上 下
2 / 216
第1章

第2話 あなた、本当にそれでいいのかしら?

しおりを挟む
「え? 今なんとおっしゃいましたか?」

「聞こえなかったのか? お前は追放クビだと言ったんだよ」

「はぁ……!?」

 王城裏門に呼びつけられたと思ったら、アルデオレは、先輩の衛兵数人に取り囲まれていた。

 そうして彼らが開口一番に放った言葉が追放クビである。

 常日頃、彼らには何かと嫌がらせを受けてはいたが、努力に努力を重ねて、やっとの思いで就けた王城勤務。先輩たちの身勝手で、追放なんてされるわけにはいかなかった。

 オレのクニには、病気がちな両親と、腹を空かせた妹と、愛くるしいわんこがいる。ここで職を失ったら、家族に仕送りをすることができなくなるのだ。

「な、なぜです!? オレは追放になるような失敗をした覚えはありませんよ!?」

 そもそも彼らに、オレを追放するような権限はないはずだ。だからオレは食い下がるも、しかし先輩の一人がニヤニヤしながら書面を広げた。

「そ、それは……!」

 正式な辞令の書面だった。

 しかもそこに『アルデ・ラーマを追放に処す』と書かれている。

 つまりオレの追放は決定済みだった。

「ど、どうしてですか! いったい何を理由に追放だというのです!?」

 先輩は、引き続きのニヤケ顔で言ってくる。

「どうしても何も、この神聖な王城に、平民無勢であるお前が立ち入っていること自体、間違いだったんだよ」

 この先輩達は、全員が地方貴族の出である。だから、平民出身のオレと同じ仕事をするのが我慢ならなかったのだろう。これまでにも再三に渡り嫌がらせを受けていた理由も同じだ。

 しかし──稀代の天才と謳われている王女殿下の発案により、衛士という仕事は、実力があるなら身分を問わず召し上げられることになったはずだ。だからこそオレは死ヌ気でがんばって勉強と訓練に励み、衛士試験に合格したのだ。

 だからオレは抵抗を試みる。

「オレがこの場にいることが間違いだというのは、王女殿下が間違っていると言っているのも同義ですよ!?」

「はぁ? 何をほざいてやがる」

「優秀な平民を召し上げるのは王女殿下の意向であるはずだ! それを間違いなどと言うのなら不敬罪にも値する!」

「くくく……バカかお前は」

 オレのその主張に、しかし先輩達は臆することなく言ってくる。

「だれも王女殿下の批判なんてしていないだろう? お前がこの場にいること自体が間違いだと言っているんだよ、なぜなら無能だからだ」

「今さっき、平民無勢といいましたよね!?」

「はて? そんなこと言ったっけ?」

 先輩の一人がわざとらしく肩をすくめると、周囲の面子に視線を送る。

「言ってねぇよなぁ?」

「ああ、オレも聞いてないぞ」

「きっとあの馬鹿が勘違いしてんだろ」

「っていうか、王女殿下批判をしているのはアイツだよなぁ?」

「そうだな。殿下の施策を間違いだと今言っていたな」

 ……くっ! 話にならない!

 どうせここで押し問答していても、もはや意味はないだろう。そもそも、正式な通知書が発行された時点で、オレの負けは確定なのだ。

 一体どうやって書類を発行したのかは知らないが……きっと、ないことばかりをでっち上げて上官の了承を得たのだろう。

 そんな先輩達は、終始ニヤつきながら言ってくる。

「さぁてアルデよ、どうする? お前はもう衛士でも何でもないわけだから、まだこの場にとどまろうとするなら逮捕せざるをえないぞ?」

「…………!」

 もしもこの場に、超優秀だと言われている王女殿下が居合わせてくれたなら話はまったく変わるだろうが、そんなはずがあるわけない。先輩達も含めたオレたち下っ端は、王女殿下のお姿すら目にしたことがないのだから。

 特にこの国の王女殿下は、人前に姿を現さないことで有名だ。まぁ確かに、わずか16歳で国政を取り仕切るほどだから、身バレしたら暗殺やら何やらで大変に物騒なのだろう。

 いずれにしても、だ。

 王女が助けてくれるなんて、そんなありもしない妄想に取り付かれるほどにオレは切羽詰まっていた。

 しかし反撃の糸口は見つけられない。拳を握りしめるしかなかった。

「わ……分かりました……」

 ここで引き下がらないのなら、この先輩達なら本当にオレを逮捕するだろう。

 職を失った上に冤罪にまでなったら、もはや仕送りの心配をするどころではない。

「今まで……お世話になりました……!」

 そういって、オレは奴らに背を向ける。

 背後から、ゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。

 オレは悔しさに身を震わせながらも、王城裏門を後にする。

「あなた、本当にそれでいいのですか?」

 すると唐突に、横から声が聞こえてきた。

 王城裏門付近は広大な裏庭になっているのだが……

 声の主は、裏庭に生える木々の陰に隠れていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...