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森の中をあてもなく歩き回る。そう簡単にハオランが見つかるわけもなく、しばらく捜しては足を止めてため息をつくことを繰り返した。
「闇雲に捜してもなぁ。どうすればいいんだろ…」
「まあ確かに。でもハオランは、気づいたらこの森にいたと話してたんですよね?でしたら戻ってくるならここのはずなんですが」
「カナもそうだったんだっけ?」
「はい」
「父さまはカナが戻ってくることがわかってたの?」
「いつ戻るかはハッキリとわかってなかったと思います。しかしカナが戻る数日前から、心が騒いで落ち着かないとは仰られてました」
「あー…じゃあまだ戻ってこないのかな。ハオランが消えて不安な気持ちで落ち着かないけど、心が騒いではいないから」
「なるほど…」
俺は疲れて大きな木にもたれた。
目の前でリオが腕を組み、何かブツブツと呟いている。真剣にどうすればハオランが戻って来るのかを考えてくれているのだろう。
リオは軽くて頼りないところもあるが、俺が生まれた時から世話をしてくれている。何もしなくても、傍にいてくれるだけで心強いんだ。
俺は木から離れると、空を仰いで両腕を伸ばした。雲ひとつない空が眩しくて目を細める。ここは静かだ。時おり吹く風に揺らされる葉の音と、鳥のさえずりしか聞こえない。少しだけ穏やかな気持ちになって耳を澄ませていると、かすかに水の音が聞こえきた。
「リオ、近くに川がある」
「え、ほんとに?」
「うん、水の音がする」
「ほぇ…カエン様の五感は素晴らしいですねぇ」
間の抜けた顔で答えるリオに笑って、俺は水の音がする方へと進んだ。広い間隔で生えている木々の間を進んでいくと、緩やかな斜面の下に小さな川が流れているのを見つけた。
川に近づきしゃがんで手を浸す。とても冷たくて気持ちがいい。
すぐにリオも隣に来て、同じように手を浸している。
「冷たっ。きれいな水ですね。森の向こう側にある山から流れてきているのでしょう」
「そうだな…」
山の雪解け水が流れてきているのか。冷たくてきれいなはずだ。
充分に手を冷やして立ち上がる。その時、川を挟んだ向こう側に穴を見つけた。小さな洞窟だ。
俺は遅れて立ち上がったリオの腕を掴む。
「リオ、あそこを見て。洞窟がある」
「え?あ、ほんとだ」
「行ってみよう」
「え、待って。変な生き物とかの巣じゃないでしょうね…」
「大丈夫だろ」
「いやいや…あっ、待ってください!もっと用心してっ…」
「おまえはうるさいなぁ。そんな大声出してたら、変な生き物が飛び出してくるかもよ」
「…え?」
リオがピタリと黙る。
リオって本当に単純でおもしろい。
俺はククッと笑いながら川の中に飛び飛びにある石を踏んで向こう岸に渡った。そして洞窟の前で足を止めて注意深く中を覗く。
「なにかいます?」
リオが俺の背中から顔を出して囁いた。
普通こういう時って部下が先に調べるもんじゃないの?と思いながら「いないよ」と笑う。
俺は手のひらに炎を出すと、足下を照らしながら中へ入った。
「闇雲に捜してもなぁ。どうすればいいんだろ…」
「まあ確かに。でもハオランは、気づいたらこの森にいたと話してたんですよね?でしたら戻ってくるならここのはずなんですが」
「カナもそうだったんだっけ?」
「はい」
「父さまはカナが戻ってくることがわかってたの?」
「いつ戻るかはハッキリとわかってなかったと思います。しかしカナが戻る数日前から、心が騒いで落ち着かないとは仰られてました」
「あー…じゃあまだ戻ってこないのかな。ハオランが消えて不安な気持ちで落ち着かないけど、心が騒いではいないから」
「なるほど…」
俺は疲れて大きな木にもたれた。
目の前でリオが腕を組み、何かブツブツと呟いている。真剣にどうすればハオランが戻って来るのかを考えてくれているのだろう。
リオは軽くて頼りないところもあるが、俺が生まれた時から世話をしてくれている。何もしなくても、傍にいてくれるだけで心強いんだ。
俺は木から離れると、空を仰いで両腕を伸ばした。雲ひとつない空が眩しくて目を細める。ここは静かだ。時おり吹く風に揺らされる葉の音と、鳥のさえずりしか聞こえない。少しだけ穏やかな気持ちになって耳を澄ませていると、かすかに水の音が聞こえきた。
「リオ、近くに川がある」
「え、ほんとに?」
「うん、水の音がする」
「ほぇ…カエン様の五感は素晴らしいですねぇ」
間の抜けた顔で答えるリオに笑って、俺は水の音がする方へと進んだ。広い間隔で生えている木々の間を進んでいくと、緩やかな斜面の下に小さな川が流れているのを見つけた。
川に近づきしゃがんで手を浸す。とても冷たくて気持ちがいい。
すぐにリオも隣に来て、同じように手を浸している。
「冷たっ。きれいな水ですね。森の向こう側にある山から流れてきているのでしょう」
「そうだな…」
山の雪解け水が流れてきているのか。冷たくてきれいなはずだ。
充分に手を冷やして立ち上がる。その時、川を挟んだ向こう側に穴を見つけた。小さな洞窟だ。
俺は遅れて立ち上がったリオの腕を掴む。
「リオ、あそこを見て。洞窟がある」
「え?あ、ほんとだ」
「行ってみよう」
「え、待って。変な生き物とかの巣じゃないでしょうね…」
「大丈夫だろ」
「いやいや…あっ、待ってください!もっと用心してっ…」
「おまえはうるさいなぁ。そんな大声出してたら、変な生き物が飛び出してくるかもよ」
「…え?」
リオがピタリと黙る。
リオって本当に単純でおもしろい。
俺はククッと笑いながら川の中に飛び飛びにある石を踏んで向こう岸に渡った。そして洞窟の前で足を止めて注意深く中を覗く。
「なにかいます?」
リオが俺の背中から顔を出して囁いた。
普通こういう時って部下が先に調べるもんじゃないの?と思いながら「いないよ」と笑う。
俺は手のひらに炎を出すと、足下を照らしながら中へ入った。
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