狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 つい見入ってしまういい笑顔。俺しか見たことないのかな。だとしたら嬉しいかも…。
 ギデオンがリオの視線に気づき、瞬時にいつもの顔に戻る。

「なんだ」
「ギデオンは本当に顔がいいね。笑顔も素敵だよ」
「バカめ。おまえこそ、そういうことは好きな人に言え」
「あははっ、そうだよな!」

 今度はリオが口を開けて笑う。
 こんな冷たくて怖そうなギデオンと、ここまで軽口を叩けるようになるとは思わなかった。しかも会話をしていて楽しい。人って見かけで判断しちゃダメだよな。これからは気をつけよう。
 反省も込めてリオは一人頷く。
 そんなリオをギデオンが目を細めて見ている。優しい顔をしている。もう目線を逸らしてしまったリオは、そのことに気づいていないけれど。
 リオは、ギデオンの表情がわかるようになってきたことで、自分が特別になったような気がして気分が良かった。でもまあ、ゲイルが一番ギデオンのことをわかってそうだけど。
 
「リオ、新しいシャツとズボンがそこに置いてある。昨日まで着ていた服は洗濯に出している。しばらくは着ないだろうから、洗濯が終われば洋服棚にしまっておけばいい」
「ありがとう」

 寝衣ねまきを脱ぎ、既にズボンを履いたギデオンが、シャツのボタンを止めながら話す。
 以前にも見たけど、綺麗な筋肉に、リオの目は釘付けだ。
 リオももたもたと寝衣を脱いで、棚の上のズボンを履きシャツを羽織る。そしてボタンを止める前に自身の腹を撫でて小さく息を吐き口を開いた。

「なあ、今から俺は何をすればいいんだ?」
朝餉あさげの後は自由にしてくれていい」
「でもそれだと暇じゃん。他に仕事があれば言ってよ」
「ふむ…、ならば馬の世話の手伝いを頼もうか。リオは馬の扱いに長けていたからな」
「いいよ。でもそれでも時間があるじゃん」

 上着も羽織って着替え終えたギデオンが、「ふむ」と腕を組んでリオを見つめる。
 あまりにも真っ直ぐに見つめられて、リオはなぜか急に恥ずかしくなり、急いでボタンを止めてベストを着た。

「リオは庭仕事はできるか?」
「…できるよ」
「では気が向いた時でいいから、庭仕事も手伝ってもらおうか」
「わかった。それでも時間が残るだろ?」
「まあそうだな」
「じゃあさ、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「騎士って鍛錬とかしてるんだろう?俺も参加したい」
「いいが…なぜ」
「もっと筋肉をつけたい!」
「筋肉……いるのか?」
「いる!それに体力もつけたい。…ギデオンは雇い主だからちゃんと話しておこうと思う。実はさ、一昨日みたいに倒れることがたまにあるんだ。俺の身体が弱いからだと思うんだけど」
「なに?たまにあるだと?それは医師に診てもらわねばならない」
「えっ?いやいいって。ただの体力不足だから。でも、心配してくれてありがとう」
「リオがいいと言うならいいが。何かあればすぐに言ってくれ」
「うん」

 本当に心配そうに、ギデオンが見てくる。
 母親が死んでからそんな風に本気で心配されたことが無かったから、リオは嬉しくて感動して泣きそうになった。
 だけど再び腹が鳴り、笑いをかみ殺した様子のギデオンに連れられて、すぐに食堂へと向かった。
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