18 / 57
第十八話 思わぬ転機
しおりを挟む
千弦は紛れもなく小平太に興味を示していた。
「我ら鏡を継ぐ者には、特別な霊力がありましてな。その一つに相手の素性や能力がある程度見えるのだが、小平太殿には未だかつて見た事の無い凄まじい気が見えるゆえ、一体どのようなお人なのか気になりましてな」
岡本彦左衛門の言葉通り、小平太も縁を感じていた。水沢村でのすずとの出会いに始まり、忍びの弥平から預かった勾玉、そして藤十郎との出会い、それら全てが繋がっていたのだ。故に小平太は己の身に起きた事の全てを語ったのである。
「小平太様も大変だったんだな……」
「では、何れ隠し里を離れると?」
「生き残りと共に新たな郷をつくるが使命にて」
千弦は少し考えた後、目を輝かせて小平太を見た。
「ならば小平太殿、此処に郷を築き大厄災の加勢願えまいか」
「なんと……」
「かつてこの地にも大沢と言う地がございましてな、これも縁と言うもの。小平太殿が居れば我々も、それにすず殿も心強い」
大沢の郷を築くと言う途轍もなく重大な使命が、あっさりと叶った事に感心するばかりである。
「小平太様が一緒ならおら安心だで!」
「願っても無い事、誠によろしいのでしょうか」
「勿論。しかし目を疑う程の手練れが十八名、その一人が小平太殿であったのだな」
「我ら大沢の忍びは全員が目を疑う程の手練れにございます。ましてや戦の生き残りとなれば、恐らくは郷でも精鋭の者達の筈、恐らくはその人数満たせましょう
「なんと……誠、自然と叶ったようだ」
話の流れに藤十郎は瞬きを繰り返しつつ、半ば固まっていた。
「しかし驚いたな、次から次に想像さえしない出来事の連発……夢でも見ているようだ……」
「岡本様と小笠原様にはその旨、早馬で知らせよう」
「有難き」
「返答まで少なくとも二日は掛かろう、藤十郎殿二人の住まいを頼めるかな」
「お任せを」
千弦が書状を書き早馬を出せば、三人は社を後にした。その足で彦左衛門の屋敷へ報告に上がれば、満面の笑みで迎え入れられたところである。
「誠、縁であったな」
「岡本様の仰せの通りにございました」
すずは次初めて見る立派な武家屋敷に、目を白黒させて周囲を眺め感心していた。
「千弦様の願い故、御屋形様も一つ返事に違いない」
「有難き事にございます」
「しかし、そなたたちは小笠原でも、この儂の配下でもない、千弦様の直属となる。が、まぁ住まいはこの地だ、何か不便があればいつでも申すが良い」
「はっ」
「して、娘よ。すずと申したな」
「だっ! あだ、あだ、そうでねえ……えぇと、そのなんだ……どうすんだこれ」
言葉を選ぶも何も出てこない為、一通り慌てふためいた後に諦めて、深々と頭を下げていた。
「良い良い。気を遣わずとも良いぞ、ところでこの度は重大な役目と相成ったな」
「んだ、おらまだ信じられ! ……、……ねえ……だで……ござまいした」
うっかり普段の言葉使いで返答してしまったが、途中で気づいたのだろう、可笑しな言葉使いとなっていた。そのやり取りに一瞬吹き出しそうになった藤十郎だが、どうやら紙一重で持ち応えたようである。
「おすず、ござまいしたではなく、ございましただ」
「だっ! ……ご、ござま……、……ござい? ました?」
「うむ」
「……、……すまぬが日の本の為、力を貸して貰うぞ」
「あ、ありがたき事、その……お、岡本様のおおおおせの、おとりだで、で誠に頑張るだよに、ござま……ちが……ございましただで……ふぅ」
やり切った感が全身から滲み出ていた。先ほどの小平太の丁寧な言葉を思い出し、それを駆使しつつ岡本彦左衛門と相対している姿は、中々の見ごたえと言えよう。
