炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
366 / 432

4

しおりを挟む
男の背後にいた兵達が、慌てて左右に逃げる。
うん、皆よくわかってる。一応力を抑えるけど、俺の攻撃範囲内にいるのは危険だからね。

俺は、掌から炎を飛ばした。炎はまるで生き物のように、男に襲いかかる。
男は、黒い雷の壁を作って防ごうとした。
あの雷もかなりの威力だけど、たぶん無駄だよ。
炎は雷の壁を突き破り、男の胸を目掛けて進む。
すんでのところで男が避け、炎は男の左肩を貫いた。
この一連の流れは、瞬き一瞬の間のことだ。

「ぐっ…」
「え、避けちゃう?素早いね」

俺は、素直に驚いた。
この男、魔法の力も強いし反射神経もいい。
何も姑息な手を使わなくても、普通に頑張れば、元いた世界でも重宝されたんじゃないの?

俺は、今度は左手に青い炎を出した。
後ろから、シアンが咎める声を出す。

「カエン様、それはやり過ぎでは…」
「え?そうかなあ」

振り向いて、シアンに首を傾けてみせる。

「下手すると、この広場が消し飛びかねません」
「…それは困るね。わかったよ、シアン」

俺は前を向くと、左手の炎を青から黄色に変えた。

「これくらいならいいよね?」
「まあ…。壊さない程度にしてくださいよ」
「わかってる」

左肩を押さえてこちらを睨む男に向かって、再び炎を飛ばす。
男が慌てて黒い雷をこちらに飛ばしたけど、黄色い炎は、その黒い雷を飲み込んで進み、男の腹に当たった。
衝撃で男の身体が数十メートル後ろに飛び、石畳に身体を打ちつけて転がる。
もう立ち上がれないだろうと思ったのに、男がまだ、呻きながら起き上がろうとする。

「あんた、本当に丈夫だね。まだ動けるんだ?なら次はこの炎で…」

俺は、今度は右手に白い炎を出した。
途端にシアンが、慌てて俺を止める。

「カエン様!それは駄目です!それ以上は城が壊れてしまいます。もうその男は、立ち上がれない様子…。捕らえて地下牢に閉じ込めます。この戦いは、これで終わりです」
「でも念には念を…」
「駄目です。見てごらんなさい、あの男の腹を。ひどく焼けただれています。早く治癒の魔法を施さないと死んでしまいます。あの男には、聞かねばならないことがある。今死なせる訳にはいきません。後は俺に任せてください。それよりも…どうしますか?カエン様も海辺の城へ行かれますか?」

俺は、チラリと男に目を向けて、白い炎を消す。そしてシアンに向き合うと、「そうだな」と頷いた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

俺が総愛される運命って誰得ですか?

もふもふ
BL
俺が目覚めた時そこは、武器庫だった。あれ?ここどこだ?と思いつつドアを開けると...そこには見たことも無い光景があった。 無自覚主人公とイケメン騎士達の物語 ※はR18要素含みます 【注】不定期更新です!

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される

希咲さき
BL
 「もう、こんなとこ嫌だ…………」  所謂王道学園と呼ばれる学校に通っていた、ごく普通の高校生の仲谷枢(なかたにかなめ)。  巻き込まれ平凡ポジションの彼は、王道やその取り巻きからの嫌がらせに傷つき苦しみ、もうボロボロだった。  いつもと同じく嫌がらせを受けている最中、枢は階段から足を滑らせそのままーーー……。  目が覚めた先は………………異世界だった。 ーーーーーーーーーーーーーーーー  自分の生まれた世界で誰にも愛されなかった少年が、異世界でたった1人に愛されて幸せになるお話。 *第9回BL小説大賞 奨励賞受賞 *3/15 書籍発売しました! 現在レンタルに移行中。3話無料です。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

処理中です...