狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

文字の大きさ
上 下
151 / 190

151

しおりを挟む
 馬に乗って去っていくビクターを窓から見送っていると、知らせに行く前にアトラスが来た。リオの名を呼ぶと同時に扉を開けて、突進してきた。

「リオ!ビクターさんは何の用事だったの?」
「特別な風邪薬を持ってきてくれたんだよ。すごいよ、もう鼻づまりが治ってきた」

 アトラスの肩を押しながら、リオは部屋の中央まで戻る。
 二人のやり取りを、扉の近くで伏せているアンが、静かに見ている。
 アトラスは安心したように「そうか、よかった」と笑った。

「それよりも、アトラスもシズもニコラさんも、荷物をまとめてくれる?王城に行くよ」
「え?なんで?」

 今度は目を丸くするアトラスに、ギデオンと正反対で、本当に表情が豊かだなとリオは感心する。

「ここは危険だから。王城の方が安全だから来いって。ビクターさんが」
「危険?なんで?誰かに狙われてるの?」
「昨夜、窓の外にケリーがいた。こちらを見上げて、迎えに行くって言ったんだ」
「えっ!あいつ何してんの?迎えに…って、リオを?」
「そうみたい」
「わかった!俺がシズとニコラさんにも言っておく!リオは早く荷物まとめて!少しでも異変があったら、すぐに知らせに来いよ?というかアン、リオを守れ」

 アンが『おまえに言われなくとも心得ている』というように、ゆっくりと立ちあがり、鋭い目つきでアトラスを見る。
 アンに睨まれたアトラスは、少しひるんだ様子で、「じゃあ後で!」と部屋を飛び出した。
 リオはアンの背中を撫でながら苦笑する。

「アトラスといると、緊張感がなくて困る。まあ楽しいからいいけど」

 アンはリオを見ると、鼻から息を吐き出して、その場に伏せた。
 その様子を見て、アトラスは完全にアンには下に見られてるな、とリオは更に苦笑した。


 宣言通り、ビクターは半刻で戻ってきた。
 すでに支払いを済ませ、馬に荷物をくくりつけて、宿の前で待っていたリオとアトラス、シズとニコラは、ビクターの下へ集まる。
 リオはビクターから偽の身分証を受け取ると、首にかけていた本物の身分証を鞄に入れ、偽の身分証を首にかけた。
 そしてビクターを先頭に出発する。
 王城までは、四半刻もかからない。そんな短い王城までの道中で、事件が起こる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダブルスの相棒がまるで漫画の褐色キャラ

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
ソフトテニス部でダブルスを組む薬師寺くんは、漫画やアニメに出てきそうな褐色イケメン。 顧問は「パートナーは夫婦。まず仲良くなれ」と言うけど、夫婦みたいな事をすればいいの?

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

パブリック・スクール─薔薇の階級と精の儀式─

不来方しい
BL
 教団が営むパブリックスクール・シンヴォーレ学園。孤島にある学園は白い塀で囲まれ、外部からは一切の情報が遮断された世界となっていた。  親元から離された子供は強制的に宗教団の一員とされ、それ相応の教育が施される。  十八歳になる頃、学園では神のお告げを聞く役割である神の御子を決める儀式が行われる。必ずなれるわけでもなく、適正のある生徒が選ばれると予備生として特別な授業と儀式を受けることになり、残念ながらクリスも選ばれてしまった。  神を崇める教団というのは真っ赤な嘘で、予備生に選ばれてしまったクリスは毎月淫猥な儀式に参加しなければならず、すべてを知ったクリスは裏切られた気持ちで絶望の淵に立たされた。  今年から新しく学園へ配属されたリチャードは、クリスの学年の監督官となる。横暴で無愛想、教団の犬かと思いきや、教団の魔の手からなにかとクリスを守ろうする。教団に対する裏切り行為は極刑に値するが、なぜかリチャードは協定を組もうと話を持ちかけてきた。疑問に思うクリスだが、どうしても味方が必要性あるクリスとしては、どんな見返りを求められても承諾するしかなかった。  ナイトとなったリチャードに、クリスは次第に惹かれていき……。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ
BL
主人公の陽向(ひなた)には現在、アイドルとして活躍している二つ年上の幼馴染みがいる。 生まれた時から一緒にいる彼―真那(まな)はまるで王子様のような見た目をしているが、その実無気力無表情で陽向以外のほとんどの人は彼の笑顔を見た事がない。 デビューして一気に人気が出た真那といきなり疎遠になり、寂しさを感じた陽向は思わずその気持ちを吐露してしまったのだが、優しい真那は陽向の為に時間さえあれば会いに来てくれるようになった。 そんなある日、いつものように家に来てくれた真那からキスをされ「俺だけのヒナでいてよ」と言われてしまい───。 ダウナー系美形アイドル幼馴染み(攻)×しっかり者の一般人(受) 基本受視点でたまに攻や他キャラ視点あり。 ※印は性的描写ありです。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

処理中です...