420 / 432
58
しおりを挟む
城の裏には大きな湖があった。その湖に沿って進み、平屋の石造りの建物の前で止まる。
この中に男がいるらしい。だけどそれよりも、目の前の景色に釘付けになる。冬の朝の陽光に照らされて、波の動きに合わせてキラキラと輝く湖面が美しい。湖面を渡る風が冷たくて肌を刺すけど、いつまでも見ていられる。
「美しいな…」
思わず口からこぼれた。この景色を、愛する人と見たい。ハオランと見たい。
「でしょう?水の国には、このような場所がたくさんある。ぜひ他の場所も、いつか案内したい」
アレン王子が、とても綺麗な笑顔で言う。自慢の国なのだろう。俺だってそうだ。炎の国を自慢に思う。
「そうだな。ぜひお願いしたい。ところでアレン王子、この建物が牢なのか?」
「そう。入った所に門番の部屋があって、地下に牢があるんだ」
俺と同じように建物に目を向けながら、アレン王子が説明をしてくれる。どこの国も牢は地下にあるものだなと頷いていると、続くアレン王子の言葉にゾッとした。
「牢の湖側の壁にね、穴があいてるんだ」
「え…」
「拷問や処刑の時に、穴を塞いでる栓を抜いて、水責めをするんだよ。誰が考えたのか、むごいよね」
「あ、ああ…」
まだあどけなさの残るアレン王子が言うと、すごく怖い。そうか、水責め…。もしかして俺が知らないだけで、炎の国の拷問に火責めがあったりする?
ちらりとリオを見ると、フイと目を逸らされた。やっぱりあるんだなと納得して、考える。全ての国民には痛みも辛さも感じずに幸せでいてほしい。だけど人に酷いことをする悪人が必ずいる。罪に対しての様々な罰は必要だ。罰が軽いと悪人が増えてしまうから。その罰の中に、火責めがあるのだろう。
王は国を治めるのが仕事だ。罪の重さに応じて罰を決める役人は、別にいる。俺が酷い処罰はやめろと言っても無理だ。簡単に悪人を許すことはできない。恩赦を出すにしても、ホルガーやシアン、ローラントおじさんやたくさんの役人での話し合いが必要だ。ならば、悪人を出さないよう、もっと国を豊かに…。
「カエン様」
リオの声によって思考が遮られた。
俺は「なんだ」と振り返る。
「わかりますよ、俺には。あなたの考えていることが。それはいくら考えても不毛です。厳しい処罰がないと国が成り立ちません」
「…わかっている。少し考えただけだ」
「そうですか。でも考えるのはよいことです」
「なんか…リオに言われると腹立つ」
「はい?なんで?」
「帰ったら魔法の稽古に付き合わせてやる」
「ええっ!嫌ですよっ!死んじゃうっ」
本当にいい年をしてるのに騒がしいやつだな。俺は呆れて息を吐く。ふと横を見ると、アレン王子とナジャが、目を丸くしてリオを見ていた。その様子が面白かった。
この中に男がいるらしい。だけどそれよりも、目の前の景色に釘付けになる。冬の朝の陽光に照らされて、波の動きに合わせてキラキラと輝く湖面が美しい。湖面を渡る風が冷たくて肌を刺すけど、いつまでも見ていられる。
「美しいな…」
思わず口からこぼれた。この景色を、愛する人と見たい。ハオランと見たい。
「でしょう?水の国には、このような場所がたくさんある。ぜひ他の場所も、いつか案内したい」
アレン王子が、とても綺麗な笑顔で言う。自慢の国なのだろう。俺だってそうだ。炎の国を自慢に思う。
「そうだな。ぜひお願いしたい。ところでアレン王子、この建物が牢なのか?」
「そう。入った所に門番の部屋があって、地下に牢があるんだ」
俺と同じように建物に目を向けながら、アレン王子が説明をしてくれる。どこの国も牢は地下にあるものだなと頷いていると、続くアレン王子の言葉にゾッとした。
「牢の湖側の壁にね、穴があいてるんだ」
「え…」
「拷問や処刑の時に、穴を塞いでる栓を抜いて、水責めをするんだよ。誰が考えたのか、むごいよね」
「あ、ああ…」
まだあどけなさの残るアレン王子が言うと、すごく怖い。そうか、水責め…。もしかして俺が知らないだけで、炎の国の拷問に火責めがあったりする?
ちらりとリオを見ると、フイと目を逸らされた。やっぱりあるんだなと納得して、考える。全ての国民には痛みも辛さも感じずに幸せでいてほしい。だけど人に酷いことをする悪人が必ずいる。罪に対しての様々な罰は必要だ。罰が軽いと悪人が増えてしまうから。その罰の中に、火責めがあるのだろう。
王は国を治めるのが仕事だ。罪の重さに応じて罰を決める役人は、別にいる。俺が酷い処罰はやめろと言っても無理だ。簡単に悪人を許すことはできない。恩赦を出すにしても、ホルガーやシアン、ローラントおじさんやたくさんの役人での話し合いが必要だ。ならば、悪人を出さないよう、もっと国を豊かに…。
「カエン様」
リオの声によって思考が遮られた。
俺は「なんだ」と振り返る。
「わかりますよ、俺には。あなたの考えていることが。それはいくら考えても不毛です。厳しい処罰がないと国が成り立ちません」
「…わかっている。少し考えただけだ」
「そうですか。でも考えるのはよいことです」
「なんか…リオに言われると腹立つ」
「はい?なんで?」
「帰ったら魔法の稽古に付き合わせてやる」
「ええっ!嫌ですよっ!死んじゃうっ」
本当にいい年をしてるのに騒がしいやつだな。俺は呆れて息を吐く。ふと横を見ると、アレン王子とナジャが、目を丸くしてリオを見ていた。その様子が面白かった。
0
お気に入りに追加
1,656
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!
をち。
BL
公爵家の3男として生まれた俺は、家族からうとまれていた。
母が俺を産んだせいで命を落としたからだそうだ。
生を受けた俺を待っていたのは、精神的な虐待。
最低限の食事や世話のみで、物置のような部屋に放置されていた。
だれでもいいから、
暖かな目で、優しい声で俺に話しかけて欲しい。
ただそれだけを願って毎日を過ごした。
そして言葉が分かるようになって、遂に自分の状況を理解してしまった。
(ぼくはかあさまをころしてうまれた。
だから、みんなぼくのことがきらい。
ぼくがあいされることはないんだ)
わずかに縋っていた希望が打ち砕かれ、絶望した。
そしてそんな俺を救うため、前世の俺「須藤卓也」の記憶が蘇ったんだ。
「いやいや、サフィが悪いんじゃなくね?」
公爵や兄たちが後悔した時にはもう遅い。
俺には新たな家族ができた。俺の叔父ゲイルだ。優しくてかっこいい最高のお父様!
俺は血のつながった家族を捨て、新たな家族と幸せになる!
★注意★
ご都合主義。基本的にチート溺愛です。ざまぁは軽め。
ひたすら主人公かわいいです。苦手な方はそっ閉じを!
感想などコメント頂ければ作者モチベが上がりますw
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
俺が総愛される運命って誰得ですか?
もふもふ
BL
俺が目覚めた時そこは、武器庫だった。あれ?ここどこだ?と思いつつドアを開けると...そこには見たことも無い光景があった。
無自覚主人公とイケメン騎士達の物語
※はR18要素含みます
【注】不定期更新です!
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる