのヤツ。これも天才の性なのだろうか?
そうしてユイナスは抱きつかれたまま、頭を「よしよしよしよし……!」されたり、「ユイナスちゃん、かわいいでちゅね~」と言われたり、「ああもぅ、辛抱堪りません! キスしちゃおうかしら!?」などとティスリが叫んだときは、いよいよマズイと思ってオレも止めたが。
もうその頃には、ユイナスは疲労困憊の上、文句の一言も言えなくなっていた。
「思い出しただけでも身の毛がよだつのよあの女!」
ということでユイナスは、未だに怒り心頭だった。
まぁオレも、もうちょっと早く止めておけばよかったかな~、なんて今さらながらに思ったりもしたが、ぶっちゃけ、面倒だったし。
そもそもオレはオレで、ミアに対して、誤解を解くのに必死だったんだ。しかも最終的に、誤解が解けたのかはかなり微妙な感じで飲み会は幕を閉じたし……
いつの間にか高いびきをかいていたナーヴィンが羨ましかったよ、まったく。
オレが昨夜の惨状を振り返っていたら、母さんが言ってきた。
「ねぇアルデ。ティスリさんの様子をちょっと見てきてくれないかしら?」
「そうだなぁ……」
オレは天井を見上げながらいっとき考える。
本来なら、男のオレが女性の部屋に入るのはNGだと思うが、まぁ今さらだし、ユイナスを行かせられるはずもないし、母さんを向かわせたらティスリのほうが気を使ってしまうだろう。
だから母さんもオレに声を掛けてきたんだろうし。
今はまだ、そっとしておいたほうがいい気もするけど。
とはいえ、本気で体調を崩していたら、それはそれでまずい。
「…………仕方がない、分かったよ」
ということでオレは、ティスリの部屋に向かうのだった。
昼飯時になっても、ティスリは二階の自室から降りてくることはなかった。
「ティスリさん、大丈夫かしら……?」
リビングに昼食を運びながらアサーニがつぶやく。隣で食器を運んでいたオレはそのつぶやきに答えた。
「いつもなら、昼くらいには多少なりとも回復しているはずなんだけど。でも昨日は、普段よりたくさん呑んでたからなぁ……」
飲酒魔法が悪い方向に作用して、昨晩のティスリは、飲み会終盤まで寝落ちすることなく、かつお酒を大量に呑んでいた。量だけで言えば、オレよりぜんぜん多かったのだ。
だから回復魔法を使ったとしても、まだ二日酔いで苦しんでいるのだろう。
っていうか今回の場合、二日酔いよりは心の傷のほうが大きいかもしんないが。
そんなわけで、あのティスリに、致命傷を与えたかもしれない我が妹・ユイナスは──まぁ昨日に限って言えばユイナスは悪くないが──リビングテーブルに食器を並べながら吐き捨てる。
「あんな女、もういなくなればいいのよ……!」
すると同じく食事の準備を手伝っていたガットに、ユイナスが窘められる。
「これユイナス。お世話になっている人に、そんなことを言ってはいけないよ」
「だって! 昨日はわたし、すっごく迷惑したんだから!」
「お酒の席の、ちょっとしたおふざけだったんだろう?」
「おふざけで、人の頭を撫で繰り回す普通!?」
「撫でられるくらい、別にいいじゃないか」
「よくないわよ!」
一晩経っても、どうやらユイナスの怒りは収まらないらしい。
ティスリが泥酔してからは、ユイナスは激しく絡まれていたからなぁ。
しかも武芸にも秀でているティスリが、ユイナスの体を絶妙にホールドしているものだから、ユイナスはまったくもって逃げられなかった。
酔っ払っていても、身につけた技術とかはまるで支障ないんだよな、ティスリのヤツ。これも天才の性なのだろうか?
そうしてユイナスは抱きつかれたまま、頭を「よしよしよしよし……!」されたり、「ユイナスちゃん、かわいいでちゅね~」と言われたり、「ああもぅ、辛抱堪りません! キスしちゃおうかしら!?」などとティスリが叫んだときは、いよいよマズイと思ってオレも止めたが。
もうその頃には、ユイナスは疲労困憊の上、文句の一言も言えなくなっていた。
「思い出しただけでも身の毛がよだつのよあの女!」
ということでユイナスは、未だに怒り心頭だった。
まぁオレも、もうちょっと早く止めておけばよかったかな~、なんて今さらながらに思ったりもしたが、ぶっちゃけ、面倒だったし。
そもそもオレはオレで、ミアに対して、誤解を解くのに必死だったんだ。しかも最終的に、誤解が解けたのかはかなり微妙な感じで飲み会は幕を閉じたし……
いつの間にか高いびきをかいていたナーヴィンが羨ましかったよ、まったく。
オレが昨夜の惨状を振り返っていたら、母さんが言ってきた。
「ねぇアルデ。ティスリさんの様子をちょっと見てきてくれないかしら?」
「そうだなぁ……」
オレは天井を見上げながらいっとき考える。
本来なら、男のオレが女性の部屋に入るのはNGだと思うが、まぁ今さらだし、ユイナスを行かせられるはずもないし、母さんを向かわせたらティスリのほうが気を使ってしまうだろう。
だから母さんもオレに声を掛けてきたんだろうし。
今はまだ、そっとしておいたほうがいい気もするけど。
とはいえ、本気で体調を崩していたら、それはそれでまずい。
「…………仕方がない、分かったよ」
ということでオレは、ティスリの部屋に向かうのだった。
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