炎の国の王の花

明樹

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城の裏には大きな湖があった。その湖に沿って進み、平屋の石造りの建物の前で止まる。
この中に男がいるらしい。だけどそれよりも、目の前の景色に釘付けになる。冬の朝の陽光に照らされて、波の動きに合わせてキラキラと輝く湖面が美しい。湖面を渡る風が冷たくて肌を刺すけど、いつまでも見ていられる。

「美しいな…」

思わず口からこぼれた。この景色を、愛する人と見たい。ハオランと見たい。

「でしょう?水の国には、このような場所がたくさんある。ぜひ他の場所も、いつか案内したい」

アレン王子が、とても綺麗な笑顔で言う。自慢の国なのだろう。俺だってそうだ。炎の国を自慢に思う。

「そうだな。ぜひお願いしたい。ところでアレン王子、この建物が牢なのか?」
「そう。入った所に門番の部屋があって、地下に牢があるんだ」

俺と同じように建物に目を向けながら、アレン王子が説明をしてくれる。どこの国も牢は地下にあるものだなと頷いていると、続くアレン王子の言葉にゾッとした。

「牢の湖側の壁にね、穴があいてるんだ」
「え…」
「拷問や処刑の時に、穴を塞いでる栓を抜いて、水責めをするんだよ。誰が考えたのか、むごいよね」
「あ、ああ…」

まだあどけなさの残るアレン王子が言うと、すごく怖い。そうか、水責め…。もしかして俺が知らないだけで、炎の国の拷問に火責めがあったりする?
ちらりとリオを見ると、フイと目を逸らされた。やっぱりあるんだなと納得して、考える。全ての国民には痛みも辛さも感じずに幸せでいてほしい。だけど人に酷いことをする悪人が必ずいる。罪に対しての様々な罰は必要だ。罰が軽いと悪人が増えてしまうから。その罰の中に、火責めがあるのだろう。
王は国を治めるのが仕事だ。罪の重さに応じて罰を決める役人は、別にいる。俺が酷い処罰はやめろと言っても無理だ。簡単に悪人を許すことはできない。恩赦を出すにしても、ホルガーやシアン、ローラントおじさんやたくさんの役人での話し合いが必要だ。ならば、悪人を出さないよう、もっと国を豊かに…。

「カエン様」

リオの声によって思考が遮られた。
俺は「なんだ」と振り返る。

「わかりますよ、俺には。あなたの考えていることが。それはいくら考えても不毛です。厳しい処罰がないと国が成り立ちません」
「…わかっている。少し考えただけだ」
「そうですか。でも考えるのはよいことです」
「なんか…リオに言われると腹立つ」
「はい?なんで?」
「帰ったら魔法の稽古に付き合わせてやる」
「ええっ!嫌ですよっ!死んじゃうっ」

本当にいい年をしてるのに騒がしいやつだな。俺は呆れて息を吐く。ふと横を見ると、アレン王子とナジャが、目を丸くしてリオを見ていた。その様子が面白かった。


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