狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

文字の大きさ
上 下
113 / 202

113

しおりを挟む
 リオが困惑している間に、ギデオンは素早く準備を終え、再びリオの傍に来る。

「では行ってくる。リオ、必ず避難するんだぞ」
「うん…」

 ギデオンが頷き、離れていく。扉を開けて出ていこうとした瞬間、リオの身体が勝手に動き、ギデオンの手を掴んだ。
 ギデオンがゆっくりと振り向き、「どうした?」と優しい声を出す。
 リオは、掴んだ手を見つめて小さな声で言う。

「ギデオン…も、絶対に…無事で帰って…きて」
「約束する」

 笑って見送りたい。だけど今、顔を上げると、泣いてしまう。それに気づいたのかどうか。ギデオンが微かに笑った気配がした。そして握られた手とは反対の手でリオの頭を抱き寄せ、つむじにキスをする。
  手が離れギデオンが出て行く。扉が閉まり、リオはようやく顔を上げる。やはり我慢できなくて、泣いてしまった。流れる涙を袖で拭きながら窓へ走り、集まり始めた騎士達を見る。
 各領地から集まった騎士達のことはよく知らないけど、皆無事でいてほしい。誰一人、欠けないでほしい。今からでも遅くない。魔法が使えることを話して、一緒に行こうか。
 
「ひどい顔だな。心配しすぎだろ」

 悶々もんもんと考え込んでいると、いきなり大きな声がして驚く。窓の外にビクターがいた。
 リオは、慌てて鍵を外して窓を開ける。
 ビクターは、リオの顔をじっと見つめると、優しく笑った。

「おまえのそんな顔、初めて見たな。あいつのためか?案ずるな。いざとなれば、俺がギデオンを守ってやるよ」
「ビクターさん…」
「しかし泣きすぎだろ。おまえがそんな顔してたら、あいつも心配で出発できないぞ」

 リオは、慌てて両手で顔を拭う。泣き止んだと思っていたのに、勝手に涙が出てくる。
 ビクターの隣にアトラスも来て、「大丈夫?」と手巾を渡してくれる。

「ありがとう…大丈夫だよ」

 手巾しゅきんを受け取り、丁寧に顔を拭く。油断すると涙がこぼれそうになるけど、ぐっと喉の奥に力を入れて耐える。
 リオは手巾をアトラスに返すと、窓から身を乗り出して二人の手を握る。

「二人とも、必ず無事で帰ってきて。危険だと思ったら、迷わず逃げてきて」
「ああ」
「わかった」

 ビクターもアトラスも、リオの手を握り返して頷く。
 リオも頷き、手を離す。そして皆の元へ戻る二人を見送り、ほっと息を吐き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

おとなりさん

すずかけあおい
BL
お隣さん(攻め)にお世話?されている受けの話です。 一応溺愛攻めのつもりで書きました。 〔攻め〕謙志(けんし)26歳・会社員 〔受け〕若葉(わかば)21歳・大学3年

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

スローライフに疲れましたが、この結婚は予定外です。

猫宮乾
BL
 生まれつき痣があるせいで、ド田舎に保護された(捨てられた)俺の元に、ある日客人が訪れる。そしてその痣は伴侶の証であるから、結婚して欲しいと言われたが、よく聞くと、そこには愛が無かった。確かに俺は田舎でのスローライフに疲れていて都会に行きたいけど、同じくらい恋愛するのが夢なんだけどな!?※異世界ファンタジーです。あまり直接的な描写はありませんが、男性同士で子供が出来る世界観です。攻めが「げすい」「くずだ」というご意見を貰いがちな作品ですので、許せる方のみご覧願います。

もしかして俺の主人は悪役令息?

一花みえる
BL
「ぼく、いいこになるからね!」 10歳の誕生日、いきなりそう言い出した主人、ノア・セシル・キャンベル王子は言葉通りまるで別人に生まれ変わったような「いい子」になった。従者のジョシュアはその変化に喜びつつも、どこか違和感を抱く。 これって最近よく聞く「転生者」? 一方ノアは「ジョシュアと仲良し大作戦」を考えていた。 主人と従者がおかしな方向にそれぞれ頑張る、異世界ほのぼのファンタジーです。

処理中です...