鏡の守り人

雨替流

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第十八話 思わぬ転機

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 千弦は紛れもなく小平太に興味を示していた。

「我ら鏡を継ぐ者には、特別な霊力がありましてな。その一つに相手の素性や能力がある程度見えるのだが、小平太殿には未だかつて見た事の無い凄まじい気が見えるゆえ、一体どのようなお人なのか気になりましてな」

 岡本彦左衛門の言葉通り、小平太も縁を感じていた。水沢村でのすずとの出会いに始まり、忍びの弥平から預かった勾玉、そして藤十郎との出会い、それら全てが繋がっていたのだ。故に小平太は己の身に起きた事の全てを語ったのである。

「小平太様も大変だったんだな……」
「では、何れ隠し里を離れると?」
「生き残りと共に新たな郷をつくるが使命にて」

 千弦は少し考えた後、目を輝かせて小平太を見た。

「ならば小平太殿、此処に郷を築き大厄災の加勢願えまいか」
「なんと……」
「かつてこの地にも大沢と言う地がございましてな、これも縁と言うもの。小平太殿が居れば我々も、それにすず殿も心強い」

 大沢の郷を築くと言う途轍もなく重大な使命が、あっさりと叶った事に感心するばかりである。

「小平太様が一緒ならおら安心だで!」
「願っても無い事、誠によろしいのでしょうか」
「勿論。しかし目を疑う程の手練れが十八名、その一人が小平太殿であったのだな」
「我ら大沢の忍びは全員が目を疑う程の手練れにございます。ましてや戦の生き残りとなれば、恐らくは郷でも精鋭の者達の筈、恐らくはその人数満たせましょう
「なんと……誠、自然と叶ったようだ」

 話の流れに藤十郎は瞬きを繰り返しつつ、半ば固まっていた。

「しかし驚いたな、次から次に想像さえしない出来事の連発……夢でも見ているようだ……」
「岡本様と小笠原様にはその旨、早馬で知らせよう」
「有難き」
「返答まで少なくとも二日は掛かろう、藤十郎殿二人の住まいを頼めるかな」
「お任せを」

 千弦が書状を書き早馬を出せば、三人は社を後にした。その足で彦左衛門の屋敷へ報告に上がれば、満面の笑みで迎え入れられたところである。

「誠、縁であったな」
「岡本様の仰せの通りにございました」

 すずは次初めて見る立派な武家屋敷に、目を白黒させて周囲を眺め感心していた。

「千弦様の願い故、御屋形様も一つ返事に違いない」
「有難き事にございます」
「しかし、そなたたちは小笠原でも、この儂の配下でもない、千弦様の直属となる。が、まぁ住まいはこの地だ、何か不便があればいつでも申すが良い」
「はっ」
「して、娘よ。すずと申したな」
「だっ! あだ、あだ、そうでねえ……えぇと、そのなんだ……どうすんだこれ」

 言葉を選ぶも何も出てこない為、一通り慌てふためいた後に諦めて、深々と頭を下げていた。

「良い良い。気を遣わずとも良いぞ、ところでこの度は重大な役目と相成ったな」
「んだ、おらまだ信じられ! ……、……ねえ……だで……ござまいした」

 うっかり普段の言葉使いで返答してしまったが、途中で気づいたのだろう、可笑しな言葉使いとなっていた。そのやり取りに一瞬吹き出しそうになった藤十郎だが、どうやら紙一重で持ち応えたようである。

「おすず、ござまいしたではなく、
「だっ! ……ご、ござま……、……ござい? ました?」
「うむ」
「……、……すまぬが日の本の為、力を貸して貰うぞ」
「あ、ありがたき事、その……お、岡本様のおおおおせの、おとりだで、で誠に頑張るだよに、ござま……ちが……ございましただで……ふぅ」

 やり切った感が全身から滲み出ていた。先ほどの小平太の丁寧な言葉を思い出し、それを駆使しつつ岡本彦左衛門と相対している姿は、中々の見ごたえと言えよう。

「ぶっ! 御免!」

 藤十郎はいよいよ耐え切れず、その場に吹き出せば顔を伏せ肩を揺らしていた。

 屋敷を後にして藤十郎の家へと戻れば琴が三人を出迎えた所である。

「光の原因は解りましたか?」
「お琴それどころでは無い、凄い事になったぞ。何から話せば良いのか、そうだな順を追おう、すまぬが湯を入れてくれ」

 藤十郎が順を追って説明すれば時には大層驚き、また腹を抱えて笑い、真に迫れば真剣にそれを聞いていた。

「でもなんだで、おら変な気分だな。悲しいやら、寂しいやら……なんだでこれ」
「どうした?」
「小平太様さ大厄災が終わった後も此処で皆と暮らすだども、おらは水沢さ帰るだ」
「なんだ帰りたくないのか?」
「勿論帰りてえだども、なんだでな、帰りたくねえ気もするだよ、なんだでこれ、わかんね」
「では、此処に父を呼べば良いのではないか?」
「だ!」
「しかし了承するとは限らんぞ、何せ知らぬ土地だからな」
「んだな、おとう頑固なとこあるだで」

 翌日には小笠原からも返答があり、小平太が率いる大沢の忍びは千弦が直属の扱いとして許された。住居は岡本の与かるこの地とし、人数が判明次第早急に建築を始めると言う。

 小平太は藤十郎と共に岡本の屋敷と社殿へと伺い挨拶を済ませると、藤十郎が用意した馬にすずと共に乗り、東山道を目指したのであった。

 小平太の籠には彦左衛門の計らいで食料が満たされ、すずが担ぐ棒には洗ったばかりの藍色の着物と腰巻が干されていた。

「なんだ出立だと言うのに着物を洗ったのか?」
「……んだ」

 すずは返答に困っているようだが、寝小便をしたなど余計な事を小平太が言う事は無い。昨日緊張のあまり水ばかり飲んでいた上に、心労が重なった事が原因であろう。寝起きのやってしまったと言わんばかりのあの顔を思い出せば、口元が緩むばかりである。
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