「ぶっ! 御免!」
藤十郎はいよいよ耐え切れず、その場に吹き出せば顔を伏せ肩を揺らしていた。
屋敷を後にして藤十郎の家へと戻れば琴が三人を出迎えた所である。
「光の原因は解りましたか?」
「お琴それどころでは無い、凄い事になったぞ。何から話せば良いのか、そうだな順を追おう、すまぬが湯を入れてくれ」
藤十郎が順を追って説明すれば時には大層驚き、また腹を抱えて笑い、真に迫れば真剣にそれを聞いていた。
「でもなんだで、おら変な気分だな。悲しいやら、寂しいやら……なんだでこれ」
「どうした?」
「小平太様さ大厄災が終わった後も此処で皆と暮らすだども、おらは水沢さ帰るだ」
「なんだ帰りたくないのか?」
「勿論帰りてえだども、なんだでな、帰りたくねえ気もするだよ、なんだでこれ、わかんね」
「では、此処に父を呼べば良いのではないか?」
「だ!」
「しかし了承するとは限らんぞ、何せ知らぬ土地だからな」
「んだな、おとう頑固なとこあるだで」
翌日には小笠原からも返答があり、小平太が率いる大沢の忍びは千弦が直属の扱いとして許された。住居は岡本の与かるこの地とし、人数が判明次第早急に建築を始めると言う。
小平太は藤十郎と共に岡本の屋敷と社殿へと伺い挨拶を済ませると、藤十郎が用意した馬にすずと共に乗り、東山道を目指したのであった。
小平太の籠には彦左衛門の計らいで食料が満たされ、すずが担ぐ棒には洗ったばかりの藍色の着物と腰巻が干されていた。
「なんだ出立だと言うのに着物を洗ったのか?」
「……んだ」
すずは返答に困っているようだが、寝小便をしたなど余計な事を小平太が言う事は無い。昨日緊張のあまり水ばかり飲んでいた上に、心労が重なった事が原因であろう。寝起きのやってしまったと言わんばかりのあの顔を思い出せば、口元が緩むばかりである。
「我ら鏡を継ぐ者には、特別な霊力がありましてな。その一つに相手の素性や能力がある程度見えるのだが、小平太殿には未だかつて見た事の無い凄まじい気が見えるゆえ、一体どのようなお人なのか気になりましてな」
岡本彦左衛門の言葉通り、小平太も縁を感じていた。水沢村でのすずとの出会いに始まり、忍びの弥平から預かった勾玉、そして藤十郎との出会い、それら全てが繋がっていたのだ。故に小平太は己の身に起きた事の全てを語ったのである。
「小平太様も大変だったんだな……」
「では、何れ隠し里を離れると?」
「生き残りと共に新たな郷をつくるが使命にて」
千弦は少し考えた後、目を輝かせて小平太を見た。
「ならば小平太殿、此処に郷を築き大厄災の加勢願えまいか」
「なんと……」
「かつてこの地にも大沢と言う地がございましてな、これも縁と言うもの。小平太殿が居れば我々も、それにすず殿も心強い」
大沢の郷を築くと言う途轍もなく重大な使命が、あっさりと叶った事に感心するばかりである。
「小平太様が一緒ならおら安心だで!」
「願っても無い事、誠によろしいのでしょうか」
「勿論。しかし目を疑う程の手練れが十八名、その一人が小平太殿であったのだな」
「我ら大沢の忍びは全員が目を疑う程の手練れにございます。ましてや戦の生き残りとなれば、恐らくは郷でも精鋭の者達の筈、恐らくはその人数満たせましょう
「なんと……誠、自然と叶ったようだ」
話の流れに藤十郎は瞬きを繰り返しつつ、半ば固まっていた。
「しかし驚いたな、次から次に想像さえしない出来事の連発……夢でも見ているようだ……」
「岡本様と小笠原様にはその旨、早馬で知らせよう」
「有難き」
「返答まで少なくとも二日は掛かろう、藤十郎殿二人の住まいを頼めるかな」
「お任せを」
千弦が書状を書き早馬を出せば、三人は社を後にした。その足で彦左衛門の屋敷へ報告に上がれば、満面の笑みで迎え入れられたところである。
「誠、縁であったな」
「岡本様の仰せの通りにございました」
すずは次初めて見る立派な武家屋敷に、目を白黒させて周囲を眺め感心していた。
「千弦様の願い故、御屋形様も一つ返事に違いない」
「有難き事にございます」
「しかし、そなたたちは小笠原でも、この儂の配下でもない、千弦様の直属となる。が、まぁ住まいはこの地だ、何か不便があればいつでも申すが良い」
「はっ」
「して、娘よ。すずと申したな」
「だっ! あだ、あだ、そうでねえ……えぇと、そのなんだ……どうすんだこれ」
言葉を選ぶも何も出てこない為、一通り慌てふためいた後に諦めて、深々と頭を下げていた。
「良い良い。気を遣わずとも良いぞ、ところでこの度は重大な役目と相成ったな」
「んだ、おらまだ信じられ! ……、……ねえ……だで……ござまいした」
うっかり普段の言葉使いで返答してしまったが、途中で気づいたのだろう、可笑しな言葉使いとなっていた。そのやり取りに一瞬吹き出しそうになった藤十郎だが、どうやら紙一重で持ち応えたようである。
「おすず、ござまいしたではなく、ございましただ」
「だっ! ……ご、ござま……、……ござい? ました?」
「うむ」
「……、……すまぬが日の本の為、力を貸して貰うぞ」
「あ、ありがたき事、その……お、岡本様のおおおおせの、おとりだで、で誠に頑張るだよに、ござま……ちが……ございましただで……ふぅ」
やり切った感が全身から滲み出ていた。先ほどの小平太の丁寧な言葉を思い出し、それを駆使しつつ岡本彦左衛門と相対している姿は、中々の見ごたえと言えよう。
「ぶっ! 御免!」
藤十郎はいよいよ耐え切れず、その場に吹き出せば顔を伏せ肩を揺らしていた。
屋敷を後にして藤十郎の家へと戻れば琴が三人を出迎えた所である。
「光の原因は解りましたか?」
「お琴それどころでは無い、凄い事になったぞ。何から話せば良いのか、そうだな順を追おう、すまぬが湯を入れてくれ」
藤十郎が順を追って説明すれば時には大層驚き、また腹を抱えて笑い、真に迫れば真剣にそれを聞いていた。
「でもなんだで、おら変な気分だな。悲しいやら、寂しいやら……なんだでこれ」
「どうした?」
「小平太様さ大厄災が終わった後も此処で皆と暮らすだども、おらは水沢さ帰るだ」
「なんだ帰りたくないのか?」
「勿論帰りてえだども、なんだでな、帰りたくねえ気もするだよ、なんだでこれ、わかんね」
「では、此処に父を呼べば良いのではないか?」
「だ!」
「しかし了承するとは限らんぞ、何せ知らぬ土地だからな」
「んだな、おとう頑固なとこあるだで」
翌日には小笠原からも返答があり、小平太が率いる大沢の忍びは千弦が直属の扱いとして許された。住居は岡本の与かるこの地とし、人数が判明次第早急に建築を始めると言う。
小平太は藤十郎と共に岡本の屋敷と社殿へと伺い挨拶を済ませると、藤十郎が用意した馬にすずと共に乗り、東山道を目指したのであった。
小平太の籠には彦左衛門の計らいで食料が満たされ、すずが担ぐ棒には洗ったばかりの藍色の着物と腰巻が干されていた。
「なんだ出立だと言うのに着物を洗ったのか?」
「……んだ」
すずは返答に困っているようだが、寝小便をしたなど余計な事を小平太が言う事は無い。昨日緊張のあまり水ばかり飲んでいた上に、心労が重なった事が原因であろう。寝起きのやってしまったと言わんばかりのあの顔を思い出せば、口元が緩むばかりである。
2
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる